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殺意を辿れ ②


 俺たちの動きを感知してか、にじり寄っていた触手が一斉に頭を上げた。


「『毒防御(ポイズンガード)』!」


 カレンの指先から紫色の光の輪が広がり、俺やつぐみ、つばめの上に降り注ぐ。黒い雑魚触手に、毒の追加効果があることを感知したのだろう。

 デバフ防御魔法は、基本的に1回につき1人ずつにしかかけられないはずなのだが、こいつのチートぶりに今さら驚く俺ではない。


 足元に巻きつこうとする触手を叩き切り、遠くの触手には炎魔法を放つ。太い触手の右側を走り抜けながら、その肉に剣を突き立てようとする。


 ――が。



「先輩! 下がって!」


 カレンの指示に、反応が遅れる。繋いだ手に引っ張られるようにして背後に倒れ込むと、さっきまで俺が立っていた場所に氷柱が突き刺さった。つばめの氷魔法だ。


「また来ますよ!」


 言われなくとも、今度は俺も警戒している。冷気を伴って空気中に生成される氷柱は、矢を放つかのごとく俺たちを狙ってくる。

 いや、正確には、俺とカレンとが繋いだ手をピンポイントで貫こうとする。


 乙種以上のモンスターは厄介なデバフスキルを持っているだけではなく、丙種モンスターよりもだいぶ知能が高い。

 俺たちが、常に手を繋いでいなければならないという誓約に縛られていることを、目ざとく気付いたのだろう。



 俺を狙われたら俺が避ければいいし、カレンが狙われたらカレンが避ければいい。

 だがちょうど中間を狙われるというのは厄介だ。俺とカレンの反応速度が異なる(もちろんカレンの方が速い)し、どちらに避けるかも咄嗟には意思疎通ができない。


 武器で叩き落とそうにも、カレンも同じことを考えていたりして、2人の武器がバッティングしてしまう。


「あーもう、鬱陶しい!」


 カレンが叫んだ。敵の攻撃を鬱陶しいと言っているのか、俺と手を繋がなければいけないことを言っているのか。

 ……どっちもだろうな。



「敵が魔法を使ってきたら、魔力反応から本体の位置を特定できると思ったんですけど……」


 カレンがイライラと舌打ちをする。


「魔力源があの男だから、肝心の本体がどこにいるのか全然分からないんです。探しますよ、本体」

「探すってどうやって」

「走り回る。以上!」


 シンプル。実にシンプルだ。



 今いるフロアは――恐らくこのダンジョンの最深層だが、まだ俺たちの魔力で照らせていないエリアが多分にある。そこをしらみつぶしに探せば……ということなのだろうが、現実問題として可能なのかどうか。


「間に合うか? つばめの体力もつぐみの魔力も、もう限界っぽいぞ」

「間に合わせるしかないでしょう。ここでごちゃごちゃ言って停滞しているよりかは、よっぽど良いと思いますけど」

「そりゃそうだ」

「気配察知の探査距離を最大限に広げながら走ります。スキル『夜目』で暗闇でも周りが見えますから、走る方向も私に任せてください」

「……了解」



 分かっちゃいたが、どうにも俺はお荷物だな。


 本来カレン一人なら、さっさと暗闇の中に敵の本体を探しに行き、見付けて撃破していただろう。俺と手を繋いでさえいなければ、彼女はもっと圧倒的に強いし万能だ。


「魔力光で私たちの周りだけ照らしますから、先輩は適当にやれそうな雑魚を叩っ斬っといてください。オーケー?」

「オーケー」


 いや、自分の不甲斐なさに不貞腐れていてもしょうがない。

 剣を持ちなおし、いつでも斬撃を繰り出せるよう身構える。「行きますよ!」とカレンが発した合図と共に、引っ張られる手の導きのままに彼女を追う。



 走る俺たちを追いかけて、あるいは待ち伏せていたかのように道を塞いで、影のように真っ黒な触手が襲い掛かってくる。


「雑魚は引っ込んでろ!」


 剣を振りかぶり、触手を両断する。今の俺に出来ることは、カレンの手を握り、カレンの邪魔をする雑魚どもを薙ぎ払うことくらいだ。


 何体か倒したところで、目の前にステータス表示が現れる。


 ――『斬撃』スキルレベルアップ

 ――(ブランチ)スキル解放。連続斬り【C】

 ――(ブランチ)スキル解放。全体斬り【D】


 さっそく、全体斬りスキルを使ってみる。剣のひと振り、その斬撃が大きく広がり、横一列の敵を一気に斬り去った。


 カレンには遠く及ばない。だが――俺だって、確実に強くなってる。



 カレンが俺の戦いぶりを一瞥して、頬の端にわずかな笑みを乗せた――ように見えた。魔力光のちらつきが見せた錯覚だったかもしれない。


 いずれにせよカレンは何も言わなかった。気配察知に集中している。暗闇(奴らの領分)の中に、きっと触手の本体がいるはずだ。その居場所さえ分かれば、問題は全て解決だ。カレンに倒せないモンスターなどいないのだから。


 すぐ見つかって、すぐ倒せる。どこか現状を楽観視している自分がいた。しかし――……



「ダメ……どこにもいない」


 ふいに立ち止まり、カレンが言った。珍しく、少し焦っているような声色だ。


「いない?」


 飛び掛かってきた雑魚触手を真っ二つにしながら訊く。カレンが頷くのが気配で分かった。


「可能な限りの索敵はしました。でも、見えるのは雑魚の敵影と『本体から伸びる触手』だけ。肝心の本体がどこにも……」


 こうして立ち止まって考えている間にも、雑魚触手は次から次へと湧いて出てくる。所在不明、正体不明のボスモンスターを倒さない限り、雑魚は無限湧きする。状況は何も変わらない。


 カレンは無言のまま、じっと何かを考えている。俺はカレンの思考を邪魔しないよう、雑魚触手を斬り続け、ちまちまと経験値を溜めていく。



「もしかして」


 触手たちの断末魔にかき消されそうなほど小さく、カレンが呟いた。


「もしかして、私たちが戦っているのは……」



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