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鴨と錦 -其の参-



「なんでみんな、そんなに暗いの?」


「そりゃあさっきから、死ぬだなんだの、あんな話を続けて聞いてたらな…」


左之さんが少しだけ眉をしかめながら苦々しく笑う。


「そうならないために今、話をしてるんだよ?」


だからそこまで悲観しなくても…。


「…なら、この組の破滅の道も阻止できるものなのか」


ぼそりと土方さんの口からそんな呟きが漏れた。

それを聞いて部屋の中のさらに空気が重くなる。


ああ、引きずってたか。


「簡単には行かないだろうね。大きな歴史の流れは簡単には変えられないだろうし。この組の未来もみんなの協力なしじゃ、難しいと思う。けど、悲観するには早過ぎるよ。浪士組はまだ始まったばっかりなのにさ」


ぐるりと部屋の中を見渡して、みんなの顔を一人ひとりしっかりと見ていく。


近藤さん、土方さん、山南さん、源さん、総司、斎藤さん、左之さん、新ぱっつぁん、平助、山崎さん、芹沢さん、新見さん。


そして梗夜。


歴史を変えるなんて、大それたことしようとしていることは分かってる。


生半可な覚悟じゃ、やり遂げられないことも。


でも、協力してくれる人がこんなにたくさんいてくれるのなら、きっと大丈夫。


「浪士組の未来はうちが絶対に変えてみせる。だから少しだけでいいからさ、うちのこと信じてみてよ」


「…ふ、分かった」


にっと笑ってみせれば、うちの目を見て土方さんもふっと柔らかく笑った。


同時に部屋の空気も軽くなる。


…土方さんがこんな風に笑うの久しぶりに見たかも。


「あ、そうだ芹沢さん。会津藩の本陣にはいつ行きますか?」


「うむ、明後日でどうだ?」


「分かりました。明後日ですね。では、うちと芹沢さんだけで行きましょう」


行動が早くて助かる。

こういうことはさっさと動いていかないとね。


「じゃあ話し合いは終わり!ってことで、これで解散…」


「するわけねえだろ」


「えーまだなにかあるの?」


言葉を遮った土方さんをじと目で見つめる。


うち、実は疲れてるんだよ?

緊張と慣れないことばっかりで。


「そんな目で見ても無駄だ。お前を隊士に紹介する。それからさっそく仕事だ。夕餉を作れ」


土方さんが睨み付けるように見返してくる。


夕餉を作れ?うちの初仕事それ?というか一人で?


「斎藤、今日の夕餉の当番は誰だ?」


「私と……です」


「あ?私と誰だって?」


土方さんが眉をひそめ、怪訝そうに目を細める。


「…島田…です」


斎藤さんが答えた瞬間、また部屋に沈黙が訪れた。


あれぇ?なにこれ。 芹沢さんと苦笑いをしてる源さん以外、みんなの顔が真っ青なんだけど。


新見さんや山南さんまで真っ青なんだけど。


「…斎藤、島田のことよーく見張っとけよ。飯に余計なもん入れねえように」


「御意」


斎藤さんが真剣な面持ちで頷いた。


「島田ってもしかして島田魁?」


「ああ。お前も島田が飯に余計なもん入れねえように見張っとけよ」


あの、話に付いていけないんだけど…。


「えっと…余計なものって例えば?」


「あー砂糖、だな」


砂糖?普通じゃないの?

入れたらダメっていうのはないんじゃ…。


「この前は酷かったよね。お浸しに塩じゃなくて大量の砂糖をもみ込んでたし。あれはさすがに僕も無理かな…」


「わお」


土方さんたちが真っ青になった理由に納得。


確かに大の甘党っていうのは聞いたことあるけど、まさかお浸しに砂糖をもみ込むとは…。


甘党恐るべし。


「分かった。ちゃんと見張っとく」


「頼むぞ。ありゃあ死ぬほどまずい。前には気を失った奴もいたからな」


それ、ある意味兵器じゃない?


「土方、そんなくだらん話はもう良い。さっさと隊士共に天宮を紹介して来い」


「んなこと分かってる。斎藤、山崎は広間に隊士を集めろ。総司は彩葉を連れて広間に行け。お前らもだ」


芹沢さんに言われ、土方さんがイラッとしたような顔をしつつも的確に指示を出していく。


そんなに芹沢さんが嫌いなの?いい人そうなのに。


「神條、お前には話がある。残れ」


「は?なんでオレだけ…」


「話があるって言っただろ」


わざわざ梗夜だけ残して、話?


首を傾げれば、土方さんにお前は関係ねえと言わんばかりに手でしっしっと払うような仕草をされた。


「ほら、あの二人は放っといて行くよ」


腕を引かれ、総司に無理やり立たされる。周りにいたはずのみんなはすでに広間へ向かったのか、いなくなっていた。


「あ、彩葉待て。お前に渡すもんがあるんだった」


梗夜が自分の横に置いてある細長い袋から “何か” を二つ取り出す。


それは…


「さっきまでここにいた奴らにも、オレが(まじな)いを込めたのを渡してあるんだがな。これはオレがお前用に特別に造った妖刀だ。何かがあってからじゃ遅い。だから今、渡しておく」


艶のある黒い鞘に入った小さめの打刀と脇差。

しかも妖刀。


それをほれっと梗夜が二本同時に投げて寄越す。


ちょっ!二本同時はダメでしょ!!


なんとか受け取って腕に抱えた。ずしりとした重さが腕に伝わる。


「鬼は普通の刀じゃ斬れねえ。だからこその妖刀だ。本当は巫女様が刀を振り回すなんてありえないんだがな。隊士になったしお前は特別だ、特別」


守られるだけは嫌だろ?と言って梗夜がからから笑う。


「ありがと。よく分かってるじゃん」


でも、これでいつか鬼だけじゃない。

…人を斬ることになるかもしれないんだ。


実感はまだあまり湧かないけれど、人を斬る想像をして胸がぐっと痛くなる。


おもわず腕の中にある二振りの刀を抱き締めれば、梗夜がべっと舌を出し顔をしかめた。


「おぇ…なんか乙女っぽいことしてやがる」


「はーあ?なにその反応。覚悟はできてる?」


「できてるわけねえだろ馬鹿野郎が」


刀の柄に手を置きながら言えば、梗夜が口元を引きつらせた。


その隣で土方さんがこめかみに青筋を浮かべる。


「茶番してる暇があるならさっさと行け!!」


「はぁーい」


大声で土方さんにどやされ、部屋に二人を残して総司と広間へ向かった。



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