表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/54

作戦会議とパーティ ④


「久垣カレンさん。あなたが噂の、祝福の子だね。あなたのことはよく知ってる。是非とも探索課(ウチ)に来て欲しいって、みんな言ってるよ」

「……みんなというのは、あなたも?」

「そうだね。君ほどの人材が来てくれれば、私も助かる」


 カレンは、わずかに敵意のこもった目であわいさんを睨めつける。


 賑やかなパーティのなかにぽつんと落とされた、緊張の雫。

 双子だけはこの空気に当てられることなく、ちょっとこちらを気にするが、自分たちには関係ないとばかりにまた2人で話し始める。

 どうやら新チーム名を考えてくれているらしい。ありがたいやら、その図太さに呆れるやらだ。



「自分のことを勝手に知られてるってのは、良い気分はしないよね」


 もちろんこちらの緊張は継続している。

 臨戦モードのカレンをなだめるように、あわいさんは「ごめんね」と笑うが、カレンの警戒が解けることはない。


 元よりカレンは他人を警戒しがちだが、こと大人に対してはそれが顕著だ。

 困ったことがあったら頼ってくれと言うあわいさんの提案も、カレンはあえなく突っぱねる。

 その態度は頑なで、紐解く端緒すら見当たらない。



「……管理庁の人間を、信頼していないんだね」

「他人を信頼してないだけですよ」

「でも、イヅル君のことは信頼してる」


 カレンの眉間のしわが深くなる。あわいさんの言葉を挑発と取ったのかもしれない。


 あわいさんは、ちょっとこういう所がある。事実を淡々と指摘するせいで、挑発してるとか喧嘩を売っているとか取られることが。


「……だって先輩は、『必要』ですから」


 おっ、と思う。てっきり「イヅル先輩のことも信頼なんてしてませんよ」とでも来るかと、身構えていたのに。

 思いがけず傷付けられなかった心が、くすぐったさを主張する。


 だが、ここで嬉しがっている様子を少しでも見せようものなら、恐らくカレンは怒り始め、この話は途中で終わってしまうだろう。


 俺は必死で表情筋を押しとどめ、あくまで真面目に2人のやりとりを聞いているふりをす

る。



「こだわるんだね、ダンジョンに入ることに」


 あわいさんの言葉に、カレンは即座に「あなただってそうでしょ」と応酬する。


 しばし見つめ合う2人。まるで、最初に目を逸らしたら負けのゲームをしているようだ。


 テーブルの向こう側では、双子があれやこれやと話しながら、カッコいいチーム名を決めている。そのはしゃいだ声が、場違いなBGMとして空回りする。



「......そうだね」


 睨み合いのすえ、あわいさんが笑った。俺の見間違いでなければ、どこか寂しそうに。そしてわずかに自虐的に。


「ダンジョンに入る理由は人それぞれだ。自己実現、娯楽、お金のため、みんなやってるから。どんな理由でも、理由は理由だ。そこに正解もないし不正解もない」


 そこで、あわいさんは一度言葉を止めた。カレンが反論か――そうでなくとも何か口を挟まないことを確認してから、更に続ける。


「.....私はね、ダンジョンを憎んでいるんだ。全てのダンジョンを消滅させたいとさえ思っている」

「はあ、そうですか。それが何か、私に関係あるんです

か?」

「なぜダンジョンに入りたいのか、自分が本当に求めているものは何なのか......ちゃんと直視した方がいい。私の場合、それは過去にあるけれど、あなたのそれは未来にあるんじゃないかな」

「......」


 カレンの頬が、ひくりと痙攣した。あわいさんを見つめる瞳一ーそこにあった警戒に、不快の色が加えられる。

 明らかに気分を書した。しかしカレンは怒ることもなく、存外冷静な声色で「意味が分かりません」と吐き捨てた。


「話を聞いて損しました」

「そっか......ごめんね、パーティ中に」


 あわいさんが、ぱっと明るい笑顔を咲かせた。それとほぼ同時に、「これどーよ!」とつばめの威勢のいい声が響く。


 このギスりにもそろそろ限界を感じていたとこるだったから、ちょうど良かった。俺はわざと明るすぎる声で「お、どれどれー?」とつばめのスマホを覗き込む。

 カレンもそれに乗り「チーム名、どんな感じになりました?」と、あわいさんに背を向ける。



 俺たち(というか、あわいさんとカレン)が緊張感あふれるやり取りを繰り広げていた間、織部兄妹は我ら関せずで、せっせと新チーム名の候補を考えてくれていた。さすがの胆力だ。


 スマホのメモ機能に羅列された候補は、いくつか頓珍漢なものも含まれているが、おおむね俺の理想に沿った「カッコいい」名前だ。


「おお、やればできんじゃん」

「まあねー! いづるん好きなの選んでいいぜ。俺のオススメは〜これだな!」


 つばめがひとつの候補を指差す。『クアッド・アストラム』……


「どういう意味だ?」

「んー、4つの星? 4連星? みたいなかんじ。造語だけどな。カッコいいだろ?」


 ……悪くない。マジでこいつら、やれば出来るんだな。


「うちらのチーム名がツイン・アストラム……『連星』だからさ。4人で4連星!」

「どーよ! こう……4人の絆? みたいな感じで、良くない?」

「ふーん」



 黙って話を聞いていたカレンが、値踏みするように頷く。


 俺としては、クアッド・アストラム……だいぶ良いと思うんだが、カレンはどう判断するだろう?


 俺の見立てでは、カレンは絆だとか友情だとか、その手のものを斜に構えて見るタイプだ。

 このメンバー内での、カレンの意見の重量比はでかい。カレンがノーと言えば、別のチーム名から選ばざるを得ない……が。



「……良いんじゃないですか」


 あっさりと許可が降りた。「いえーい!」と、双子がハイタッチをする。


「じゃこれにしようぜ! いづるんも異論なし?」

「おう、良いと思う」

「よっしゃ! じゃあ只今をもって――……」


 おもむろに、つばめが右手を差し出す。手の甲を上にして、「分かるだろ?」と言いたげな視線をこちらに向ける。

 もちろん、何を要求されているのかすぐに理解し、俺はその上に同じように右手を重ねる。


「ほら、カレンも」


 つぐみがカレンの手を取って促す。カレンは乗り気というわけではなさそうだが、特に抵抗することもなく右手を差し出す。



 つばめの手の上に俺の手が、俺の手の上にカレンの手が、更にその上につぐみの手が重ねられる。


「ここに、チーム:クアッド・アストラムの結成を宣言する!」


 おー! という掛け声と共に、頭上に掲げられる右手。外野から、あわいさんがパチパチと拍手をしてくれる。



 クアッド・アストラム――4連星。それぞれが引き合い影響し合いながら輝く、4つの恒星。


「……改めて、宜しくな」


 つばめ、つぐみ、そしてカレン。それぞれと目を合わせながら言う。


「おう、宜しくな!」と、つばめ。

「宜しくねー」と、つぐみ。

「今さらですね。まあ、宜しく」と、カレン。



「おっしゃ! じゃ、かんぱーい!」


 つばめが調子良く声を張り上げて、飲みかけの炭酸ジュースを高々と掲げる。

「乾杯、さっきしませんでした?」と、カレンが冷静に突っ込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