再会と巫女 -其の弍-
「んじゃ記憶が戻ったところで、さっそくお前がさっき言ってた巫女についての話に入るぞ」
梗夜が元いた場所に座り、一人だけぽつんとみんなの中心に残される。
総司もいつの間にか座ってるし…。
うち、どこ行けばいいの?
「…彩葉、来い」
山口さん、いや、今は確か改姓して斎藤さんかな?
斎藤さんが隣に来いと呼んでくれる。大人しくその隣に座った。
いやいやいや、ちょっと待って?
久しぶりの再会なのになにもなし?みんな薄情すぎない?
「不満そうだな。お前のことだ。どうせ、久しぶりの再会なのになにもなし?とでも思ってんだろ」
「うっ」
「図星かよ」
梗夜が馬鹿にしたように鼻で笑う。
「お前は表情が豊かすぎなんだよ。さっきすっげえしょげた顔してたぞ」
「…そんな顔してないし」
「んなとこで意地張るんじゃねえよ。あとから好きにすりゃあいいだろ。だが、今からするのはお前にとってかなり大事な話だ。よーく聞いとけよ」
「はーい」
大事な話、か。魂の巫女とか鬼について詳しく教えてもらわないと。
「まず、お前が魂の巫女っていう特別な巫女なのは美祢から聞いたんだな?」
「うん」
「力が開花したら他者の傷を癒せることも聞いたか?」
「うん。もし力が強かったら病も癒せるっていうことと、数百年に一度生まれる奇跡の巫女っていうことも聞いた」
すごくファンタジーっぽくて現実味ないんだけどね。
「その通りだ。じゃあ鬼のことは?」
「一応。鬼は巫女の命を狙ってる存在だってことだけは聞いた」
「…お前を不安にさせないように言うなって口止めしておいたんだが…。特に大事な部分を言やがったな、あいつ」
額に手を当て深い溜め息をひとつ吐く梗夜。
本当にね!!命を狙われるとか物騒過ぎる!!
「じゃあ、オレがお前にとってどういう存在なのかもなんとなく分かってるか?」
「うーん、守り人みたいな感じ?」
「ああ、そうだ。神條家は代々、魂の巫女を守るために天宮の家に仕えてる。ま、今はそんな厳かな感じじゃねえけどな」
「…そうだったんだ」
確かに幼馴染みとはいえ、どんな日、どんなときでも近くには梗夜がいたな。
二歳違いだから中学と高校で離れたりもしたけど、必ず行き帰りは一緒にいてくれてたし。
休日もなんだかんだ理由をつけて、ずっと一緒に気がする。
「そこまで話を聞いてんなら、そこらの説明は省くか」
ここからが特に大事な話だ、よく聞いとけよ。と、もう一度念を押される。
「彩葉、お前は特別な所で育った訳じゃねえ。だがな昔…そうだな、確か戦国の初期辺りか。その時代までは魂巫女を祀る社があって、巫女の血を受け継いだ者がそこに住んでたんだよ」
戦国時代…魂の巫女ってそんなに昔からいるんだ。
しかも戦国時代辺りって言ってるから、もっと昔からいたっていうことになるよね。
「だが、目立つ社に住んでると『鬼』の目につきやすく、巫女や巫女の血縁が襲われかねない。だから巫女の血を継ぐ者達は社を壊して別の場所へ移り住み、ひっそりと暮らし始めた。その子孫がお前だ」
「お、おお…。なるほど…」
正直、詳しく説明してくれている梗夜には悪いけど、現実離れしすぎている話ばかりで理解しがたい。
「理解出来てるか?」
「うん、まあ…」
「ならもう少し分かりやすく言ってやる。お前が魂巫女の血を継いだ子孫だ。いいな?」
「あ、はい」
さすがにそれは簡略化し過ぎじゃない?
「次は鬼についてだ。鬼はどの時代にもいるこの世で最も恐ろしく危険な存在。もちろんオレ達のいた現代にもいるし、この時代にもいる」
鬼、か。
「鬼は人の生肝…心臓を喰らい、力を得る。まあ、生肝つっても主に喰うのは若い女のもんで、男は邪魔をするなら殺されるくらいだな。たまに喰う奴もいるが」
その説明に少しだけ背中がうすら寒くなった。
梗夜が言っていることが本当なら、現代でも今までにもう何人もの人が犠牲になっていることになる。
「けどな、鬼はそんな雑魚を喰ってもあまり力は得られねえ。そこで出てくるのが…」
そこで梗夜が言葉を切った。こちらをじっと見つめてくる。
「…魂の巫女?」
「ああ」
あとは霊力、霊感がある女とかだなと付け足された。
「もし鬼が巫女を喰うことがあれば、何倍もの力を得ることになる。そうなると、オレらみたいな陰陽師や式神にも手がつけられねえ状態になる。この意味が分かるか?」
陰陽師、式神にも手がつけられなくなるということは…
「倒すのが難しくなるってこと?」
「そうだ。だからオレはお前を全力で守る。ここにいる奴らにも話を通してあるし、協力もしてくれる。本来ならお前のことは現代で守ってやるべきなんだろうが、現代じゃ武器なんて振り回せないからな」
万が一、しくじれば捕まっちまうからよ。と本日何度目かの溜め息を吐いた。
「あと、別の事情があってこっちに連れてきた。それはまだ詳しく言えねえがいつか必ず話す。で、お前には別の面で力を貸してほしいことがある」
力を貸してほしい?一体なんの?
ちょいちょいと梗夜がうちを手招く。
近づくとうちの耳元に梗夜が口を寄せた。
「お前にしかできないことだ。
……この浪士組の未来を変えてほしい」
「え?」
耳元から口を離した梗夜の目が、今までになく真剣にうちの目を捉える。
おもわず耳を疑った。
浪士組の未来を変えてほしい
『うち、この人達の未来を変えたい!!だから絶対に帰らない!!』
『はっ!なに言ってんだ。んなことしたら、未来がどうなるか分かんねえだろうが』
二年前、強制的に帰らされる前夜にした梗夜との会話を思い出した。




