新たなスキル ③
――……消滅?
意味が分からず、カレンを見て、それから双子の方も見てみる。
全員、多分俺と同じ表情をしている。つまり、吉野さんが何を言っているのか分からない、という表情。
俺たちの反応を見て、吉野さんは「なるほど」と呟いた。もしかして、俺たちが意図的に何かをしたと疑われていたのかもしれない。その――ダンジョンが消滅した、という事象について。
「いや……わけ分かんないんですけど、どういうことですか?」
「事件後の調査で分かったことなんだが……あの場所からダンジョンが綺麗さっぱり消えていた。ダンジョン化する前のオフィスが、多少の経年劣化は見られるものの、ほぼそのまま復元されていたんだ。この意味が分かるかな?」
さあー? と双子が同時に首を傾げ、俺とカレンは顔を見合わせる。
一体、どういうことだろうか。ダンジョンが消滅した?
あり得ない話だ。ダンジョンの最奥に待ち構える強めのモンスター……一般的にボスと呼ばれるモンスターを倒しても、ダンジョンが消えるなんてことはまずない。
ボスを倒せば、そのダンジョンは一時的に難易度が下がり、しばらくの間ボス不在のダンジョンになる。それでもしばらくすればボスモンスターは復活するし、もちろんダンジョンはダンジョンのまま存在し続ける。
隣接するダンジョン同士が拡張の結果バッティングし、ダンジョン同士が競り合った結果、片方が消滅することは稀にだがあるらしい。だがダンジョンが人間に攻略されて消滅するなんて、そんな事例は聞いたことがない。
(聞いたことはない……が、)
もし、そんなことが本当にあるのだとしたら……さっきはわけが分からないなんて言ったが、改めて考えてみると心当たりがなくもない。
(俺たちが戦った相手――結局最後まで姿を現さなかった、殺気追尾でしか捉えられなかった敵。もしあれがモンスターじゃなくて、ダンジョンそのものだったなら……)
だとしたら、ダンジョンを消滅させたのは――……
「先輩が、ダンジョンを殺したってこと?」
カレンが、まるで俺の思考を読んだかのようなタイミングでそう言って、俺の肩がびくりと震える。
そうだ、俺の炎魔法はダンジョンそのものを燃やした。その結果としてダンジョンが消滅したのなら、俺はダンジョンを「殺した」ということになる。
「妙な言い回しをするね、久垣カレン君」
吉野さんの声が、いやに鋭い。
「殺す……とは。まるでダンジョンが生きているかのような表現だ」
「ものの例えですよ、おじさん」
カレンも負けず劣らず刺々しい。
両者はしばし睨み合い、間に挟まれた俺は実に居心地が悪い。
「……だがまあ、概ねそういうことだ」
先に折れたのは吉野さんの方だった。桜色の眼光から目を逸らし、俺へと視線を向ける。
「ダンジョン内に設置されていた記録用単眼が、通信断絶後も接続無し状態のまま記録だけ取っていた。映像・音声記録に、魔力ログ。それらによると、君の炎魔法がダンジョンそのものにダメージを与え……消滅させたようだ」
そうなのか。つーか、そこまで分かってたんなら、さっきは俺にかまをかけたってわけか。
「……わざとやったわけじゃないです。あの時は必死だったし、自分にそんなことが出来るなんて思ってもいませんでした」
弁解すると、吉野さんは「ああ、違うんだ」と顔の前で手を振った。
「君が悪意をもって何かしたとは思っていないよ。ただ、我々にとっても初めての事例でね、慎重にならざるを得ない。我々にとってというか……恐らく、世界レベルで見ても初めての事例だろう。イヅル君、何か――……」
姿勢をかがめ、吉野さんが俺の瞳を覗き込む。
「――何か、変わったことはないかな?」
「変わったこと……?」
質問の意図が分からず、何となく手のひらで肩やら胸やらあちこちを触ってみてしまう。全身を怪我していることが、変わったことと言えば変わったことか。
「いえ、特には」
「今回受けた検査は、身体検査だけ?」
「はい。レントゲンとか……他に何かあるんすか」
「……少し、失礼するよ」
吉野さんの手が、俺の頭に伸びた。中指に指輪をしている。変わったデザインの指輪だ。表側ではなく手のひらの方に、宝石が埋め込まれている。
あの宝石――ルビーのように赤い。あれは魔石だ。
「ステータス開示」
一般的に、ダンジョン外での魔石使用は厳しく制限されている……が、異空間管理庁の職員は、業務に必要な場面に限り、最低限の使用権限が附与されている。
魔石が光り、俺のステータスが開示された。
「なんなんですか、いきなり……」
文句を言いつつも、開示された自分のステータスに何気なく目を通し……そして所有スキルの末尾に、見慣れない表示を見つけた。
『スキル:接続』
『スキル:ダンジョン喰い』




