閉じるダンジョン ①
「つまりね、うちらは2人で結界を貼った時だけ、ああいう力が使えるってわけ」
教室内を探索しながら、つぐみたちの説明を聞く。
連星の絆――つばめとつぐみが持つ、いわゆる「固有スキル」だ。
2人同時に発動した時のみ効果を発揮し、その結界内でならあらゆるバフ――魔法威力増大や魔法全体化、さっきみたいな攻撃対象の自動選別のような追加効果まで様々な恩恵を、あの2人だけが受けることができる。
「ま、こないだみたいに片方が捕まったりして行動不能になったら使えないんだけどな」
「そうですね。こないだは、あなたたち2人とも使い物になりませんでしたもんね」
つばめの自虐にカレンが容赦のない追撃を食らわせ、つばめは「ぐふぅ!」と吐血の真似をする。
その滑稽な様子を横目に見て、フォローする気があるのかないのか、カレンはちょっと肩をすくめた。
「ま、あの結界自体はすごいと思いますよ」
「カレン〜〜〜! だいちゅき!」
つぐみが大袈裟に両手を広げ、カレンに抱きつく。カレンは「あーーー探索の邪魔! どいてください!」などと嫌がりつつも、口の端が笑っている。
その様子を微笑ましく見守っていたところ、真顔のつばめがスススと寄ってくる。
「相棒取られて、いづるん寂しくない? 俺もだいちゅきしてやろうか」
「さっきのグミより要らねえ」
「ひでえ〜〜〜」
振られたーなどと言いながらつぐみの元へ帰っていくつばめを見て、結局俺も口の端で密かに笑ってしまう。
雑談をしながら教室内探索を終え、その成果のなさに落胆したのち、俺たちは再び元の廊下に出る。
「このダンジョン、ほんっと何もかもがショボいですね。あれだけ遮蔽物のある空間に、なーんで隠しアイテムがこれっぽちしかないんですかね」
カレンの手には、赤色の魔結晶が乗っている。
モンスターの体内で生成される魔力石が魔石なら、ダンジョン内で時間をかけて自然に生成されるのが魔結晶だ。
魔力伝達効率は魔石ほど良くないが、ダンジョンの特性に応じた特殊効果を持っていることがある。
その赤が濃く、透き通っていればいるほど価値がある――のだが、この魔結晶はくすんだ赤だし、濁っている。サイズもそれほど大きくないし、換金してもジュース1本分程度の値段しかつかないだろう。
教室中を探し回って、結局見つけたのは質の悪い魔結晶ひとつ。たったそれだけだった。あり得ないレベルのショボさだ。
「やっぱ不人気ダンジョンってのは、不人気になるだけの理由がそれなりにあるんだな」
しみじみと俺が呟くと、絶賛大不機嫌なカレンに思い切り睨まれる。
「そんな顔すんなって。今回の目的は探索じゃないだろ? 俺の新スキルの確認と、チームワークの構築」
「そうですけどぉ……」
むくれたまま、カレンは隣の教室のドアを開ける。俺はカレンに続いて教室に入ろうと、一歩を踏み出す。
その瞬間――ピリッと、頬に電流が走った感覚があった。
……何だ?
足を止めて、辺りを見回す。特に何も変なところはないが、何かがおかしい。
(……いや、待て。前にも同じことがあったような……)
嫌な予感を噛み締めながら、「先輩、早く〜」と催促するカレンに続いて教室に入る。
さっきの部屋とほとんど変わらない風景……だが、大きく違う点がひとつある。
「机が少ないな」
見れば分かることをあえて口にするのは、そうすることで誰かが理由を教えてくれないかという期待からだった。
さっきの教室は、1列につき5から6組ほどの机と椅子が数列並んでいた。それがこの部屋には、たった4組しかない。
4組の机が教室の中心に、それぞれが向かい合うかたちで置かれている。これからグループワークでも始めようとしているみたいだ。
それで、誰も俺の独り言に答えてくれないところを見るに、全員が同じ疑問を抱き、そして意味を汲み取りかねているようだ。
「敵の気配もありませんね」
教卓の下やロッカーの中、カーテンの裏に至るまで調べたが、モンスターもいなければ隠しアイテムもないし、隠し通路なんかもどこにもない。
「ハズレ部屋ってことか」
「それにしては、机の配置に作為を感じますけど……」
カレンの言う通りではあるが、何もないものは仕方がない。
これ以上探しても何かが出てくるとは思えないし、次の教室を探索しようと振り返った、その時だった。
「…………ドアがない」
またしても見れば分かる、間抜け極まりない発言をしてしまう。しかしそうとしか言いようがない。
ついさっき通り抜けてきたばかりのドアが、跡形もなく消えている。そこにあるのは、のっぺりとした壁だけ。
「え、ちゃんと地図作成してました?」
「してたぞ、ほら」
袖に表示した地図をカレンに見せる。
ダンジョン内部の構造は可変だが、目視や地図作成スキルなどによる視認で認識圧をかけていれば、そうそう変化することはない。少なくとも、こんな低難易度ダンジョンでは。
「むむ、おかしいですね。地図上にはちゃんとドアが……あれ?」
そう言いながら地図を差したカレンの指先で、じわりとインクが滲むように、ドアの表記が消えた。
まるで最初から何もなかったかのように、地図上にドアはなく、そして目の前の現実にもやはりドアはない。
「……」
「……」
無言。俺もカレンも双子たちも、顔を見合わせるのと壁を見るのとを交互に繰り返す。
教室の中央には机と椅子が4組。
まるで俺たちに「じっくり座って考えろ」とでも言うように。




