それぞれの理由 ①
書類と睨めっこをしたまま動かない吉野さんを眺め始めて、はや5分になる。
異空間管理庁(霞ヶ関の本庁ではなく、新宿にある支部)に呼び出され、自宅待機という名の謹慎がようやく終わると聞かされてウキウキしていたのだが……。
吉野さんの表情が、俺のウキウキに一抹の不安を差し込んでくる。
「えーと、吉野さん。なんか問題でもあったんですか」
「うーん……すまない、もう少し待ってくれ」
そう言われれば、待つしかない。
午前中に呼び出され、謹慎解除の条件として聞かされたのが「スキル『ダンジョン喰い』の封印」だった。
危険なスキルや、周囲に与える影響が大きすぎるスキルが封印されるのは、それほど珍しいことでもない。
封印といっても、普段は使えないようにロックをかけておくだけで、一生使えなくなるわけでもないし、そんなに大した手続きもない。
スキル封印に関する説明を受けて、同意書を書いて、封印処置を受けるだけ。
……なのだが。
「だいたい想像ついたんですけど、封印できませんでした? もしかして」
俺がそう言うと、吉野さんはこくりと頷いた。
やっぱりな。スキル封印処置がよくあることなら、封印しようとして出来ないというのもよくあることだ。
特に、俗に「体質スキル」とか「運命スキル」とか呼ばれるようなタイプのスキルは、封印処置を受け付けないことが多い。俺の「アンチ・ダンジョン」もそのひとつだ。
「……仕方ない、封印は諦めよう」
熟考のすえ吉野さんは、俺が提出した封印同意書に個人情報保護スタンプを押し、部屋の隅にあるシュレッダーに差し込んだ。
ガガガガと音を立てながら、同意書は細かく裁断されていく。
「使用禁止スキルが封印出来ないとなると、次の対応としては使用に伴う罰則への同意なんだが……」
吉野さんはまた、書類を睨んで難しい顔をする。
「スキル『ダンジョン喰いは自動発動である可能性が高い、だったね?」
「はい。俺が意識して使ったというよりは、何かの条件を満たした時に勝手に発動した感じで……むしろ、意識して使おうとしても何も起こりませんでした」
「ふむ。難しいパターンだな」
心臓の辺りを鷲掴みにされているような苦しさを覚える。
使用禁止スキルを封印できない、コントロールもできないとなれば……もしかして、ダンジョンに入ること事態を禁止されるのではないか。
そうなったら、俺はまた……
「心配しなくてもいい。君から免許を取り上げるようなことはしないよ」
俺の不安を察したのか、吉野さんが言う。
「正直なところ、我々は君にダンジョン喰いを使いこなせるようになってほしいんだよ。前に言っただろう。ダンジョンが増え続けている現状は好ましくない」
「いずれは、増え過ぎたダンジョンを消すためにこのスキルを使って欲しい……ってことですか?」
「そうだ。ダンジョン喰いを封印したいのは、今のところコントロールのすべが分からないからに過ぎない。いずれは君にも…………そうか、だとすれば、あの案なら通るか……?」
吉野さんは急に声のトーンを落とし、ラップトップパソコンのキーボードを叩く。そして「すまない、ちょっと電話をしてくる。待っていてくれ」と言って部屋を出て行ってしまった。




