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殺意を辿れ ③


「私たちが、戦っているのは……」


 消えるような声でカレンが呟いた、その先の言葉は聞けなかった。雑魚の中では比較的強そうな、特大の触手が現れたからだ。


 対処しようとするカレンに、「俺がやる」と身振りで示す。

 まずは触手の胴体に一閃。触手はその身をくの字に曲げて悶絶する。その隙に、集まってきた雑魚触手どももまとめて、横一文字に全体斬りをお見舞いする。獲得したばかりのスキルだが、コツは掴めてきた。


「やりますね」


 カレンの褒め言葉にドヤ顔を返したその時、再び目の前にステータスが現れた。



 ――スキル解放。殺気追尾【C】



「お、なんか知らんスキル出たぞ」


 スキル名に集中すると、スキルの詳細が知識そのものとして頭に流れ込んでくる。


 殺気追尾――発動すると、自分に向けられている殺気(ヘイト)を感知し、殺気元へと遠距離攻撃を自動追尾(ホーミング)させることができる。


 なるほど……気配察知の(ブランチ)スキルのようだ。



「なんか良いスキル引きました?」

「殺気追尾だ。触手の殺気(ヘイト)が俺に向けば、追尾ができる。大元が分かるかもしれない」


 説明すると、カレンがわずかに目を見開いた。

 魔力光の中に浮かび上がったカレンが、吸い寄せられるように俺を見る。桜色の視線は、どこか俺を値踏みしているようであり……見つめることによって何かを見極めようとしているような……居心地の悪い視線だ。


