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新たなスキル ②


「吉野さん!」


 スーツ姿の吉野さんは、俺が声をかけると、右手を軽く上げて挨拶をした。視線を素早く左右に走らせてから、吉野さんは悠々とこちらへ歩いてくる。


「歓談中失礼する。少しお話を聞いても良いかな?」


 俺は別に構わないが、突然現れたいかつい男に、カレンも双子も引いている。吉野さん、タッパあるし顔も怖いからな。



「あー、この人は吉野さんって言って、俺の元バイト先の上長だ。怖い人じゃない」


 これは説明が必要だと思い紹介すると、吉野さんは人数分の名刺を配ってから、「よろしく」と言った。

 異空間管理庁、総合管理局総合監視課。吉野さんが異空間管理庁の人なのは知ってたけど、そういえば細かい所属を知るのは初めてだ。


「今回の事件は、私が聴取を担当することになった。事件当時ダンジョン内にいたのは、ここにいる4人で全員かな?」


 頷く。カレンは明らかに警戒した顔をしている。そりゃそうか。俺にとって吉野さんは馴染みの人だが、カレンにとっては初対面の大人だ。しかも強面の。


 双子はさすがのチャラさというかなんというか、さっきまで身構えていた態度はどこへやら、人懐っこい様子で「え、いづるんの上司? 顔怖すぎウケるヤバ」などとはしゃいでいる。



「さて、事件についてだが。大まかな時系列は試験官の方から聞いている。加えて君たちには、より詳細な状況を聞いていきたいと思ってね」

「……ちょっと待って下さい」


 早速事情聴取モードに入ろうとする吉野さんを、カレンが制止する。


「まずは私たちに説明するのが先じゃないですか? 私たち、状況に対処するだけでいっぱいいっぱいで、何が起こっていたのか全く分かってません。まずそちらの説明責任を果たすべきでは?」


 やや口調が尊大だが、言っていることはスジが通っている。

 今回の事故の原因が何であるにしても、俺たちは被害者だ。事情を知る権利がある。


「それもそうだね」


 吉野さんも納得し、「失礼するよ」と言って丸テーブルの一縁に腰を落ち着けた。



「とはいえ、何もかもが明らかになったわけじゃない。判明した事実はふたつ。まずひとつは、魔力ログを辿って分かったことなんだが――……ダンジョン内外の通信が途絶し、君たちがダンジョンに閉じ込められたあの時、あのダンジョンの攻略難易度が上昇していた」

「難易度が?」


 おうむ返しに尋ねながら、つぐみがクッキーの大袋を吉野さんに差し出した。

 吉野さんはやんわりとそれを断りながら「そう」と話を続ける。


「正確には、ダンジョン浅層から中層の難易度はむしろ易化していたんだが、ダンジョン最深層の難易度だけが上級レベルにまで跳ね上がっていた」

「上級レベル……どうりで」


 つばめが悔しそうに顔を歪ませる。あの触手相手に、手も足も出なかった事実を噛み締めているのだろう。つぐみもまた、ぶるりと肩を振るわせた。2人とも死にかけたのだ。無理もない反応だ。



 まあ、死にかけたのは俺も同じなのだが。

 上級レベルか。そりゃカレンがいなきゃ太刀打ちできないわけだ。


 浅層から中層の難易度はむしろ易化していたというのも、感覚的に納得できる。深層の部屋に辿り着くまで、道中の敵は雑魚ばかりだった。それがどういう意味を持つのかは分からないが。


「そういう……途中で難易度が変化するとか、浅層と深層で難易度が違うとか、よくあることなんですか?」

「全くないとは言わない。ダンジョンは多かれ少なかれ、常に変化し続けるものだからな。だが免許試験に使われるようなダンジョンは、試験の公平性を保つためにも状態が極めて安定しているものが選別されている。今回のようなケースは……まずありえないはずだった」


 あり得ないはずのことが起こった。あれはやっぱり、相当な異常事態だったのだ。



「最初から何かおかしなダンジョンだったもんな。ダンジョン構造も極端に変化したし」

「ほう、構造が? それは報告になかった事象だな」


 吉野さんが情報に食いついてくる。


 あのダンジョンは確か、初めはむしろ極端に複雑な構造だったのだ。扉を潜ればまた扉、通路を進んでも元の場所に戻る……まるで複雑な迷路そのものだった。その後で、急に一本道の通路のみの構造になった。明らかに異常だった。



 それを説明していると「あのー……」と、双子が気まずそうに手を挙げた。


「それについては、うちらが原因というか……」

「俺らがいづるんたちを嵌めようとしてマップをいじったというか……」



 ……は?



「うちらのスキルでぇ……難易度の低いダンジョンならある程度内部構造をいじれるっていうか……それでその、相手チームが迷いまくって試験落ちたらウケるな~って思ったっていうかぁ……」


 説明しながら、つぐみの声がどんどん小さくなっていく。


 へえ。と、カレンが短い一言で双子を威圧する。「「ひええごめんなさいごめんなさい!」」と、カレンを拝みながら頭を下げまくる双子の、その姿は哀れ極まりない。



 要するに、通信断絶やら難易度変化やらがおかしくなったのは原因不明だが、ダンジョンに入ってすぐやたらと複雑な迷路に翻弄されたのは、この双子のせいということらしい。まぎらわしい。


「なーーーるほど。そーじゃないかと思ってたんですよねえ。さて、どう落とし前つけてもらいましょうか」

「「ごめんなさい〜!」」

「おい、あんまいじめてやんな」


 脅すカレンと怯える双子、止める俺。ごちゃごちゃやっていると、吉野さんが大きめの咳払いをした。



「話を戻して良いかね? 判明した事実のふたつ目……こちらがより深刻な問題でね。君たちに話を聞きたいのは、この点なんだ」


 吉野さんは生来の強面に、更に鋭く研いだ視線を乗せて、俺たちの顔を順番に見た。


「ダンジョンが消滅した理由について、心当たりは?」



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