一区切り
「ん?ヤナギバ、よく聞こえなかったな?もう一度言ってくれよ」
会社のオフィスを模した仮想空間に沈黙が流れる
現実を捨て、仮想世界に身を置いている俺にとって本名呼びされる事は嫌がらせ以外の何物でもないのだが
目の前にいるヤブサはそれを知ってわざわざ本名で呼びやがる。
いちいちムカつく野郎だ。
「依頼にホイホイついてきたカズナリたちをさ、お前とNPCでボコらせて、そこから途中乱入した俺が参加者を全員ブッ殺す。完璧な作戦じゃね。なんか問題でもあんの?」
「・・・今までの失敗の埋め合わせのためにも俺にカズナリを殺させてほしいお前のキャラは手出ししないでくれ」
一見、共同作戦の提案をしているように見えるが俺はかたくなに断った
なぜならコイツの言う「参加者」の中には俺も混じっているからだ。
いくらカズナリを倒せても俺が死んでしまっては元も子もない。
「・・・カズナリに対して恨みを持っているのはテメェだけじゃないんだぜ?部下にも見放された崖っぷちのお前の言うことを聞けってか?ヤガミからもアバターも貰ってないんだろ?ダメダメ」
とにかくこの男に手を引いてもらわなければ
そして俺は思いつく限りで奴の機嫌をとる行動を行った。そう土下座だ
「頼む、俺は後がないんだ」
しばし、流れる沈黙・・・そして
「ひゃーははははははははは!!」
深々と頭を下げていたのでその状況を見たわけではないが奴の笑い声で易々と想像できた
今すぐにでも頭を上げ「なにがおかしい」と言いたかったが全てが無駄になってしまう
「いいぜ、どのみち俺はカズナリの野郎が放棄した依頼の処理をしなきゃならなくなってよ、今回は譲ってやっから。せいぜいガンバれ!ヒャハハ!」
恥を捨てた分の功名か、この男は俺に作戦を任せてくれた
つい最近まではこんなことになるとは思わなかった
これはとてつもない屈辱だ
ただし、社長は最近食いっぱぐれが多くてマジおこだからよ、これ以上失敗してエサにならないよう気をつけるこったな」
高笑いをあげながらてヤブサはログアウトしたのを見ると俺はさんざんに悪態をついてやった
「俺のことを見下しやがって!、俺はお前がゲームマスターだと認めてないからな!縁故採用でしか仕事に入れないタコが!」
ナイトは守りに特化した職業
攻撃手段はあっても強力な技や飛び道具はほぼ皆無
仲間はあの弱虫女だけ
それならプレイヤーに偽装にしたNPCと敵NPCの物量攻撃で抑えこっちは高みの見物を決め込めばいい
仮に近づかれたとして俺には武器に対してでも無理矢理〈耐久力〉を付与して、一旦攻撃を受けたらその装備に永続的なカンストダメージを与えて永続的に壊れた扱いにするチートもある。
「今に見ていろ、カズナリの首を取って必ずあの座に返り咲いてやる!」
しかし、二つ大きな誤算が起こることを今の俺は気づけないでいたのだ
・・・
「カズナリちゃん、雑魚は任せてちょうだい!」
まず一つ、カズナリが《ドンガメ亭》時代のメンバーを連れてきた事だ。おまけに見慣れない女ホビットもMMO慣れしていると来た。
カズナリにぶつけた同伴者に偽装したNPCと敵モブがいとも簡単に片付けられてしまったのだ
それだけならいい。問題はこれからだ
カズナリを孤立させ、武器を破壊した。そこまではいい
だが、そこから予想もしなかった出来事が起こったのだ
バキャオ!!
「ぐげぇ!!」
躊躇いもなくカズナリが放った怒りの鉄拳が俺の顔面に炸裂すると
たちまち俺の体は宙を舞い、地面にたたきつけられたのだ
|(バカな・・・奴のパンチが、効く!?)
決定打に欠けるはずの奴の一撃により、戦闘に特化した俺の体力は半分以上消し飛んだのだ
「てめぇ、チートかそれぇ!?なぜテメェがこんな威力を出せんだよ」
「これは俺の・・・俺たちの怒りだ」
こ、答えになってねぇ〜!!
