作戦会議とパーティ ③
グラスの中で、炭酸の泡がシュワシュワと弾ける。
「じゃ、パーティ『即席めおと団と愉快な子供たち』の無事帰還を祝して――」
かんぱーい! と、グラスが鳴る。その後ろで、あわいさんが吹き出したのが聞こえた。
「ちょ……待って何そのパーティ名。君たちのパーティそんななの?」
「いやー、悪ふざけが長引いちゃって」
照れ臭そうに頭をかきながら、つばめが答える。
「なあ、この機会にパーティ名変えようぜ。さすがにないだろ、アレは」
俺が提案すると、
「確かに、ダンジョン探索の上位ランカーになった時、だいぶ恥ずかしいですね」
カレンが、サイドメニューのポテトをつまみながら乗ってくる。
「そういえば、双子どものパーティ名は何ていうんです? 2人だけのパーティも登録してるんでしょう?」
「あー、うちらのパーティ名? ツイン・アストラムだよ。連星って意味」
……………………。
はぁ!?
「おいお前ら! 自分たちだけカッコいいパーティ名使ってんのはずるいだろ! よし決めた、ぜってー今日俺らのパーティ名変更するぞ、なんかカッコいいやつに!」
「いづるんめっちゃ必死じゃん、ウケる」
「こちとら数年単位でダンジョンに憧れてきたんだぞ、カッコいいパーティ名くらい名乗らせろ!」
「分かった分かった、俺らのセンスに任せろって。めおと団は残しで良いよな?」
「良いわけねえだろ、ふざけんなよお前!」
つばめの頭を小突きながらぎゃあぎゃあ騒いでいると、ふとテーブルの向こうのあわいさんと目が合う。
笑っている。嬉しそう……というか、幸せそうに。
「……」
ヘッドロックをきめていたつばめの頭を放り出す。
「なんかカッコいい名前考えとけよ」と釘を刺し、グラスとピザの乗った皿とを手にしてあわいさんの側に行く。
「良かったね、イヅル君」
俺が何か話しかける前に、あわいさんが言った。
「ダンジョン探索、楽しい?」
「まあ……想定外に厄介なことは多いけど、……うん、楽しいよ」
「友達も、みんな楽しくて良い子たちだね。良かった、本当に良かった……」
――自分の運命を呪ってはいけないよ。
かつてそう言ったあわいさんは、ダンジョンに入れない俺が、どれだけのものを我慢しながら生きなければならないのか、きっと俺よりも分かっていたんだろう。
あわいさんはダンジョンが嫌いだけど、ダンジョンがもたらす恩恵――進学や就職に有利になるとかだけじゃなくて、こんなふうに、一緒にダンジョン探索をする友達ができるとか――そういうものを、決して軽視してはいなかった。
だからこそ俺にあの言葉をかけたのだし、今はこんなに喜んでくれている。
「……だけどね、イヅル君。くれぐれも気を付けて」
浮かれている俺に釘を刺すように、真剣な顔であわいさんは言う。
「充分分かっているとは思うけど――ダンジョンは楽しいだけの場所じゃない。多すぎるほどの恩恵を与えてくれると同時に、1人じゃ抱えきれないくらいの絶望をもたらす場所でもあるんだから」
「……分かってる」
俺がちゃんと分かっていることを、あわいさんも分かってくれているだろう。
あわいさんから両親を奪ったのも、俺から父さんを奪ったのも……ダンジョンなのだから。
「父さんの捜索は、あわいさんの方でもやってるんだろ? なんか進展あった?」
「いや……今のところ、何も。樹さんの行方は、管理庁の優先捜索事案に入れてもらってるけど、なにせ他の事案も詰まっててね。人手も時間もなかなか割けない」
「……そう、だよな」
ダンジョン捜索を公的機関に任せても、進捗はなかなか思わしくない。これは行方不明者の捜索だけに限らず、ダンジョンの内部調査なんかについても言えることだが。
どこも人手不足なんだろう。
公的機関はあてにできない。やっぱり、俺が自力で父さんを探すしかない。
「気持ちは分かるけど、イヅル君。焦っちゃダメだよ。樹さんが行方不明になったのは、日本といわず世界有数の高難易度ダンジョン――東京駅だ。並の探索者が足を踏み入れても、死ぬだけだからね」
「……分かってる。まずは実力をつけて……それからの話だ。それまではあわいさんたち管理庁に任せ――」
「えっ!」
唐突に、つばめが会話に割り込んでくる。俺たちの会話が何となく聞こえていたらしい。
「あわいさんって、異空間管理庁の人なんすか!」
「うん。管理庁の探索課だよ」
「すげえ! チョー花形部署じゃん! いづるん、何で教えてくれなかったんだよ!」
いや……聞かれてねえから。
「だってアレだろ。異空間管理庁の探索課つったら、ダンジョン探索のトップランカーでも就職が難しいっていう……」
「え、そーなん? やば! ねえねえ、あわいさんにうちらの指導してもらったら良んじゃね! スキルの運用とか……」
盛り上がる双子と対照的に、カレンがどんどん不機嫌になっていく。「指導役なら私がいるじゃないですか」などとボヤいているが、双子の気持ちは分かる。
カレンの指導は根性論を基礎に、気合いと勢いと度胸があって初めて成り立つようなところがある。
もっとも、あわいさんの指導がそうでないという確証はないのだが。
不満げなカレンの様子に気が付いたのか――あるいは、最初から彼女に話を振るつもりだったのか――「でも」とあわいさんが言う。
「指導なら、そこの彼女が適任なんじゃないかな」
カレンが顔を上げる。
カレンの桜色の瞳と、あわいさんの薄紫色の瞳。俺たちにはない色彩を持つ2人の視線が、ぶつかり合った。




