ふた組のふたり組 ③
2組の2人組 ③
接続スキルの詳細を確認し終えたら、いよいよダンジョン探索だ。
地図作成。左手の袖に地図を表示する。
このフロアの構造はいたってシンプルなようだ。真っ直ぐな廊下の右手に、教室への入り口が3つ。廊下の突き当たりに上へ向かう階段が1つ。
「まずは手前から順番に、教室を探索して行きましょう。教室内で見つけたアイテムはそれぞれ回収。不審なものや分からないものがあったら、私に教えて下さい」
「分かった」
「「了解!」」
教室の引き戸に、真っ先に手をかけたのはつぐみだ。「行っくよー!」と言いながら、勢いよく引き戸を開ける。
扉が開け放たれた瞬間、つばめが教室へと飛び込んだ。
「来いよ、いづるん! もたもたしてっとモンスター全部倒しちまうぞ!」
「あ、おい待てって!」
負けじと俺も教室へと飛び込む。
踏むべき手順は怠らない。まずは敵影確認、マッピング。
教室はドアのある方を長編とした長方形。机やら何やら遮蔽物が多くて、隅々まではなかなか正確にマッピングできない。
「いづるん出遅れんなよ! スキル『気配察知』、『敵影共有』!」
つばめは、学生服の下に来たパーカーの裾からロッドを取り出した。先端に地球儀のようなものがついている。やっぱこいつ、魔法特化型か。
つばめがスキルを使うと同時に、ロッドの地球儀がくるくると周り始める。
すると視界に、しずく型の赤いピンがいくつか現れる。これが『敵影共有』……つばめが探知した敵影を、俺の視界にも共有してくれているようだ。
早速、一番手近にあったピンが指す場所――教卓を蹴り倒すと、その影からモンスターが現れる。真っ白な粉を全身に塗した、猫くらいの大きさのネズミだ。
確かこいつは――チョークラット。校舎型ダンジョンに多く棲息するモンスターで、伸びた前歯は結構するどい。
だが動きはそれほど速くないので、集中していればノーダメで倒せるはずだ。
「まず1匹!」
こちらへ飛びかかってきたところを一刀両断にする。切り口からは血ではなく、白い粉煙が立ち上った。
多分これ、吸い込まない方が良いやつだよな。
そう思って左手で口元を覆うが、そうするまでもなく、一陣の風が俺の側を吹き抜けて白煙を散らした。
振り返ると、つぐみが笑顔で手を振った。その手には黒い円盤を持っている。何かの魔具だろうか?
「サンキュ。お前ら2人とも魔法特化型なんだな」
「そ。物理も少しはいけるけど、だいたいは魔法かな。つばめは天球儀のロッド、うちはこの天文盤が武器だよ」
つぐみの持つ天文盤が、チラリと赤い光を放った。敵に反応したらしい。「ほら、次来るよ」と促し、つぐみが天文盤を構える。
「今度はうちがやろうかな! 『気流斬』!」
天文盤から立ち上った風の筋が、つぐみの周りを1周したのち、目にも止まらぬ速さで敵へ襲いかかる。
敵は、さっきのチョークラットと同じ真っ白な体をしているが、今度はネズミではない。
丸みを帯びた長方体……目も鼻も口も脚も、生物らしいパーツは何もついていない。スライム系のモンスターだ。
風の刃に捉えられ、白いスライムはいとも容易く両断される。
――が、そこでは終わらなかった。真っ二つにされたモンスターは、何事もなかったかのようにそれぞれ床で跳ね続ける。1体が2体になっただけだ。
「は? 意味わかんないんだけど! もっかい斬ってやる!」
「あ、おい待――」
「いくよー! 『気流斬』!」
俺が制止するより先に、つぐみは再び風の刃を――連続で何撃も打ち出す。
そうすると、敵は当然……
「ちょっとやだー! めっちゃ増えるんですけど! しかもどんどん小さくなって戦いづらい!」
「そりゃそうだろ……つーか直感で分かれよそんぐらい」
斬ったら増える系のモンスターと戦う時は、まず無闇に数を増やさないのが鉄則だ。
それくらい常識だと思っていたが……こいつら、意外とバトルの基礎がなってないな。これまでずっと力押しでやってきたんだろうか?
