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鬼神龍魔呂のスローライフ生活  作者: 月神世一


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EP 14

「鬼龍、牙を剥く(後)」

「……あれ? おにいちゃんたち、どこ?」

避難しそびれた、憂が、戦場の片隅で、立ち尽くしていた。

そこへ——魔法の捕縛具を手にした傭兵が、忍び寄る。

「へへ……いたぞ。上玉だ。弁護士の、ガキだな。こいつを、人質に——」

傭兵の手が、憂に、伸びる。

「うわあああん! やだ! ママ! おにいちゃん!」

憂が、泣き叫んだ。

その声が——戦場の喧騒を、切り裂いて。

龍魔呂の、耳に、届いた。

龍魔呂の、世界が——一瞬、凍りついた。

子供の、泣き声。

子供の、悲鳴。

あの夜と、同じ。Death4の、引き金。固く封じた、扉が——ぎしり、と、軋む。赤黒い衝動が、心の底から、込み上げてくる。

『——うわあああん!! ママ! ママぁ!!』

あの、収穫祭の夜。この、同じ、声で。龍魔呂は、壊れた。Death4に、堕ちた。村を、滅ぼし、かけた。

だが。

(——違う)

龍魔呂は、奥歯を、噛み締めた。

(あの時の、俺じゃ、ねえ)

懐の、羊皮紙が。掟が。熱を、持つように、感じた。

『一、その地を守るべし』

リベラの、声が、蘇る。憂の、笑顔が、浮かぶ。村人たちの、信頼が、背中を、押す。

赤黒い衝動が——込み上げる、その寸前で。

龍魔呂は、それを、握り潰した。

暴走では、ない。

執行だ。

「——ユウから、離れろ」

龍魔呂の、声は。

低く。

冷たく。

そして——どこまでも、澄んでいた。

Death4の、虚ろな闇では、ない。掟を持つ、執行人の、明晰な、殺気だった。

次の、瞬間。

龍魔呂が——消えた。

「え——」

傭兵が、瞬きを、する間も、なかった。

気づけば、龍魔呂は、憂と、傭兵の、間に、立っていた。鬼神流の、神速の、歩法。そして——傭兵の、手首を、極め、捕縛具を、叩き落とし、当て身で、一撃。

傭兵は、声も、なく、崩れ落ちた。

死んでは、いない。

掟が——龍魔呂の、拳から、死を、削ぎ落としていた。

子供の前で。

子供を、泣かせた、悪党を。

殺さずに、沈めた。

「……っ、おにいちゃん!」

憂が、龍魔呂に、抱きついた。

龍魔呂は、その小さな身体を、しっかりと、抱き留め、そして——優しく、頭を、撫でた。

震える手では、なかった。

赤黒い闘気も、なかった。

ただ、温かく。守るための、手だった。

「……もう、大丈夫だ」

龍魔呂は、言った。

はっきりと。迷いなく。あの、最初の夜には、言えなかった、その言葉を。

「怖い思いを、させたな。……もう、大丈夫だ。ユウ」

憂が、龍魔呂の胸で、こくり、と、頷いた。

【空の上にて】

ユイは、それを、見ていた。

息を、詰めて。

子供の声に、龍魔呂が、反応した、あの瞬間——ユイは、また、あの暴走が、始まるのかと、身構えた。雷を、放つ、覚悟さえ、した。

だが。

龍魔呂は——壊れなかった。

子供の泣き声を、聞いて。あの、引き金を、引かれて。それでも、彼は、Death4に、堕ちなかった。

掟を、保ち。意志を、保ち。執行人として、子供を、救った。

『……たつまろ』

ユイの、瞳から。

涙が——光の雫が、こぼれた。

だが、それは、悲しみの、涙では、なかった。

『君は……克服したんだね』

『あんなに、君を、苦しめた、子供の泣き声。君を、何度も、壊した、あの、引き金を』

『君は……乗り越えた』

『もう、大丈夫だ、って。ちゃんと、言えた。あの夜、言えなかった言葉を、今、言えた』

ユイは、両手で、顔を、覆った。

ずっと、ずっと、見守ってきた。人形だった頃から。神に、なってからも。会いに、行けないまま。届かないまま。ただ、祈ることしか、できなかった。

その、たつまろが。

今、自分の力で——立っていた。

『よかった……本当に、よかった……!』

雷帝神の、嗚咽が。

夜明けの空に、紫電となって、静かに、瞬いた。

【地上・戦場】

龍魔呂が、掟を保って、戦う、その傍ら。

リベラは——別の戦いを、終わらせようと、していた。

「——時間切れじゃ」

彼女は、戦場の、後方。馬上で、戦況を、見守る、首魁の前に、ずいと、進み出た。手には、一枚の、書類。

「な、なんだ、貴様は」首魁が、苛立たしげに、言った。

「桜田リベラ。弁護士じゃ」リベラは、にやり、と、笑った。あの、昏い、修羅の笑みで。「あんたに、一つ、教えとくことが、ある。——あんたの、その、"奴隷売買許可証"。発行元の、印が、偽造じゃ。つまり、あんたの、商売は、ぜんぶ——違法じゃ」

