思惑と入隊 -其の参-
夕餉を食べ終わり、片付けも終わらせて土方さんの部屋にやって来た。
さすがに他の隊士との雑魚寝はダメだろうとのことで、今日からは土方さんの部屋で寝泊まりをすることに。
「女たらしの部屋で寝るとか…大丈夫かな」
「安心しろ。ガキに手ェ出すほど俺は餓えちゃいねぇよ」
はっ!と馬鹿にしたように鼻で笑う。
「まな板には興味はなく、餓えたときには嶋原に行くんですね、分かります。って分かるかボケぇ!!」
自分でなりたくてなってるわけじゃないんだよ!!もう二年もしたら大きくなってるわ!!
……たぶん。
「なに一人で騒いでんだ。頭でも打ったか?」
「打ってないわ。失礼な」
ふん、と鼻を鳴らす。
昔からこんな感じですけど?何か?
「そんなことはどうでもいいが、彩葉、お前はもう休め」
「え、なんで?」
土方さんは机に向き直ると筆を手にとって、さらさらと紙になにか書きこんでいく。
まだ割と早い時間だから休むには早い気もするんだけど…。
「今日はいろいろあって疲れただろ。だから休め」
「でも土方さん仕事…」
「あと少しだけだ。それにお前こっちの字はあまり読めねえだろ。だから休め」
言うことを聞けよ、と言わんばかりに溜め息を吐かれる。
いやいや、待て待て。
確かにこっちの字は読めないし、役に立てないけど。
というか、いろいろあって疲れただろって言う割には、早々に島田さんとの夕餉作りという重大な仕事を押し付けて来たよね?
どの口が言ってるの?
…でも疲れてるのは本当だし、機嫌を損ねないためにもここは大人しく従っておこうかな。
「分かった。なら今日はありがたく休ませていただきます」
「おう、そうしろそうしろ」
「うん。じゃあ…おやすみ」
「ああ」
寝る準備を整え、二つある内の襖側の布団に潜り込む。すると、すぐさますごい眠気が襲ってきた。
うとうとしながら、今日あったことを思い返す。
誘拐されて、知らない間に時を渡って、土方さんの小姓になって…。
梗夜に新選組の歴史を変えてくれって言われて、本当にびっくりしたなぁ…。
まぶたがだんだんと落ち、視界が狭まっていく。
これからどうなっていくのかは分からない。
不安なことはたくさんあるけど、明日から頑張ろう。
そう思っているうちに眠気に負け、あっさりと意識を手放したのだった。
◇
「寝たか」
彩葉が布団に潜り込んでから、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。
「相変わらず寝るのが早ぇな」
寝息が聞こえる方に顔を向ければ、頭まですっぽり布団をかぶった滑稽な姿。
…そういや、昔も落ち着くからとか言ってこんな風に寝てたな。息苦しくねえのか?
寝息に合わせて小さく上下に動く布団に静かに近付き、興味本位で布団を少し捲る。
そこには二年前と変わらない、まだ少し幼さを残した穏やかな寝顔があった。
「はっ…幸せそうな顔しやがって」
軽く頬を引っ張ると、うにゃーと俺の手を払う。おもわず、ふっと声が漏れた。
「猫かお前は」
自由奔放なところといい、呑気なところといい、本当に猫に見えてくるな。
「はあ…俺も寝るか…」
しばらく徹夜ばかりしていたせいか、急に眠気が襲ってきた。
灯りを消したあと彩葉の隣に敷いてあるもう一つの布団に潜り、目を閉じる。
明日から賑やかになりそうだ。




