表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

思惑と入隊 -其の弐-




広間に着くと既に隊士が集まっているらしく、中からは騒がしい声が聞こえて来ている。


総司は先に中へ入って行った。


近藤さんに歳が来るまでここで待っていなさい、と言われて大人しくその場で待っていると、


「まだ入ってなかったのか」


「あ、土方さん。梗夜は?」


土方さんだけが現れた。


「あいつはもう中だ。入り口はここだけじゃねえんだぞ」


「あ、そっか」


「そのアホ面、昔と変わんねえな」


くつりと笑ってうちの頭を撫でる。


「それ褒めてるの?それとも貶してる?」


「褒めてるに決まってるだろ」


うちより頭一個半高い位置にある土方さんの顔を見ると、優しい目をこちらに向けている。


「土方さんも全然変わらないよね。あ、でもちょっと目つき悪くなった」


「ほう。俺に喧嘩売るとはいい度胸だな」


頭に置かれていた手が耳に移動し、おもいっきり引っ張られる。


「痛い痛い!暴力反対!」


「生意気言うからだ。ったく入るぞ」


「うう…はーい」


痛めつけられた耳をさするうちを横目に、土方さんが広間の襖を開けた。





土方さんと彩葉が広間へ入ってくると同時に、数少ない隊士の間から、おお…!という感嘆の声が漏れる。


女なんてこの屯所にはいなかったから、そんな反応にもなるわな。


こいつらが期待しているような、おしとやかな大和撫子ってわけじゃねえけど。


土方さんが近藤さんの隣に座る。


土方さんが彩葉に目配せをすれば、それに小さく頷いてその場に座った。


「本日から壬生浪士組の隊士、そして土方副長の小姓を務めることになりました。天宮彩葉と申します。よろしくお願いします」


彩葉が畳に指をつき綺麗な所作で頭を下げる。


一瞬、“隊士”“小姓”いう言葉に部屋がざわついたが、土方さんが隊士共を睨みつけ静かにさせた。


彩葉の礼儀作法は、さすがばあさんに仕込まれただけはあるな。


なのになんであんなにわがまま放題の自由人に育ったんだ?どこかで育て方間違ったんじゃねえの?


「この()は俺達の知り合いでな。訳あって入隊したんだが、やる気は誰よりもある子だ!みんな仲良くしてやってくれ!」


「だが、女だからって甘やかしたりしなくていい。自分達と同等に扱え。話は以上だ!!解散!!」


にこにこと柔らかな表情の近藤さんと対照的に、(いかめ)しい顔の土方さん。


隊士達がざわめきながら広間から出て行く。

その中には数人、彩葉に声をかけている奴もいた。


彩葉はいつもとは想像がつかないほど、にこやかに笑いながら隊士と一言二言、言葉を交わしている。


「すごいね、あの猫の被り方」


「ああ…」


総司がぼそりと呟く。おもわずそれに頷いちまった。


しばらくすれば、あの破天荒っぷりが屯所中に知れ渡るだろうけどな。


「おい斎藤、彩葉。夕餉まで時間がねえ。さっさと勝手場に行って来い」


「はーい」


「御意」


土方さんにそう言われ、彩葉は隊士との話を切り上げると斎藤に案内されて勝手場に向かって行った。


これで彩葉が正式に浪士組に入隊したわけだが…はてさて、これからどうなるんだかな。





斎藤さんに屯所内を軽く案内してもらいながら、勝手場に向かって廊下を歩く。


「…そう言えば、お前は私の姓が変わったことは知っているのか」


「はい、知ってますよ!斎藤さんですよね?」


「では、その理由もか…」


斎藤さんが何か悪いことをした子犬のような表情でこちらを見つめる。


「そう、ですね。一応知ってます」


「……そうか」


斎藤さんの名前は元々、山口一。


確か文久二年に江戸で刀傷沙汰を起こして、身を隠すために改姓したんだよね。


理由を知られていることが嫌だったのか、少しだけしゅんと肩を落とす。


「理由はどうであれ山口でも斎藤でも、一さんには変わりないですよ!…って呼んでおいてなんですが、名前で呼ぶのはなんか照れくさいので、これからは斎藤さんって呼ばせてください!」


「ああ、改めてこれからよろしく頼む」


「こちらこそ!またよろしくお願いします!」


そんな話をしていると、屯所の勝手場に着いた。

だけど、


「島田、なにをしている」


「なにって…お汁粉を作っているんですよ?お二人も食べますか?」


「いえ…今は結構です」


島田さんがお汁粉を作っていた。勝手場に甘い匂いが充満している。


というか、いつの間にお汁粉を作ったの。


「そうですか?美味しいのに…。ああ、そう言えば自己紹介をしていませんでしたね。私は島田魁と申します。よろしくお願いしますね」


頭を下げた島田さんにうちも慌てて頭を下げる。


「こ、こちらこそよろしくお願いします!それで、あのそろそろ夕餉を作りませんか?」


「そうですね。そうしましょうか」


島田さんが釜戸からお汁粉がたっぷり入っている鍋を退かした。


それ、まさか一人で全部食べる気じゃないよね?


少々の不安は残るけれど、さっそく島田さんを見張りながらの夕餉作りが始まった。だけど…


「ちょっ島田さん!お浸しに砂糖揉み込もうとしないでください!!」


「島田、味噌汁に多量の砂糖はいらん」


「白米にも砂糖はいりません!!」


「魚に砂糖をかけるな。塩をかけろ」


予想以上に島田さんが、なんでもかんでも砂糖をかけたり入れようとするから、さあ大変!!


斎藤さんと必死に島田さんを止めて、なんとか夕餉は甘くないものを作りあげることができた。


まさかここまで大変だったとは…!!

島田さん、自由人すぎる!!


「あと運ぶだけですね。行きましょうか」


「はいっ」


広間に出来上がった夕餉を運び、大勢に囲まれながらここに来て初めての食事をとったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