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鴨と錦 -其の壱-



山崎さんから部屋を出て行ってからしばらくすると、スパンっと勢いよく襖が開き、二人の男が部屋に入って来た。


とてもがたいの良い大柄な男と

黒髪で目つきがとても鋭い男。


目つきの鋭さは土方さんといい勝負だな。


「近藤。呼ばれた故、来たがなんの用だ」


「先日言っていた巫女とやらでも来たのか」


たぶん大柄な男の方が筆頭局長の芹沢鴨。

そしてもう一人が局長の新見錦。


なんというか…すごくイメージ通りだ。


「ああ、その通り。こいつが魂の巫女だ。まだ力は開花してねえけどな。彩葉、筆頭局長の芹沢さんと局長の新見さんだ。挨拶しろ」


「お初にお目にかかります、天宮彩葉と申します。よろしくお願いします」


今度は梗夜に促され、頭を下げた。


「力が開花しておらんだと?では、傷を癒す力はないということか」


「なんだ。それではただの役立たずじゃないか」


下げた頭に二人の厳しい視線がビシビシと突き刺さる。


「巫女の力では役立たずでも、他のことで役に立ってみせますよ」


「ほう。例えばなんだ?」


頭を上げてそう言えば、芹沢さんが鉄扇をぱしりと閉じ、それでうちを指した。


「この浪士組の未来とか」


「ふん。神條には我々の行く末を知っていると聞いてはいたが、貴様のその言い方だと、この組は破滅の道を行くらしいな」


「………」


部屋内の空気がどよめく。


芹沢さん、鋭い。


「それに貴様がいなくとも、小僧に任せれば良いのではないか?小僧も未来とやらから来たのだろう」


そう言って梗夜を顎で指す。


「残念ながら、その小僧はこの組の未来については詳しくは知らないみたいですよ。ね?小僧」


詳しく知ってたら、わざわざうちに頼んだりしないだろうし。


「誰が小僧だ!少なくともお前より年上だっつーの!!はあ…悪いな、芹沢さん。こいつの言う通りだ。だから、そこら辺はこいつ任せた方がいいぜ」


隣に来た梗夜にわしゃわしゃと頭を撫でられる。


あー…髪がボサボサになる。


「…ほう。なら期待しておいてやろう」


芹沢さんが鼻で笑った。隣では新見さんが難しい顔をしている。


「しかしそいつは女だろう。ここは女人禁制じゃないのか」


「その通りだ。だが、こいつは理由が理由だから特別に許可する。が、ただで置いとくわけにはいかねえ。こいつにはここの隊士になってもらうことにした」


え?ちょっ!え!?


「隊士になってもいいの!?女中とかじゃなくて!?」


土方さんの言葉におもわず立ち上がる。


そんなこと聞いてないけど!?


「ああ。その方が自分の身を守るためにも、刀の使い方、動き方を学べるだろ。女中だとそうはいかねえからな。で、この中の誰かの小姓になれ。異論は受け付けねえぞ」


「はっ!?小姓にもなるの!?」


予想外すぎるんだけど!?


うちの驚きように総司や左之さん達が愉快そうにけらけらと笑う。


「ま、精々頑張りなよ。新入りさん」


「彩葉、俺の小姓になってもいいんだぜ?」


「あー…魅力的だけどお断りします」


と言っても、魅力的なのは筋肉だよ。ずっと見続けても飽きないね。


「そうか?残念だなァ」


そう言いつつも、答えが分かりきっていたのかあまり残念そうな表情をしていない左之さんが口角を上げて笑った。


「ならば誰の小姓になる、小娘。さっさと決めてしまえ」


芹沢さんがまた音を立てながら鉄扇を閉じる。


「うちが決めてもいいの?」


「ああ、構わねえよ」


それなら一番の候補はやっぱり土方さんかな。

でも将来、市村鉄之助が来るし…どうしよう。


総司の小姓になれば労咳にならないように注意して見ることが出来る。だけど、なぶられそうで怖い。


平助、左之さん、新ぱっつぁんは小姓じゃなくて、ただの友達みたいになりそうだから却下。


斎藤さんは…甘やかされそうだからダメ。

うちのためにならない。


山南さん、源さんも同じく甘やかされそうだからダメ。


近藤さんはうちなんかが小姓を務めるには恐れ多い。


…よし、決めた。


「土方さんの小姓になります」


「あ?俺でいいのか?他にも近藤さんとか山南さんとかがいるだろうが」


うちの判断に納得がいかないのか、眉間にこれでもかと皺を寄せる。


土方さんならうちを甘やかすこともないだろうし、すぐそばで仕事を覚えることもできる。


それに、


「だって土方さん、既に寝てなさそうだし健康管理出来てなさそうだから」


実際、土方さんの目の下にはうっすら隈が出来ていて、うちの言葉にぐ…と押し黙る。


あ、図星だったんだ。


「…分かった。お前は今日から俺の小姓だ。こき使ってやるからな」


「うへえ。倒れない程度にお願いしまーす」


そんなうちと土方さんのやり取りを面白くなさそうに眺めている人が一名。


「ふーん。土方さんの小姓になるんだ。僕の小姓になったら目一杯可愛がってあげようと思ったのにな」


総司が意地悪そうに口角を上げて笑う。それを見たうちを含める数名の表情が凍った。


なに、そのいかにも何か企んでますって顔は!!

やだやだ怖い怖い!!


「あのぉ総司さん?一応聞くけど、可愛がるってどうやって…?」


「どうやってって、そりゃあもう…お察しだよね?」


「ひっ!」


あさどく、こてんと首を傾げた総司の怖さに急いで斎藤さんの後ろに隠れた。


お察しだよね?って!!総司の小姓になったら、稽古と称してこてんぱんにやられてストレス発散に使われる!!!


試衛館にいた時のことを思い出し、体がぶるりと震える。


それは可愛がるって言わないよ!!!


「あはは、冗談だよ。そんなに怖がらなくても」


怖がらない奴があるか!!

あんたは過去に前科があるんだよ!!


「ごほん。総司、天宮君。そろそろ話を進めたいんだが…」


一つ咳払いをし、やんわりと言って近藤さんが苦笑いを浮かべた。


「すみません!近藤さん!!」

「ごめんなさい!近藤さん!!」


総司と同時に近藤さんに勢いよく頭を下げる。


「…お前ら昔っから近藤さんには素直だよな」


土方さんが呆れたように息を吐いた。

いそいそと自分の座っていた場所に戻り、咳払いをする。


「…では、気を取り直して。これから浪士組の今後についてお話しましょうか」


瞬間、部屋の空気がぴりっと張り詰めた。


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