EP 12
「要塞の村」
「——襲撃が、来る」
リベラが、村の、寄合の場で、宣言した。
集まった、村人たち。月兎族の村長キャルル。人魚のリーザ。天使のキュララ。エルフのルナ。財務のニャングル。そして、龍魔呂。
「アバドン商会の、合法的な、乗っ取りは、うちが、潰した」リベラの声は、硬かった。「じゃが——奴らは、諦めとらん。今度は、力ずくで、来る。村を、襲って、希少種族を、攫う、つもりじゃ」
村人たちが、ざわめいた。
「そ、そんな……」キャルルが、長い兎の耳を、震わせた。「私たちを、攫いに……?」
「安心しんさい」リベラが、村人たちを、見回した。「うちらには——あの人が、おる」
全員の、視線が、龍魔呂に、集まった。
かつて、村人たちが、恐れ、遠ざけた、その男に。
だが今、その視線に——棘は、なかった。
「龍魔呂さん」キャルルが、おずおずと、言った。「あの……お願い、できますか。村を、守るのを……手伝って、ください」
龍魔呂は、村人たちの顔を、見回した。
かつて、自分を「化け物」と恐れた、村人たち。だが今、彼らは——自分を、頼っている。守ってくれと、頭を、下げている。
(……俺を、信じて、くれるのか)
胸が、熱くなった。
「……ああ」龍魔呂は、頷いた。「村は、俺が、守る。掟の、第二条だ。"その地を、守る"。——一人も、攫わせやしねえ」
龍魔呂の、準備は、村人たちの、想像を、超えていた。
まず、彼は、エンジェル・スマートフォンを、取り出した。
『所持ポイント:1250 P』
掟を結び、人を救い、村を満たし——コツコツと、貯めてきた、ポイント。今こそ、それを、使う時だった。
念じると、画面に、新しい、カテゴリが、解放された。
『おめでとうございます』
『累計ポイント1000P到達——新カテゴリ「建築・防衛資材」が、解放されました』
「……これだ」
龍魔呂は、次々と、地球の、防衛資材を、購入していった。
有刺鉄線。土嚢。鉄条網。投光器。そして——大量の、ロープと、滑車。
村人たちは、見たことのない、地球の、道具に、目を、丸くした。
「な、なんだ、この、トゲトゲの、針金は!?」
「これを、村の、周りに、張り巡らせる」龍魔呂は、てきぱきと、指示を、出した。「敵の、侵入経路を、絞る。むやみに、突っ込めば、この鉄線で、足止めされる。そこを——叩く」
龍魔呂の、戦術眼は、的確だった。
五年間の、闘技場。流浪の、日々。数え切れない、修羅場。その、すべてが——今、村を、守るための、知恵に、なっていた。
彼は、村の、地形を、読み、敵の、侵入路を、予測し、そこに、罠を、配置していった。土嚢で、防壁を、築き、鉄線で、進路を、絞り、投光器で、夜の、死角を、消す。
ポポロ村は、見る間に——要塞に、変わっていった。
ピコン。
『共同体を守るための、防衛準備を行いました』
『+400 P』
村人たちも、立ち上がった。
「私たちも、戦います!」
キャルルが、月兎族に伝わる、古武術の、構えを、取った。意外にも、村長は——かなりの、武闘派だった。
「うちも、やったるでー!」ニャングルが、算盤を、片手に、叫んだ。「経理の力、見せたるわ! ……いや、戦闘は、無理やけど、後方支援なら、任せとき!」
そして——意外な、戦力も、現れた。
「あのー……これ、使えませんか?」
エルフのルナが、おずおずと、差し出したのは——村の、魔農作物だった。
「これ、"ネタキャベツ"。投げると、ダジャレを、叫びながら、爆発するんです。あと、これは"たまんネギ"。食べると、три時間、我慢できなくなる、特殊な、ネギで……敵に、食べさせれば……」
「……それは」龍魔呂が、絶句した。「兵器、なのか?」
「ポポロ村の、特産品です!」ルナが、無邪気に、笑った。
龍魔呂は、頭を、抱えた。
(……この、世界は)
(やはり、わからん)
だが——使えるものは、何でも、使う。それが、修羅場の、鉄則だった。龍魔呂は、ネタキャベツと、たまんネギを、防衛物資の、リストに——渋々、加えた。
遠くで、ネギオが「ついに、我々、農作物が、戦力として、認められる時が——」と、感極まって、演説していた。
