お土産
翌日の放課後。
杏柚たちはスキー場の食堂に集まり、机いっぱいに紙やペンを広げていた。
ホワイトボードには大きく書かれた文字。
「白銀スノーパーク限定お土産会議」
「よーし!」
杏柚がペンを握りしめる。
「今日は『ここでしか買えないもの』を考えるよ!」
「はい!」
三人も元気よく返事をする。
「まずは思いついたものを何でも書いてみましょう。」
風夏の提案で、全員が紙にアイデアを書き始めた。
五分後。
「できた!」
机の上にはたくさんの案が並ぶ。
・雪だるまキーホルダー
・ステッカー
・マグカップ
・手袋
・ニット帽
・雪の結晶のストラップ
・コーンポタージュ味クッキー
「くーちゃん。」
千春が静かに紙を持ち上げる。
「やっぱりポタージュ味なんだ。」
「名物なのです!」
胡桃は真剣だった。
「でも食べてみたいかも。」
杏柚が笑う。
「本当?」
「ネタとしては面白い!」
「ネタなのです?」
みんなが吹き出した。
◇ ◇ ◇
しげも会議に参加する。
「お土産かぁ。」
腕を組みながら考え込む。
「昔は木彫りの熊を置いてたな。」
「北海道じゃないよ!」
杏柚がすかさず突っ込む。
「そうだった。」
しげも笑う。
「でも木工は昔からこの町が得意なんだ。」
「そうなの?」
「山が多いからな。」
その一言に、風夏が目を輝かせた。
「でしたら、地元の木工職人さんと一緒に作れませんか?」
「それだ!」
杏柚が立ち上がる。
「町のみんなにも協力してもらおう!」
◇ ◇ ◇
翌日。
四人は商店街を歩いていた。
目的は木工房『森の工房ささき』。
昔からスキーの板や家具を作っている職人さんがいるらしい。
「こんにちは!」
扉を開けると、木の香りがふわりと広がる。
「おや?」
奥から白いひげのおじいさんが現れた。
「杏柚ちゃんじゃないか。」
「佐々木さん!」
「大きくなったなぁ。」
どうやら父とも古い付き合いらしい。
「今日はお願いがあって来ました!」
杏柚は白銀スノーパークの現状を説明した。
父が海外へ行ったこと。
経営を任されたこと。
みんなで立て直そうとしていること。
佐々木は最後まで黙って聞いていた。
「……そうか。」
しばらく考えてから笑う。
「面白そうじゃないか。」
「えっ?」
「協力しよう。」
「本当ですか!」
「町が元気になるなら、そのほうがいい。」
杏柚は思わず頭を下げた。
「ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
一週間後。
工房から試作品が届いた。
「かわいい!」
杏柚が思わず声を上げる。
手のひらサイズの木製キーホルダー。
雪だるま。
スキー板。
雪の結晶。
そして白銀スノーパークのロゴが焼き印で入っている。
「温かみがありますね。」
風夏が優しく触れる。
「木だから一つ一つ模様が違うのです。」
胡桃も興味津々だ。
「これなら大量生産じゃない。」
千春が笑う。
「一つしかないお土産。」
「それだ!」
杏柚の目が輝いた。
「世界に一つだけ!」
◇ ◇ ◇
その日のSNSでは、新しいお土産を紹介した。
『町の木工職人さんと一緒に作りました。
一つ一つ木目が違う、世界に一つだけのキーホルダーです。』
投稿して数時間後。
コメントが届く。
『かわいい!』
『これ欲しい!』
『今度行ったら絶対買います!』
反応は上々だった。
◇ ◇ ◇
そして土曜日。
売店に新商品が並んだ。
「第一号のお客様です!」
胡桃が小声で言う。
若いカップルだった。
「これ可愛い。」
女性が雪だるまを手に取る。
「木の香りする。」
「おそろいで買おうか。」
二人は笑顔でレジへ向かった。
「ありがとうございます!」
杏柚は思わず深く頭を下げる。
そのあとも少しずつ売れていく。
昼過ぎには半分が売り切れていた。
「すごい……。」
杏柚は売り場を見つめる。
「町の人が作ったものを、誰かが思い出として持ち帰る。」
その光景がとても嬉しかった。
◇ ◇ ◇
営業終了後。
佐々木が売店へやってきた。
「どうだった?」
「半分以上売れました!」
「そうか。」
佐々木は静かに笑う。
「じゃあ追加で作らないとな。」
「お願いします!」
「でも条件がある。」
「条件?」
「今度は杏柚ちゃんたちも作ってみること。」
「私たちが?」
「体験会を開けば、お客さんも喜ぶぞ。」
四人は顔を見合わせた。
「木工体験……。」
風夏が小さくつぶやく。
「楽しそうですね。」
「自分で作ったキーホルダーなら、一生の思い出なのです!」
胡桃も大賛成だ。
杏柚はにっこり笑った。
「決まり!」
「次は木工体験イベント!」
すると千春が笑いながら言う。
「杏柚。」
「なに?」
「最近、イベント考えるの楽しんでない?」
「……。」
杏柚は少しだけ照れ笑いを浮かべた。
「うん。」
「楽しい。」
最初は「お小遣い五百円」を避けるために始めたスキー場の経営。
でも今は違う。
笑顔になるお客さんを見るのが嬉しい。
町の人が元気になるのが嬉しい。
友達と一緒に新しいことへ挑戦する毎日が楽しい。
そんな自分に気づき始めていた。
その日の売上は、決して大きな金額ではなかった。
けれど、帳簿には数字だけでは表せないものが増えていた。
町の職人とスキー場がつながり、お客さんと思い出がつながる。
白銀スノーパークは少しずつ、「滑るだけの場所」から、「また帰ってきたくなる場所」へと変わり始めていた。
そして数日後、その評判を聞きつけた一本の電話が、杏柚たちに思いがけない大仕事を運んでくることになる――。




