ギム•リンギットの悪だくみ(後編)
「ハロー、ハロー。ご婦人方々、わしの名前はギム・リンギット。世の中の役に立つ世紀の大発明を皆さんに提供しようと思う!まだまだあるからみんなも着用しておくれ」
ここは貴族街の婦人服売り場の一角。
とりわけ人だかりを作っているのは白衣という場違いな姿をした一団の実演販売。それなりの年齢を重ねたマダムから花も恥らうような若い娘と様々な女性たちがいる
今この場所でこの男が作った自称世紀の発明に立ち会える機会を心待ちにしているのだ
「このインナーは着用した者のボディーラインを理想のものに作り変えてくれる代物ぢゃ。身につけて10分待てば脱いだ後も効果を一生維持してくれる優れもの!モデル体型も夢ではないぞい!」
婦人たちから歓声を浴び、ジジイとその連中はデレデレと嬉しそうだ
|(くそっ、そのインナーを着たらスライムに寄生されるんだぞ)
作戦を決行すべく、物陰に隠れて一部始終を眺めているが、どうもこの男は罪への自覚というものはないようだ。
これからどんな惨状が待ち構えているとも知らずに
「わしが作った、長年の実験の結果。これを完成させるために何度爆発したことか。長年の努力は無駄じゃなかったよー。オーイオイオイ!」
感激のコメディーチックな夥しい量の涙を流しておいおい泣く老人にバックに並ぶ助手たちもコミカル調にハンカチを手に取り泣いたフリをし、挙句わかりやすいレベル不敵な笑みまで浮かべている。
あくまでゲームマスターははコメディ路線で突き進めたいのだろう。人命がかかっている依頼なのにあまりにも命を軽視しすぎだ
一秒どころか刹那でも早く帰りたくなった
爆発に巻き込まれたというがこのギャグ展開を考えればせいぜい黒焦げになって髪の毛がチリチリになった程度だろう
あわよくばその爆発で死ねばいいのにとさえ思った
「マズいぞカズナリ、【魔力探索】を使用した限りじゃもう着用してる人もいるみたいだぜ」
未然に防ごうと考えていたが、もう手遅れのようだ。
早いところ目標のインナーの特徴を探さなければ
「インナーはデザインはバラバラだけど色は紫統一。黒い蛇の刻印のようだ」
【視野強化】を使用した貧乳派が、ギムの持っているインナーを見ていう。
「みんな、聞いたな!色は紫、黒い蛇の刻印だ!作戦は一刻を争う、手筈の通り頼むぞ」
「おう!!」
【テレパシー】のスキルで通達をした後、俺たちは行動に出た
味方の【神風】スキルが発動、全員のスピードが上昇、文字通り俺たちは効果がきれないうちにインナーを掠め取る。
「思い描いてた展開とは違うけど、満足いく結果になったぜ、オイ!」
どうやらギムが配布した全てのインナーは回収できたようだ
仲間が喜びの声を上げる。正直〈ドンガメ亭〉のみんなと参加しなくてよかったと思った
「な、なんだ」
「な、ない!ない!!」
「私のインナーはどこ!?」
つむじ風とインナーを盗まれたことでパニックが起こる。事態を収拾と共に一般人への説得のために俺は前へ出る
「みんな、よく聞け。この男が作ったインナーは理想の体型をにする魔法のインナーなんかではない!」
「ちょっと、どういうつもりよ!」
「新手のひったくり?衛兵に突き出してやるから!」
思った通り、俺たちの意見は聞いてはくれないようだ。罵詈雑言を浴びせかけてくる
「こんな状況で信じてくれと言っても信じてくれないだろうが、この男の作ったインナーは危ない代物なんだ!」
「一体何のつもりじゃ!わしの世紀の大発明にケチを、ケチを。けちをををををを」
講義を入れる博士だったが、途端に様子がおかしくなった
