再会と巫女 -其の参-
「心変わりしたの?」
「うるせえ言うな、馬鹿野郎」
梗夜がばつが悪そうに頬を掻きながらうつむいた。
「…二年も一緒にいたせいか、情が移っちまったんだよ」
情で動くのは悪いとは思うんだがな、と言いながら深い海の色をした目を伏せる。
「オレがこんなこと言ったら悪いか?」
「いや全然!!悪くない悪くない!!」
むしろ嬉しいくらいだし!!
「で、どうなんだ。貸すのか貸さねえのか」
答えは分かりきっているだろうに、わざわざそんなことを問いかけてくる梗夜に笑顔で返す。
「もちろん喜んで!!」
大きな歴史の波は変えられないかもしれないけど、
浪士組の未来はみんなの協力があれば、
きっと変えられるはずだから。
「そうか、ありがとな」
久しぶりに見た梗夜の微笑む顔になんだか安心感を感じてしまった。
不覚!!
「…念のために聞くけど、みんなにうちがみんなの未来を知ってるっていうことは言ってあるの?」
気を取り直して、今度はうちが梗夜の耳元に顔を寄せて囁くように話す。
「あ?ああ、言ってはいるが‥なんで耳元で言うんだよ」
「だって、さっき梗夜も耳元で未来について言ってきたから、みんなに聞かれたらマズいのかと思って‥」
そこまで言って、ふと合点がいく。
「……ああ」
なんだ。みんなの前で言うのが恥ずかしかっただけか。
「なんだよ、その目は!!」
生暖かい目を向ければ、梗夜が真っ赤になって怒鳴った。
うるさいな。
とりあえず、みんなもこの話は知ってるみたいだから遠慮せずに話せそうだね。
「一応、この話は芹沢さんと新見さんも知ってる。筆頭局長と局長だからな。あと監察の山崎も」
え?山崎?それに監察?
「その山崎ってさ、もしかして山崎丞だったりする?」
「ああ、よく分かったな」
「そりゃね。ねえ、今は何年なの?」
筆頭局長の芹沢鴨と局長の新見錦がまだ生きているなら、文久三年のはず。
でも、諸説あるけど山崎さんが入隊するのは文久三年の末なんじゃないっけ?
「今日は文久三年、五月十日だ」
「五月…」
やっぱり。もう忠実と違う。
山崎さんが入隊するにはだいぶ早すぎるし、監察という仕事ができるのも、もう少し後だったはず。
これは、梗夜というイレギュラーな存在が歴史に影響しているのかな?
本人は気づいてなさそうだけど。
なら間近で起こる大きな事件といえば、六月三日の大坂相撲の力士との乱闘か。
「じゃあさっそく、これからのことについて話がしたいから芹沢さんと新見さん呼んで」
「やっぱりなにかあるのか」
土方さんが眉根を寄せる。
「もちろん。良くも悪くもいろんなことが起きるよ。だから、これからのことを話して、対策を立てておかないとね」
「…そうだな。頼りにしてるぞ」
「うん、任せて。頑張るから」
大きく頷き、ぐっと両手を握り締める。
こうやって頼ってもらえてるんだ。
うちがこの浪士組を、新選組をいずれ来るであろう悲惨な未来から絶対に守ってみせる。
「山崎、入ってこい」
そう意気込んだところで、土方さんが襖の外に向かって声をかけた。
静かに襖が開き、入ってきたのは真っ黒な髪を肩のあたりでばっさり切った吊り目の男。
この人が山崎丞。
「これからなにかと世話になるだろうから挨拶しとけ」
土方さんがうちに向かってそう促す。
言われなくても分かってるよ。
「お初にお目にかかります。天宮彩葉と申します。これからご迷惑をおかけするとは思いますが、よろしくお願いします」
手を畳について頭を下げれば、「うっわ猫被り…」という梗夜の声が聞こえる。
これは猫被りじゃなくて礼儀です!!
「俺は君の知っての通り、監察の山崎丞だ。よろしく頼む。話は神條から全て聞いているから、何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます!」
とても頼もしい言葉に改めて頭を下げる。
「挨拶は済んだな。山崎、芹沢さんと新見さんを呼んできてくれ」
「御意」
山崎さんは頭を下げて返事をすると、素早く部屋から出て行った。
筆頭局長の芹沢鴨と局長の新見錦。
一体どんな人達なんだろうか。




