雪だるま
手作りコーンポタージュが名物になり始めてから、一週間。
白銀スノーパークには少しずつ変化が現れていた。
「今日は十五組も新しいお客さんが来てくれましたよ。」
受付で集計をしていた風夏が、嬉しそうに顔を上げる。
「しかも半分くらいがSNSを見て来た人なのです!」
胡桃も受付表を見ながらぴょんぴょん跳ねている。
「本当?」
杏柚は思わず身を乗り出した。
「うん!」
千春がスマホを見せる。
「『ポタージュがおいしいって聞いて来ました』ってコメントも増えてる。」
「やったぁ!」
杏柚はガッツポーズをした。
少しずつではあるが、確実に成果は出始めている。
しかし、しげは腕を組んだまま難しい顔をしていた。
「喜ぶのはまだ早いぞ。」
「え?」
「土日は増えた。でも平日は相変わらずガラガラだ。」
その言葉に全員の表情が引き締まる。
実際、平日のゲレンデは静かなものだった。
地元の常連が数人滑っている程度で、リフトもほとんど止まっている時間がある。
「やっぱり会社や学校があるからかなぁ。」
杏柚が首をかしげる。
「それもあるでしょうね。」
風夏がうなずく。
「でも、何か『ここでしか体験できないこと』があれば来る人もいるかもしれません。」
「体験かぁ……。」
杏柚は窓の外を眺める。
真っ白な雪原。
ふわふわの新雪。
子どもの頃から遊び場だった景色。
その瞬間だった。
ゲレンデの端で、小さな男の子が雪を丸めているのが見えた。
「何してるんだろ?」
四人で外へ出る。
近づいてみると、男の子は一生懸命雪だるまを作っていた。
でも雪玉は途中で崩れてしまう。
「うぅ……。」
「手伝ってもいい?」
杏柚がしゃがみ込む。
男の子はこくりとうなずいた。
「こうやって転がすと大きくなるよ!」
「わぁ!」
みんなで雪玉を転がす。
ごろ、ごろ、ごろ。
あっという間に大きな雪玉ができあがった。
頭を乗せて、枝を腕にして、ニンジンの鼻を付ける。
「できた!」
男の子は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
その笑顔を見た瞬間、杏柚の頭の中に電球が灯る。
「あっ!」
「また始まった。」
千春が苦笑する。
「杏柚の『あっ!』は何か思いついた合図だね。」
「雪だるまだよ!」
「雪だるま?」
「イベントをやろう!」
◇ ◇ ◇
その日の作戦会議。
杏柚はホワイトボードいっぱいに大きく書いた。
第一回 雪だるま選手権!
「そのまんまだね。」
千春が笑う。
「分かりやすいでしょ!」
「ルールは?」
風夏が尋ねる。
「自由!」
「自由?」
「大きさも形も何でもあり!」
杏柚は身振り手振りを交えて説明する。
「かわいい雪だるまでもいいし、動物でもいい!」
「キャラクターみたいなのでも?」
「もちろん!」
「親子で参加できそうですね。」
風夏も興味を示す。
「優勝したら何か景品が欲しいのです!」
胡桃が元気よく手を挙げた。
「そうだね。」
杏柚は考える。
「何がいいかな?」
しげが笑った。
「リフト一日券なんてどうだ?」
「いい!」
「あとポタージュ無料券!」
「それもいい!」
どんどんアイデアが膨らんでいく。
参加費は無料。
必要なのは受付だけ。
雪はいくらでもある。
「お金もほとんどかからないね。」
千春が感心する。
「うちだからできるイベントだ!」
杏柚は胸を張った。
◇ ◇ ◇
イベント当日。
朝から快晴。
気温は少し低いが、雪遊びには最高の日だった。
「参加受付はこちらでーす!」
胡桃が元気よく呼び込みをする。
「写真撮影はこちらです。」
風夏は参加者の作品を一つ一つ丁寧に撮影していた。
「SNSにも載せますね。」
午前中だけで十五組。
午後には三十組を超えた。
「思ったより来てる!」
杏柚は驚きを隠せない。
子どもたちは夢中になって雪を転がし、大人たちも負けじと本気で作品を作っている。
雪だるまだけではない。
巨大なペンギン。
猫。
犬。
恐竜。
さらには雪のお城まで現れた。
「すごい……。」
杏柚は感動していた。
同じ雪なのに、人によってこんなにも違う作品になる。
「これ全部写真に残そう。」
千春がカメラを構える。
「うん!」
杏柚も夢中で撮影する。
◇ ◇ ◇
午後三時。
投票結果が発表された。
優勝は、小学一年生の兄妹が作った『お昼寝するシロクマ』。
丸く寝転がる姿があまりにも可愛らしく、満場一致だった。
「おめでとう!」
リフト券とポタージュ無料券を受け取った兄妹は大喜び。
「また来る!」
その言葉に杏柚は笑顔で答えた。
「待ってるよ!」
◇ ◇ ◇
イベント終了後。
食堂ではいつも以上に賑わっていた。
「ポタージュ四つお願いします!」
「カレーも二つ!」
「ラーメン追加!」
厨房ではしげが大忙し。
風夏はレジ。
胡桃は配膳。
千春は写真撮影。
杏柚は店内を走り回っていた。
「忙しいー!」
でも、その声はどこか楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
営業終了後。
みんなで売上を確認する。
「食堂売上、過去最高です。」
風夏が静かに告げた。
「本当に?」
「はい。」
「来場者数も今年一番なのです!」
胡桃が飛び跳ねる。
しげは静かに帳簿を閉じた。
「……社長。」
「え?」
「いや。」
しげは少し笑った。
「杏柚社長。」
「まだその呼び方慣れないよ。」
「でも今日の結果は、立派な社長の仕事だ。」
杏柚は少し照れくさそうに笑った。
「みんながいたからだよ。」
「一人じゃ何もできなかった。」
千春たちも照れ笑いを浮かべる。
そのとき、受付の電話が鳴った。
しげが受話器を取る。
「はい、白銀スノーパークです。」
少し話したあと、驚いたような顔で振り返った。
「杏柚。」
「どうしたの?」
「隣町の観光協会からだ。」
「え?」
「今日のイベントが話題になってるらしい。」
四人は顔を見合わせた。
「今度、一緒に冬祭りをやらないかって。」
「えぇぇぇっ!?」
思いもよらない話に、杏柚は目を丸くする。
小さな雪だるまイベントが、町の外まで広がり始めていた。
そしてその知らせは、白銀スノーパークにとって、さらに大きな出会いへとつながっていくことになる――。




