作戦会議とパーティ ②
ピンポーン。インターホンが鳴った。誰が来たのか確認するまでもなく「おはよーございまーす! いづるーん!」と、玄関の外からやかましい声が俺を呼ぶ。
「よっいづるん! 自宅待機楽しんでる?」
ドアを開けると、私服姿のつばめ。その後ろからつぐみとカレンが、ひょこっと顔を出す。
「おはよーございまーす」
「お邪魔しまーす」
手土産を携えて、つばめたちはぞろぞろと玄関から入ってくる。食器を洗っていたあわいさんが、手を拭きながら「いらっしゃい!」と出迎えると、つばめは目を丸くした。
「えっお母さん……じゃないよなさすがに? お姉さん?」
「ま、そんなものかな。あわいといいます。イヅル君と仲良くしてくれてありがとうね」
「いやこっちこそ……あ、俺、織部つばめです」
「うち……あ、あたし、織部つぐみです」
「……久垣カレンです」
それぞれの自己紹介に、あわいさんは嬉しそうにウンウンと相槌を打つ。
……謎の恥ずかしさがあるな、これ。
土曜日、そろそろ昼を迎えようかという時刻。パーティメンバー全員が俺の部屋に揃い、会議を開始する。
話し合うことは色々だ。まずはこないだの反省。それから、今後の探索計画やそれに伴う戦術などの作戦会議。
「なあおい、会議するつってんだろ!」
いや、まずは部屋の物色を始めたつばめを叱りつけるところからだ。
「いづるん漫画とか読まねーの? 全然なんもないじゃん」
「電子書籍派なんだよ俺は。良いから座れって」
「ゲームとかは? お、発見! どれどれ〜」
「おい!」
全然言うことを聞かないつばめに閉口し、ちらりとカレンを見る。カレンは小さくため息をつき、「小鳥ちゃん?」と一言。
その一言だけで効果は絶大で、つばめは「ウイッ」と返事をして大人しく床に座った。
「さて……じゃ、まずこないだの探索の振り返りですね。各自反省点を述べて下さい」
「はいっはーい」
真っ先に、つばめが手を挙げる。
「俺たちのスキルが役に立ちましたー」
「うちらもちょっとは役に立ちましたー」
ねー、と同調する双子に、カレンは意外にも「そうですね」と肯定してみせる。
「地図書き換えスキルはかなり役に立ちました。一度使ってからしばらく使えなくなるのは難点ですが……先輩の接続スキルと併用すれば、そのデメリットも多少は打ち消せますね」
「「わーい、褒められたー」」
双子はハイタッチをして喜ぶが、カレンはそこに「ただし」と釘を刺す。
「ダンジョン関連の知識がなさすぎるのは問題です。あなたたち、ホントに筆記試験受かったんですか?」
そこに関しては、カレンが求める知識のレベルが高すぎるのもあると思うが……言いたいことは分かる。
斬ったら増える系の敵は無闇に斬らない、程度の常識はあってほしい。これからチームを組み続けるならなおさら。
「あなたたちにも、カレン式スパルタダンジョン教育を受けてもらいましょう。大丈夫、ダンジョン超初心者のイヅル先輩ができたんですから、ある程度ダンジョンに慣れてるあなたたちなら余裕でしょう」
そうなの? という視線を双子から感じたので、俺は責任を持って首を横に振っておく。
カレンのスパルタ教育は本当にスパルタで、アレがしんどかったのは俺がダンジョン初心者だからとかそういうレベルではない。
というか、教科書3冊の内容丸々を数時間で覚えろというのは、だいたい誰にとっても困難だと思う。
「カレンは地頭が良いからな、並の頭脳しか持ってない凡人の苦労は分かんねえんだよ」
俺がぼやくと、双子が「「えー」」と声を合わせる。
「でもさ、いづるんが通ってる高校も、偏差値そこそこ高いだろ?」
つばめがそう言うそばから、つぐみがスマートフォンで都内の高校の偏差値を調べる。
「げ! いづるんの高校、偏差値60あんじゃん! めっちゃエリート!」
「エリートってほどレベル高くはないだろ。進学校だとは思うが」
「うちらの高校は〜? …………きゃはは、40切ってんだけど! やばいウケる!」
何がそんなに面白いのか、双子はひとしきりケラケラと笑った後で、「でもさあ」と話を戻す。
「いづるんもけっこー頭良い方なのに、そのいづるんが褒めるとか、カレンどんだけ頭良いん?」
「んー……よく分かんないですけど、教科書とか1回読んだらだいたい内容覚えられます」
「え、」
「なので、あなたたちが何をそんなに苦労して勉強してるのか、正直よく分からないんですよね」
超特大の鼻持ちならない発言も、発言者がカレンともなればムカつく気にもならない。あらゆる点において、とにかくこいつは超人的なのだ。
凡人の俺たちは、超人たるカレンの要求に応えるだけでヒイヒイ言わなければならない。
そして、だからといってカレンのスパルタ教育が易しくなることは決してない。
「と、に、か、く!」
カレンが、いつの間に本棚から抜き取ったのか――俺のお下がりのダンジョン教本を5冊ほど、双子の目の前に平積みにする。
「これ、次の探索までに頭に叩き込んでください。どうせ今はイヅル先輩が謹慎中ですし、私たち4人で探索するのは先のことですから、できるでしょう?」
「「うえー」」
「知識不足で私の足を引っ張ることは許しませんから。…………先輩もですよ?」
双子の嘆く様をニヤニヤ眺めていた俺に、突然の豪速球が飛んでくる。
「俺はだいぶよくやってる方だろ!」
「どうだか。知識はだいぶついてきましたけど、実践で使えてるかというと微妙なところですし」
うっ。
痛いところを突かれた。知識と経験が結びついていないというのは、自分でもよく分かっている弱点だ。
「ですから、自宅待機が終わるのを悠長に待っている場合じゃないんですよ。今日からもっと厳しく……」
「おーい、子供たちー」
カレンの言葉を遮って、ノックの音。そののちに顔を出したのはあわいさん。手にはピザのチラシを持っている。
「お昼ごはんまだでしょ? お姉さんが奢ってあげるから、好きなの頼みなー」
おおーっと歓声が上がる。俺もやや大袈裟に声を上げる。俺にまでスパルタ教育の矛先が向いてきそうなこの空気を、何とかうやむやにしたい。
あわいさんが持って来たチラシを広げ、あれがいいだのこれとハーフにしようだの、今日イチ前のめりな相談を始める。
上手く話を逸らすことができたかとカレンの方を横目で見ると、カレンは俺の思惑をすっかり承知しているらしく、ばっちりと目が合ってしまう。
何か言われるかと身構えたが、しかしカレンは小言を口にすることもなく、「私、耳にチーズ入ってるやつ食べたいです」と、ピザ会議に参戦するのだった。