人間の精神を反映して威力が変わるなんて話は聞いたことねえぞ
いや、絶対何か仕掛けがあるはずだ・・・奴の振る舞いだってただの虚勢にきまってる
どんな手段を用いたかは知らんが、運営の息がかかっていない人間がチートなどできるわけがない
「裏で運営と手を引いて俺達を何度も危ない目に遭わせ・・・」
カズナリが拳を慣らしながら近づいてくる。ヤバい、目がマジだ
「あまつさえバオさんとメリダさんの思い出のクランを乗っ取り、俺だけならまだしもゴルさんやアキナまで追放させた」
拳を構え、殴る体制に入りだした。呆気にとられ、完全に先手を取られてしまった
「貴様の行った悪行の数々、その分だけお前を殴る。覚悟しろよ」
落ち着け。冷静になれ!考えろ
この状態を打開する方法。奴に一瞬でも隙を作る方法。
カズナリが殴り掛かる瞬間、俺はひらめいたのだ
「悪かったよぉおおおおおおお!!つい出来心だったんだぁ!」
「!?」
俺はカズナリの前で土下座をした。
本日二度目の土下座だ。思わぬ行動だったのだろうカズナリの殺気が薄らいだのを感じた
もう恥も外聞も捨ててやった。勝つためならいくらでも下げる頭はいくらでも用意してやる
「運営会社に金積めばトッププレイヤーになれるって言われたから・・・それでつい自分が偉くなったと思い込んで舞い上がっちゃったんだ。この通りだ、許してください!!」
たじろぎはしなかったが、奴が軽く躊躇しているのは感じ取った
「ごめん、ごめんよぉ。うっ、うっ、うう・・・」
ダメ押しのウソ泣き。映画俳優顔負けの名演技。奴の動きが完全に止まったのを感じた
「・・・いい大人がみっともない、さっさと顔を上げろ」
待っていたこれを!ギルドバウトオンラインで生きていくと誓った俺と新参者のお前の決定的な違い
それはどこまでもゲスになれるかどうかだ
奴を確実に仕留める絶好のチャンス!これを無駄にはしない
「ううっ、うふふ・・・うはははははは!!かかったなぁどこまでも救いようのない馬鹿がよぉおー【流星剣】!」
これは相手より先に攻撃した時、高い威力が出るスキル。目にもとまらぬ早い斬撃は、相手に迎撃の隙をも許さない
「死ねぇ、カズナリ!これでおしまいだ!!!」
勝った。やはり最後に勝つのは賢く立ち回れる人間なのだ
その剣はカズナリの首元を確かに捉えていた・・・
ザシュッ!!!
「ぐ、は・・・」
噴水のごとく夥しく飛びちる血液
だが、それは目の前にいる奴のものではない
「な、なぜだ・・・なぜ、俺が斬られ・・・」
「・・・お前が命乞いをしたとき事前に【反射】のスキルをかけておいた。」
【反射】名のごとく敵の攻撃をそのまま相手に撥ね返すスキル。強力ではあるが使用タイミングと回数制限で
使い勝手の悪いスキルである
「あり得ない、タイミングがシビアなこのスキルでどうしておれがやられんだ・・・」
「動向さえ知っていればいくらでも対処は出来るんだよ。特にプライドの高いお前が頭を下げる時点で十分予測できた」
俺の意識が遠のいていく。大量出血のバッドステータスによって体力がなくなりつつあるのだ
(死ぬ、俺が負けるのか?)
「これでお前のギルドバウト人生もおしまいだ。これに懲りて現実では真人間になることだな」
カズナリは背を向けて去っていく。奴の仲間の元に・・・
「う、ぐっ、うぅ・・・」
現実にもそしてこのネット世界にも居場所を失った俺にはそのすべてが妬ましく見える
俺は最後の力を振り絞り俺は奴めがけて刃を立てようとした
「テメェみたいなぽっと出のクズにおれが負けることなど万に一つ無いんだぁぁぁぁぁ!!!」
今度こそ、今度こそこいつを殺せる、そう思った瞬間だ
「【パリィ】!」
「えっ!?」
それは、攻撃を受け流すスキル。ギリギリまで引き付けてこれを行うことで安全かつスムーズに反撃を行うことができるという戦法
防御職でありながら敢えて取得する。これはほかでもない前のクランマスター・バオの戦法だ
完全に頭に血が上っていた俺は初歩的な戦法を見逃すほどに冷静さを欠いていた
「ま、待て、許ー」
そして俺が最期に見た光景は真近まで飛んできた拳だった
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「ワザンさんはズルをして武器の盾と武器を使えなくしたんですよね?それとワザンさんが吹き飛んだのと関係があるんですか?」
意味としてはそれで間違いはないが正確には「盾にしか存在しない〈損傷率〉を武器に付与したのちに永続的に損傷率が100%を超える攻撃をしたのだとアキナに説明した
「結局は剣と盾に蓄積されたダメージも俺が受けたダメージとして扱われて、それらを攻撃力に変換するかつ【怨恨】のスキルが俺のパンチに威力を上乗せしたんだ。」
「カズナリちゃんの武器を永続的に使えないようにするつもりが思わぬ結果を招いちゃったってわけね。」
自ら行った不正行為によって滅ぼされる
卑劣な手段に頼って最強を目指した人間らしい末路だ
「メリットしかないんじゃさ、エルちゃんに直してもらわない方が強いままでいいんじゃない?」
確かにサキの言う通りだ、エルディナが今までやってくれた不思議な力をわざわざ使わなくても
「そんなことをしたらワザン達と同じになってしまう。それに今回、改めてチートなんてロクなもんじゃないって思ったんだ」
「さすがカズナリちゃん。私が見込んだだけあるわね!」
俺の表明が嬉しかったのか店長に馬鹿力で羽交い締めにされるのだがその話はまた今度にしよう
リーダーであるワザンが倒れ、薄氷騎士団との戦いを終えたがエルディナの記憶探しの他にもやることはたくさんある。これであの連中が大人しくなるとも思えないしな
「このことを団長やゴルさんにも伝えたいとな」
それでも仕事を辞めた時のような心の中で爽やかな風が流れたような気がした
お待たせしすぎて申し訳ございませんでした。
次回で第一部終了となります。
第二部以降は九月までには投稿します。
これからもよろしくお願いします




