作戦会議とパーティ ①
あれから3日……。
ソファに寝転がったまま手を伸ばして、携帯ゲーム機をソファ脇のローテーブルに置いた。ゲームでもして気を紛らわせようと思ったが、どうにも気乗りがしない。
「まあまあ、そう落ち込まないの」
じゃじゃーん! と言いながら、あわいさんが差し出してきた皿にはイチゴが盛られている。
「超高級フルーツでーす」
「やったー超高級フルーツだー」
棒読みで喜んでみせると、あわいさんはくすくす笑う。俺は起き上がって、イチゴをひとつつまむ。甘くてうまい。多分高いやつだ。
ダンジョン消失事件の後、事情聴取を受けたおれたちは、ひとまず悪質度は高くないとして釈放された。
ただし、俺だけは更なる取り調べや検査を受けさせられ、異空間管理庁に命じられるまま、自宅待機に甘んじている。
罰としてではない。消失したダンジョンの詳細調査も終わらないうちに、また新たな消失事件を起こされては対応が追いつかないから。あくまで予防措置としての自宅待機だと説明された。
だからって、学校の授業をオンライン受講にしてまで自宅待機を命じるのは、さすがにやりすぎだと思うが……それくらい、『ダンジョン喰い』というスキルは危ういんだろうか。
今日は金曜だが、土日も待機のままだろう。憂鬱だ。
「てか俺が自宅待機だからって、何も有給取ってまで家にいてくれなくても良いのに。あわいさんも忙しいだろ」
「いーのいーの、未消化の有給溜まってたからさー。最近官公庁も色々厳しくて、有給使わないと上から文句言われるんだよね」
あわいさんはそう言うが、多分、俺のメンタルを心配してくれてのことだろう。
正直に言うと、あわいさんが明るく構ってくれるのはありがたい。1人であれこれ考えていると、どうしても良くない考えが頭を支配する。
このままダンジョン探索禁止になったりしないだろうか、とか。
「ほら、また不安そうな顔してるよ」
あわいさんが、俺の眉間を突っつく。無意識に、しわを寄せてしまっていたらしい。
「大丈夫だよ。免許が取り消されるようなことにはならない。スキルの使用に制限はかかるかもしれないけどね」
「だと良いけど」
どうしても考えてしまう。
免許取り消しになったら……またあの頃の、ダンジョンに入れない惨めな生活に逆戻りだ。行方不明の父さんを探しに行くことすらできず、自分の未来を拓くこともできず……。
世の中から阻害された感覚、耐え難い無力感にいつも支配されていて……。
その時、後ろ向きな思考を断ち切るように、スマホの通知が鳴った。
確認すると、つばめからのメッセージだ。
『いづるん元気かー? 暇なら明日、作戦会議もかねて遊ぼうぜ!』
暇は暇だし誘いはありがたいが、俺は自宅待機処分中だ。そのことを、つばめも知っているはずだが。
『自宅待機。知ってるだろ?』
『だから、いづるんの家で!』
意外な提案に面食らう。なんだあいつら、俺の家に来るつもりか。
『保護者いるけど』
『えー良いじゃん! なんか食うもん買ってくし!』
「…………あわいさん」
「ん?」
「明日さ、友達がウチに来たがってんだけど、良い?」
言った途端、あわいさんの瞳がぱっと輝く。
「友達! イヅル君の友達!? 例の、祝福スキルを持ってるっていう女の子?」
「あー……いや、そいつとは違って」
「別の友達が!」
「こないだ一緒にダンジョン行ったやつ」
「同じ高校? 男子?」
「違う高校。男子が1人と女子が1人」
「女子も!」
あわいさんは、目に見えてあたふたしている。
無理もない。俺が家に友達を連れてくるなんて、小学生の時以来だ。中学、高校に入ってからなんかは、そもそも友達すらほとんどいなかったのを知っているからこその、この反応だ。
「えーと、どうしよう。ケーキ買ってきて、コーヒーでも出せば良いかな。あ、でも高校生はコーヒーよりジュースか。ジュース買ってこよう」
「いいよ別に。なんか食うもん持ってくるって言ってたし、飲み物も持ってくるだろ」
「そ、そっか。私はちょっかい出さないでおいた方がいいよね。挨拶くらいしていい?」
「まあ、そんくらいなら全然……」
これはあわいさん、かなり浮かれてるな。
いそいそと部屋の片付けを始めたあわいさんを横目に、つばめに『オッケー出た』とメッセージを送る。すると、
『カレンも呼んどいて』
…………。
まあ、そうなるよな。
正直に言うが、ダンジョン探索関連の連絡――ほとんど業務連絡に近いようなそっけないメッセージしか、カレンとは交わしたことがない。
日常のどうでもいいやりとりは勿論、遊ぶ約束なんて皆無だ。俺とカレンは徹頭徹尾、ダンジョン探索のためだけに繋がっている。
『お前らから連絡しといて』と送ると、つばめからは『なんでだよ!』というツッコミと、人気キャラクターが腹を抱えて笑っているスタンプが送られてくる。
……仕方ない。別に良いよな? ダンジョン探索以外のことで連絡しても。
カレンとのトーク画面を開く。
最後のやり取りは、自宅待機が決まったことを知らせるものと、それに対してただ「最悪」と返ってきたその一言だけだ。スタンプも何もない。
「…………」
熟考のすえ、人気キャラクターが『よっ』と右手を挙げて挨拶をしているスタンプを送る。「いづるんスタンプいっこも持ってないの!? ありえん!」と、つぐみがプレゼントしてくれたやつだ。
スタンプの後に、本題を切り出す。
『明日、双子がうち来るんだけどカレンも来る? 作戦会議するらしい』
それだけ送信して、ふうと息を吐く。何でこんなことで緊張してんだ、俺は。
しばらくそわそわと返事を待っていると、やがて既読がつき、「行きます」と一言。
そして続いて、ポコンとメッセージ受信の音が鳴り、画面に現れたのは「わーい」と万歳するキャラクターのスタンプ。
「……イヅル君、嬉しそうだね」
あわいさんに指摘され、俺は慌てて口元を隠した。




