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新たなスキル ①



「いづるんごめんねー!」

「ほんっっっと! すまんかった!!!」


 入院2日目、検査に次ぐ検査で疲弊しきった午後、うるさい双子が襲来した。

 ここは大部屋。相部屋のおっさんが、迷惑そうな視線をこちらへ向けてくる。


「いや声でけえよ。ここ病院だからな、静かに」

「あそっか。つばめ、静かに!」

「お前の声の方がでけーだろ!」


 どっちもでけえよ。



 あの後、救急車で運ばれた俺は、異空間管理庁と連携している都内の病院に入院することとなった。


 俺たちがダンジョンに閉じ込められた時、俺たちの保護者に緊急連絡が入ったらしいが、あわいさんはちょうど異空間管理庁の仕事でダンジョンに潜っている最中だった。

 あわいさんが病室を訪れたのは、入院翌日の朝。「ごめんね」と「よかった」を繰り返しながら、俺はたっぷり抱きしめられ、頭を撫でられた。


 あわいさんと感動の再会(?)を果たした後は、レントゲンやら魔力測定やら、とにかく検査、検査、検査。

 今日はようやく自由時間が割り当てられ、こうして病室でまったりしていたところ、双子の襲来を受けたというわけだ。



 恐らく双子も、検査から解放されたばかりなのだろう。どちらも俺と同じ入院着を着ている。つばめの方は点滴を引っ提げているが、まあまあ元気そうだ。大声で騒げる程度には。


「やー、もうさ、うちらめっちゃ反省した! いづるんのこと、マジで舐めてた!」

「ほんとごめんな! 助けてくれてマッジで感謝してる!」


 顔の前で両手を合わせ、全力で俺を拝んでくる双子に、呆れ半分照れ半分といったところだ。


「謝罪は別にいい。とにかく、無事で良かった」

「「いづるん神か〜〜〜!??!?」」

「声でけえ……」


 流石に周りの迷惑になるので、双子を引き連れて談話室へ移動する。



「それで……あの後どうなったんだ?」


 談話室の丸テーブルを囲んで座る。いよいよ話を始めようという時になって、つぐみがスマホを取り出した。


「あーちょい待ち。近くにいたらおいでーって、カレンに連絡してみるわ」

「え、あいつの連絡先知ってんの」

「うん、昨日会った時に聞いといた!」


 恐るべし、陽キャのコミュ力。



 事件後、俺や双子が短期入院となる中、カレンだけは軽い診察だけ受け、入院せずにさっさと帰ってしまった。

 一応入院は勧められたらしいが、本人が嫌がって半ば無理矢理帰ったのだ。


「ちょーど病院のロビーでお母さんと話してたらさ、カレンが1人で帰ろうとしてて。ほらあの子目立つじゃん? お礼もしたかったし、連絡先教えて〜って突撃したわけ! あ、カレン来るって!」


 つぐみは嬉しそうに、スマホの画面を見せてくる。


『いづるんおるけど来る?』

『行きます。病院?』

『そ! 3階の談話室!』


 そんなやり取りの後で、人気キャラクターが『待ってる』とウインクしているスタンプが貼られ、更にカレンからは同じキャラクターが『すぐいく』と走っているスタンプが返ってきている。


「あいつ、スタンプとか使うんだ」


 俺も一応カレンとはメッセージのやり取りくらいする仲だが、スタンプが来たことは一度もない。まあ、俺がスタンプ全く使わないタイプだから、合わせているだけなのかもしれないが。


「おっ、なになにいづるん、ヤキモチか〜い?」

「ちげーし、そのいづるんって何ださっきから」

「何だも何も、ねえ」

「いづるんだよな、なあ」


 よく似た顔を見合わせて、双子はくすくすと笑う。

 免許試験の前にも、こんなふうに2人で笑っていたが、あの時と違って嫌な感じはしなかった。



 数十分後、談話室に現れたカレンは、抱えきれないほど大量の菓子を携えていた。スナック菓子からチョコ菓子まで様々だ。ミント系ガムのボックスまである。


「ちょうど良かった。取りすぎて困ってたんですよ」

「「え、やば!」」


 双子がハモる。「あ、先輩こんにちは」と、こちらにぞんざいな挨拶をしたあとで、カレンは丸テーブルに菓子の山をこしらえる。


「ゲーセンで時間つぶしてたら、こんなことになっちゃって」

「カレンすご! 天才じゃん!」


 早速スナック菓子の封を切りながら、つぐみが笑う。幸いにして、食事制限があるタイプの検査は既に終わっていたので、俺も遠慮なく手をつける。


「ありがとな、カレン」


 菓子の礼を言うと、カレンは大きめのチップスを咥えたまま「ふぁい」と返事をした。




 それぞれ好みの菓子をつまみながら、話はようやく本題へと進む。

 俺が気を失ったあと、何が起こったのか。


 俺が放った最大火力の炎魔法は、殺気の糸を辿り、敵の本体を燃やし尽くした。

 カレンの予想通り、敵はダメージを受けると同時に、ほぼノータイムでつばめから体力を吸い取ったそうだ。しかしカレンの回復魔法が、つばめの命を繋ぎとめた。

 ダメージを受けてから体力を吸収するまでの、そのわずかなラグが、とうとう敵の命取りとなったのだ。


 響く絶叫。炎は壁や天井にまで燃え広がり、ダンジョンは身悶えをした。触手は炭となり焼け落ちて、壁は剥がれ、天井は崩落し……



「そんなこんなで、私のおかげで死者もゼロ。めでたしめでたしってわけです。私のおかげでね」

「「いやほんっっっと!! ありがとうございますカレン様!!!」」


 完全にシンクロした動きで、双子がカレンに頭を下げた。カレンはそれを見て偉そうにふんぞり返り、うんうんと頷く。


「まあ良いでしょう。あ、感謝も良いですけど、それより謝罪が欲しくてですね。特にあなた、えーと、すずめ」

「つばめっす!」

「つばめ。私をか弱い女の子扱いしたこと、しっかり謝罪してもらいます」

「舐めててすんませんっした!!」


 運動部の声出しばりに声を張って謝罪するつばめに、カレンは実に満足げだ。



 それにしても、一体何が起こっていたのか。結果的に死者ゼロだったから良かったものの、カレンの超人的な戦闘能力と回復能力がなければ、全員ころっと死んでいたところだ。

 比較的安全なはずの中級免許試験で死人が出かねないほどの事故なんて、聞いたことがない。


「結局、何だったんだろうな。あのダンジョン」

「知りませんよ。何でも良いですけど、あのごたごたのせいで免許試験どうなるか分からないっていうんですから、最悪ですよね」


 あ、まずい。この話題を続けるとカレンの機嫌が悪くなる。もう既に「あ〜〜〜ダンジョン入りたい!」と苛々し始めている。


「え、別に1人で入れば良くない? カレンぐらい強かったら、フツーに単独免許取れるでしょ」

「あー、それがですね、実は……」


 カレンが自分の持つハンデについて説明している間、俺はのり塩味のスナックをかじりながら、何となく談話室の入り口に視線を向ける。


 ダンジョン関連事故等の専用病棟であるここは、一般病棟より人が少ない。がらんとした廊下に、突っ立ったままこちらを見ている人影を見つけ、意識がそちらへ向く。


 おや、と思う。それは、俺のよく知る人だった。



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