「カズナリ、あの博士のポケットにインナーを仕込ませておいたよ」
「よくやったぞ、エルディナ!」
そう、俺たちが【神風】場をひっかき回し派手に暴れる際にギムの白衣のポケットにインナーを入れてやったのだ
「あの男のポケットにインナーをいれた。ちょうど10分、この男がどうなるかみんな見てくれ!」
「げ、げげ、ゲェー、や、やめてくれれれれれれれれれれれ!」
するとどうだ、博士たちは自我を失いのたうち回ったのち
最後にはスライムの塊となってしまった
「見ろ!あのインナーは欠陥品という証拠だ!危うくここにいるみんなスライムになるところだったんだ!」
戸惑う女性陣。もはやこの場にいる誰もがカズナリたちを責めることは無くなった
「あとはこの魔物をやっつけたあと、作業員を捕縛して記憶処理すれば終わりだ、最後の仕事取り掛かるぞ!」
「はい!!」
かくしてギャグシナリオらしからぬ冴えたプレイで物語は終了した
ログアウトした俺は物語を振り返る
「結局『国を脅かす悪事』って、マッドサイエンティストの人騒がせな発明品だったんだな」
訂正する、確かに平和は脅かされていた。
魔物やギルドの存在隠し通してきたオラカイト王国としてはかなりの脅威ではあったし
実際スライムに寄生されたら何が起こるかわかったものではないからウソはついてない。
「・・・微妙な時間だ」
ヘッドセットを外すと午後四時を回っていた。
まだまだ時間はあるな、準備も済ましているしどうしようか迷っていたが外から鉄製の階段を登る音が聞こえた。
ここの賃貸はガラガラなので他の部屋の利用者ということではない
まだ集合時間より早いのに、もう来たのか?
ガチャ
「き、君は」
「あ、あなたは」
ドアを開けると見覚えのある顔がそこにあった
「アキナ?どうしてここに」
時は同じくしてゲーム運営会社(株)ショコラ•オ•ノワゼットは大きく揺らいでた
「ようなく痛みとデスペナルティでみんな大人しくなってたのに、最近強敵に挑むプレイヤーがまた増えてきたんだよね」
今回の件でやらかしたゲームマスターを前にヤガミは残念そうな顔をする
ヤガミが思い出すは先日の護衛任務、ゲームマスターが操るNPCが八綺衆のメンバーごと重要キャラを殺害、
その際に動揺した彼はプレイヤーに隙を作り殺されてしまったのだ
「子が親に勝てないようにプレイヤーがゲームマスターに勝つことがあっちゃダメ、負ける時は負けてやった時だけだと、前に言ったよね?」
「ですが」
「言い訳を聞きたくて呼んだわけじゃないんだよ。おい、イエスマン」
「「はい、喜んで♪」」
あまりにも場違いな明るい声で
笑顔のお面をつけたスーツを着た二人組の男性が入ると嫌がるゲームマスターの腕を掴んだ
「嫌だぁー!離せ!離してくれー!!」
「イキのいい彼なら神の心臓の供物になるだろう。連れて行け」
「「わかりましたー!」」
嫌がる男を陽気な二人組が部屋の外へと連れて行く
社長の機嫌を損ねた償いは彼の最期で払ってもらおう
「どうするよヤガミ、チートでも使うか?」
「だから部屋に入る時はドアから入れって言ってるよね?」
いつの間にやら部屋の片隅にヤブサの姿があった
だが、そんな粗相は気にしない。なぜなら彼は大親友だからだ
「その必要はないよ、何せ僕たちはゲームマスターだ。」
それに最近はプレイヤーたちが散々チートを使い、ゲームが不安定になっている。それにわざわざチートの存在を示唆するような流れにするのはあまり面白いことではない
ヤガミにはひとつ考えがあった
「相手が殴ってくるのなら殴れないルールを作ればいい。僕たちはルールブックだからね」