「な、なんだよ」

「いえ……私の気配察知でも引っ掛からなかった相手を、先輩のスキルで追尾できるとは思えませんが。やってみるほかないでしょうね」

「一言余計なんだよ、お前は」


 文句を言うと、カレンはふふっと笑う。その瞳には、もう先ほどまでの鋭い厳しさはない。


「あのでっかい触手のところまで戻りましょう。一撃お見舞いしてやれば、敵の殺気(ヘイト)が先輩に向くはずです。そしたら本体の居場所を追尾できるんですよね?」

「そのはずだ」

「バリアを厚くします。そう長くは持ちませんが、しばらくは雑魚の攻撃なんて微塵も通りませんから、反撃も防御もせずに走ることに集中してください」

「ああ、分かった」


 白銀の幕が俺たちを覆い、すぐに透明になる。視界が晴れ渡ると同時にカレンの手を引き、中央の太い触手へと一気に走り始めた。



 俺たちの行く手を阻もうと、黒い触手たちが立ちはだかる。細い体を鞭のようにしならせ、毒液を飛ばしてくるものもいる。

 しかしカレンのバリアの前に、そんな攻撃はそよ風に等しい。


 顔面を目掛けて振るわれた触手の一撃が、見えない壁に跳ね返り、肉片を散らす。さすがにひるんだところをカレンに見られ、「先輩!」と叱責される。


「攻撃、通らないって言ってるでしょ! いちいちビビらないで下さい!」

「あ、ああ。悪い」


 そんなことを言われても、例えばそこにガラスがあると分かっていても、顔面にボールが飛んできたら咄嗟に目を瞑るに決まっている。生物としての本能だ。


 ……なんて言い訳を考えている間に、間もなく俺たちは太い触手の真下へと到達する。



 つぐみが、助けを求めるような目でこちらを見る。つばめを回復させるにしても、もう魔力が限界なのだろう。急がなくては。

 まずは太い触手を攻撃し、殺気(ヘイト)を俺に向けさせる。


「おい! こっち見ろ、タコ野郎!」


 まとわりついてくる黒い触手どもも巻き添えにして、つばめを捕らえている触手に剣を突き立てた。

 肉を貫く感触が伝わってくる――……かと思いきや、



「うわっ!」


 まるでトランポリンのような凄まじい弾性に、刃はミリも通らずに弾き返される。その勢いに剣は俺の手を離れ、弧を描きながら後方へと放られた。やばい。


 すかさず、カレンが左手で刀を振るう。しかし、淡い桜色を帯びた彼女の刀すら、一見して柔らかそうな触手を斬るには至らない。


「物理攻撃無効化ですね。厄介な……」


 物理攻撃が効かない。俺だけでなくカレンまでもが弾かれたということは、威力にかかわらず全ての物理攻撃を無効化するのだろう。


 こんな面倒なスキル持ちなら、あらかじめ忠告してほしいものだ。と、つぐみを見る。

 しかしそういえば、つばめもだが――この2人は武器を持っていない。もしかしたら、魔法一本で戦うスタイルなのかもしれない。魔法でしか攻撃しなかったから、こいつに物理攻撃が効かないということを知りようがなかったのかも。



「……魔法なら効く、のか」


 剣を失い空になった右手を、太い触手へと向ける。


火炎弾(ファイア・ボム)!」


 太い触手を包み込むように、球形の炎が燃え盛る。

 身を焦がす高温に触手はびくりと痙攣するが、それも一瞬のこと。すぐに大量の水蒸気が立ち上りはじめる。つばめの氷魔法を使って、炎を防ぐ氷の盾を形成しているのだ。


「くそ、小賢しい真似を……うわっ!」


 振り下ろされた触手を、間一髪で避ける。危ねえ……が、これで触手の殺気がこちらへ向いた。


「本体をあぶり出してやる――……『殺気追尾』」



 防御をカレンに任せ、立ち止まって目を閉じる。殺気追尾の発動条件は、発動中ずっと目を閉じていること。


 瞼の裏の赤黒い闇の上に、ぼんやりと光の糸が浮かび上がった。起点を俺として、俺に対して殺気を向けているものへと糸は伸びている。


 全神経を光の糸に集中し、


火炎弾(ファイア・ボム)!」


 炎魔法を放った。燃え盛る炎は糸を辿って、その先の敵へと到達した……はずだった。



「ダメです、先輩!」


 カレンの声に目を開けると、何が「ダメ」なのかは一目瞭然だった。


 炎魔法は、俺に殺気を向けていた全ての敵に分散してしまっていた。つまり、太い触手だけでなく雑魚触手にまで。しかも魔法の全体化と同じで、分散すればするほど威力も減衰するらしい。


 無数の雑魚触手に分散した炎魔法は、火の粉程度の火力しか留めていない。



「くそ……追尾先を選別できるか試してみる。悪いが、もう一度やらせてくれ」

「急いでください。私のバリアもだいぶ耐久削られてますし、あっちも――……」


 カレンの視線の先には、もはや息も絶え絶えのつぐみがいる。つばめの体力回復のために魔法を連続使用し、渡しておいた回復薬も使い切って、もう後がないのだ。


(次こそ……!)


 再び目を瞑り、光の糸を浮かび上がらせる。そこからさらに集中し、雑魚触手から伸びる糸を意識の外へと消していく。



 極限まで集中しないと、すぐに糸が絡まって、どれがどれだか分からなくなってしまう。

 本体に繋がっている糸だけを選別する……頭が痛い。酷い眼精疲労になったかのような不快感だ。


(どれだ? あの太い触手の殺気……どこから伸びている?)


 じりじりと目の奥を焼きながら、全神経を研ぎ澄ます。



 ――と、不意に1本の糸が光を増した。


 他の糸よりも明らかに太く明るく、俺へと繋がっている殺意の糸。その先は……闇の奥へと伸びている。



「見えた! 炸裂炎弾(グレネード・ファイア)!」


 目を閉じたまま、俺はさっきより一段階火力の強い炎魔法を、糸の先へと放つ。



 ぎゃああああああッ!


 人間の悲鳴と獣の咆哮とを混ぜたような絶叫が、部屋を震わせた。

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