そして、リベラは。
龍魔呂の、要塞化とは、別の、"罠"を、仕込んでいた。
「これが、うちの、戦い方じゃ」
彼女は、一枚の、書類を、龍魔呂に、見せた。
「アバドン商会の、"奴隷売買許可証"。前に、言うたじゃろ。これに、不備が、ある、と」リベラの目が、光った。「こいつらは、この許可証で、"合法的に"、奴隷商売を、しとる、つもりじゃ。じゃが——この許可証は、発行元の、印が、偽造じゃ。つまり、無効。こいつらの、商売は、ぜんぶ——違法じゃ」
「それが、どう、罠になる」
「ええか、龍魔呂さん」リベラは、にやり、と笑った。「奴らが、村を、襲って、希少種族を、攫った、その瞬間。うちは、この、許可証の、無効を、大陸中の、当局に、突きつける。すると、どうなる?」
リベラの、声が、低く、なった。
「奴らは——"違法な、人攫い"として、大陸中から、追われる、お尋ね者に、なる。後ろ盾の、貴族も、政治家も、ぜんぶ、巻き添えじゃ。誰も、奴らを、庇えなくなる。……奴らが、村を、襲った、その瞬間が——奴らの、終わりの、始まりに、なるんよ」
龍魔呂は、その、リベラの、戦略に——舌を、巻いた。
(……こいつは)
(敵が、襲ってくるのを、待ってる)
(襲わせて、その瞬間に、法で、息の根を、止める、つもりだ)
武力で、迎え撃つ、龍魔呂。
法で、罠に、嵌める、リベラ。
二人の、力が——一つに、噛み合った時。
ポポロ村は、難攻不落の、要塞に、なる。
「……お前と、組むと」龍魔呂が、ぽつりと、言った。「悪党は、生きた心地が、しねえだろうな」
「ふふ」リベラが、笑った。「光栄じゃ」
決戦の、前夜。
龍魔呂は、いつものように、大鍋を、据え、村人たちに、炊き出しを、振る舞った。
最後の、腹ごしらえ。明日、村の、命運を、懸けて、戦う、仲間たちへの。
「みんな……食え」龍魔呂は、言った。「腹を、満たして、よく、寝ろ。明日は——勝つ」
村人たちは、温かいシチューを、すすりながら、龍魔呂を、見た。
「龍魔呂さん」キャルルが、言った。「私……最初は、あなたが、怖かったです。でも、今は……あなたが、いてくれて、本当に、よかった」
「俺もだ」「あたしも!」「龍魔呂さんは、村の、仲間だ!」
村人たちの、口々の、言葉が。
龍魔呂の、胸に、染みた。
かつて——どこにも、居場所が、なかった。Death4。死を呼ぶ、化け物。誰にも、必要とされず、誰からも、恐れられた、男。
だが、今——この、小さな村に。
龍魔呂は、確かに、「仲間」として、受け入れられていた。
ピコン。
『村の人々から、心からの信頼を得ました』
『あなたは、もう、よそ者では、ありません』
『+500 P』
龍魔呂は、その、メッセージを、見て——目を、伏せた。
熱いものが、込み上げてきそうに、なって。
それを、堪えるように、ただ、シチューの、鍋を、かき混ぜた。
その夜。
事務所の、屋根の上で。
龍魔呂は、一人、夜空を、見上げていた。
明日、戦いが、来る。村を、守る、戦い。掟を持ってから——いや、この世界に来てから、初めての、本物の、防衛戦。
(……守る)
龍魔呂は、拳を、握った。
(今度こそ、守る。一人も、失わねえ。一人も、攫わせねえ)
別の世界では、守れなかった。母を。ユウを。すべてを。
だが、この世界では——もう、二度と。
その、決意を、噛み締める、龍魔呂を。
空の、ずっと上から。
雷帝神ユイが、見つめていた。
『……たつまろ』
ユイは、微笑んだ。
『立派に、なったね。村のみんなに、信じてもらえて。守りたいものが、できて』
『大丈夫。明日は、きっと、勝てる』
『だって、君は——もう、一人じゃ、ないから』
ユイの、瞳に、明日への、わずかな、不安と。
それを、上回る、確かな、信頼が、宿っていた。
二つの月が。
決戦を、前にした、ポポロ村を。
静かに、静かに、照らしていた。
——そして、夜明けとともに。
地平線の、彼方に。
砂塵を、上げて、迫り来る——アバドン商会の、襲撃部隊の、姿が。
現れた。
その、先頭には。
鎖に、繋がれた——巨大な、魔獣の、影が、あった。