「あーあ、こんなに増やしちゃって。何やってんですか」
教室の入り口から成り行きを見守っていたカレンが、大袈裟にため息をつく。
「今後も同じパーティでやっていくなら、あなたたちにもカレン式スパルタ教育が必要みたいですね」
「むー……何とかするし! つばめ!」
「おう!」
つぐみが左手を差し出した。その手首には金のブレスレットがついており、そこから黄金の鎖が伸びている。
教室の壁伝いに、鎖は音もなく伸びていく。いつの間にやら教室の奥へと移動していたつばめの腕からも、同じ鎖が伸びてきている。
反時計回りに、つぐみから半周、つばめから半周伸ばされた黄金の鎖は、やがて教室を囲う大きなひとつの円となる。
「「連星の絆」」
円を描いた鎖は中心で捻れて立体的な8の字に変化しながら、光の粒になって教室に拡散する。「へえ」と、カレンが呟いた。
何が起こっているのか、俺には分からない。縦横無尽に飛び跳ねる白スライムたちを避けるのでいっぱいいっぱいだ。
「見ててよね、今やっつけるから!」
つぐみが俺にウインクをして、右手に持つ天文盤を高々と掲げた。
「「範囲展開、氷結旋風!」」
つぐみの天文盤とつばめのロッド、それぞれから白銀色の魔素が立ち上る。
魔素は混ざり合い渦を巻きながら、教室中を吹き荒れる。窓ががたがたと鳴り、俺は思わず机の陰に身を潜めた。
つぐみの魔力が風を生み、つばめの魔力が氷の刃を作り出す。ちょうどサバイバルナイフ程度の大きさのそれは、暴風に乗ってあらゆるものを切り裂き破壊する。
「おい、ちょ、危ねえ――……」
危ねえだろ。という文句を、言い切る前に飲み込んだ。
危なくなかった。俺に迫ってきた氷の刃は、肩に突き刺さる前に魔素となって霧散する。
「攻撃対象の自動選別。あの2人、意外と高度なことするじゃないですか」
あのカレンが感心している。よっぽどだ。
そうして感心しているうちに、事は片付いた。白スライムどもは暴風に巻き上げられ、氷の刃に貫かれる。
切れば分裂するスライムも、刺突には弱かったらしい。弾力のあった体は飴のように溶け、教室の床を白く汚した。
「うっし、終わりー!」
5分も経たずに、教室内のモンスターは全滅した。溶けたスライムが一斉に魔石に変わる。小指の爪よりも小さい、極小の魔石だ。
「うーわ、アイテム変換してもロクなのになりませんよこれ。全部かき集めて1個のアイテムに変換して、ようやく魔剤1本てとこですかね」
床に散らばった魔石を掃き集め(ちょうど教室の隅に掃除用具入れがあり、使い古されたT字箒があった)、1か所に集めてアイテム変換をする。
カレンの予測は悪い方に外れ、魔石は魔剤にすらならなかった。紫色の、なんだか濁ったゴム玉のようなものが生成され、カレンは頭を抱える。
「何だ、これ?」
尋ねると、カレンは渋い顔でそれを摘み上げると、無造作に俺に差し出した。
差し出されたものは取り敢えず受け取るとして、何をどうすれば良いのか再度尋ねると、「食べて良いですよ、それ」と信じられない言葉をもらう。さっきまで床に転がってたやつだぞこれ。
「いわゆる経験値グミです。ランダムですがスキルやステータスに経験値が入るので、先輩どうぞ」
「いや……せめて一旦洗おうぜ」
「こんなサイズの経験値グミ、さっさと食べないと魔素になって消えちゃいますよ。勿体無いですからほら、早く」
手のひらの中のグミを見つめる。埃っぽい。
助けを求めるために双子を見るが、「今んとこ一番経験値が低いいづるんが食べるべきだよなー」「いづるんが食べるべきだよねー」と、目を逸らしつつうそぶいている。裏切り者どもめ。
仕方ない。せめてもと思い指で埃を拭い、飲み込むように口に放り込む。埃っぽさの中に、ほのかなブドウの風味がした。