「……は?」

「で、あんたは、今、この村を、武力で、襲った。希少種族を、攫おうと、した。その瞬間——あんたは、ただの、犯罪者に、なったんよ」

リベラは、書類を、突きつけた。

「うちは、もう、大陸中の、当局に、告発状を、送った。あんたの、後ろ盾だった、貴族も、政治家も——みんな、あんたを、切り捨てる。"違法な人攫いとは、知らなかった"とな。あんたは、もう、どこにも、逃げ場が、ない。世界中から、追われる、お尋ね者じゃ」

首魁の、顔が——みるみる、青ざめた。

「ば、馬鹿な……! 私には、貴族の、後ろ盾が——」

「だから、言うたじゃろ」リベラは、冷たく、笑った。「"切り捨てられる"とな。違法と、わかった商売に、誰が、付き合う? あんたは、もう——終わっとる」

それは——剣も、闘気も、使わない、戦いだった。

たった一枚の、書類で。

リベラは、巨大な、シンジケートの——息の根を、止めた。

魔獣は、龍魔呂が、無力化した。

傭兵は、村人たちが、要塞で、撃退した。

そして——首魁は、リベラが、法で、丸裸にした。

「ひ、退け! 退けえっ!」

逃げ場を、失った、首魁は——部隊を、見捨てて、逃げようと、した。

だが。

「逃がさねえ」

その前に——龍魔呂が、立ち塞がった。

砲は、もう、握っていなかった。掟が、言う。"カタギには手を出さず、悪は根絶やしに"。この男は、間違いなく、悪だ。だが——殺しは、しない。

「お前は——リベラに、引き渡す。法で、裁かれろ」

龍魔呂は、首魁の、馬を、当て身で、止め、男を、引きずり下ろし、地に、組み伏せた。

「ぐあっ! は、離せ、化け物!」

「化け物じゃ、ねえ」

龍魔呂は、静かに、言った。

「鬼神龍魔呂。掟を持つ——執行人だ」

その言葉に。

首魁は——抵抗を、やめた。

完全な、敗北だった。武力でも。法でも。何もかも。

ピコン。

『共同体を、守り抜きました』

『悪を、殺さず、法に委ねました』

『+3000 P』

これまでとは、桁の、違う、数字。

『おめでとうございます』

『累計ポイント、大幅到達——新カテゴリ「店舗・厨房設備」が、解放されました』

龍魔呂は、その、メッセージを、見て——わずかに、目を、見開いた。

店舗。厨房。

それは——まるで。

この戦いの、その先の、未来を。

神具が、指し示しているかのようだった。

戦いが、終わった。

朝日が、要塞となった、ポポロ村を、照らしていた。

一人の、犠牲者も、出さずに。一人の、希少種族も、攫われずに。村は——守り抜かれた。

村人たちが、歓声を、上げた。

「勝った! 勝ったぞ!」

「龍魔呂さんの、おかげだ!」

「リベラさんも! みんなも!」

そして——誰からとも、なく。

村人たちは、龍魔呂を、こう、呼び始めた。

鬼龍(きりゅう)さま」

「鬼龍さまの、おかげだ!」

かつて——Death4。死を呼ぶ、4番。誰からも、恐れられた、化け物。

その男が、今——「鬼龍さま」と。

守り神のように、呼ばれていた。

龍魔呂は、その呼び名に——戸惑い、そして、照れたように、目を、伏せた。

「……俺は、そんな、たいそうな、もんじゃ、ねえ」

「いいや」

リベラが、隣に、来て、言った。

血と、埃に、汚れた顔で。けれど、晴れやかに、笑って。

「あんたは、村を、守った。一人も、殺さず。一人も、死なせず。掟を、守り抜いて。……立派な、執行人じゃ。鬼龍さん」

龍魔呂は、リベラを、見た。

そして——憂が、龍魔呂の手を、ぎゅっと、握った。

「おにいちゃん、かっこよかった! ユウ、こわくなかったよ! だって、おにいちゃんが、まもってくれるって、しってたもん!」

その、言葉に。

龍魔呂の、胸が——熱く、なった。

守れた。

今度こそ。一人も、失わずに。守りたいものを、守れた。

別の世界で、守れなかった、すべての、代わりに。この世界で——龍魔呂は、ようやく。

「守る」ということを、成し遂げた。

二つの月が、薄れゆく、夜明けの空。

その、ずっと上で。

雷帝神ユイが——涙に濡れた顔で、けれど、誰よりも、幸せそうに。

地上の、鬼龍を、見守っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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