09
大分落ち着いてきて過ごしやすくなってきていた。
その間にも借りにいったり、新しく本を買ったりしてどんどんと増えていた。
つまり、警戒なんかしなくても自然と一人になれるということだ。
「へえ、ゆらはこんなところで過ごしていたんだ」
「花ちゃん。はは、ようこそ」
「佳奈と有紗が二人で盛り上がり始めてつまらなく感じて歩いていたんだ」
結局、彼女も彼女らしくできていなかったからこうなっている。
「もう放課後だからどこかにいこうよ」
「いいよ」
その気がないなら早く振ってくれればいい。
その方が変なのに期待されなくて有紗的にもいいはずなのに。
「あの二人を見ているとなにかが冷めていく自分がいるんだよね」
「極端な思考はあんまりしない方が……」
お前が言うなと突っ込まれてしまうようなことだ。
「気温が落ち着いてきたのも影響しているかもしれない。それに、別に付き合えなくたってなにが変わるというわけでもないし」
う、うーん、あんまり聞きたくないなあ。
彼女にはいつだって余裕があるところを見せてほしい。
そういう弱音を吐くのは私みたいなのがやることだろうと。
「というか、これならゆらを好きになってしまった方がよかったかもね」
「流石にそれは言いすぎだよ」
「お……っと、ゆららしくない冷たい顔だ」
だって一緒にいてもそうならなかったからこうなっているのだ。
上手くいかないからと思ってもいないことを言うのは駄目だ。
「でも、返事待ちのゆらなら私がこう言いたくなる気持ちも分かると思うけど」
「分からないかな」
「さっさと答えてほしいのは同じでしょ?」
「え、花ちゃん告白したの?」
「……なのに保留にして盛り上がっているから嫌だったんだよ」
佳奈さんはなんでそんな無駄なことを……。
申し訳なくなってきてごめんと謝っておいた。
「ほら見てよ後ろ」
「有紗さんと佳奈さんだね」
「あれ、わざと見せつけているでしょ」
待った、これだとただ一緒に帰っているだけなのに勘違いされてしまうのでは?
有紗さんがどうかは知らないけど、佳奈さんからすれば面白くない状態だ。
「ご、合流しよう」
「あ、ゆらは有紗といたいよね」
「そ、そうじゃなくて、このままだと佳奈さんに怒られてしまうから」
軽くでもこの前のおでこに対する攻撃と、背中に対する攻撃を思い出して震えてくる。
今度もこちらのことを考えた威力にしてくれるのかどうかは分からない。
「だからその佳奈が放置してきていたから私はゆらといるんだよ?」
「だ、駄目だよ」
「分かった、二人を待とう」
その結果、花ちゃん、佳奈さん、有紗さん、その後ろに私という状態に変わった。
一瞬だけこちらを見てきたものの、有紗さんがなにか言ってくることはなかった。
佳奈さん云々と言っていたぐらいだから変わってきてしまっているのかも?
だけど、その佳奈さんは花ちゃんから既に告白された状態だからなにも発生しようがないと。
というか、よくその間にいられるなあ。
「花、ゆらとなにを話していたの?」
あ、これは佳奈さんだ。
「今度、出かけようという話をね」
「へー」
「有紗と佳奈の二人と違ってゆらはちゃんと合わせてくれるからね」
いやちょ、なんで喧嘩を売るようなことをするのか。
後ろからだとよく分かる、明らかに空気が悪い方に傾いた。
「ふーん、それならゆらと付き合えば?」
「それもいいかもね」
「「ちょ」」
合流なんかするべきではなかったかもしれない。
一緒のところにいるのに私と有紗さんだけが置いてけぼりだ。
「ゆ、ゆら、違うところにいこう」
「う、うん」
ここには本屋さんなんかもなかったし、有紗さんが動いてくれて助かった形になる。
「あのさ、本当にそんな話をしていたの?」
「ううん」
「あれか、佳奈が保留になんかしたせいか」
そりゃそうか、知らないわけがない。
でも、ぺらぺら勝手に喋らないのは常識だからこれでいい。
「やっぱり知っているんだ」
「あ、私も今日教えてもらったばかりだから差があるわけじゃないからね? 相談に乗っていたの。といっても、悩む必要がないぐらいのことだけどね。だって『私も好き』って返すだけのことじゃん、なにをしているんだろうね佳奈は」
確かに。
あと、私はお付き合いを始めたら一緒に遊びにいきやすくなると考えていたわけだけど、お付き合いを始めたらそれこそいきづらくなることに気が付いていなかった。
そうする度に今日みたいなことが起きてしまう、それは避けなければならないところなのに私はアホだった。
「ごめん……」
「えっ?」
きゅ、急だなあ。
「だ、だってそれはゆらが私に言いたいことだよね」
「私としてはまた佳奈さんが素直になれないパターンに入ってしまっただけだと考えていただけだよ」
「ごめんゆら!」
えぇ、なにも走り去らなくても……。
って、そうではない、いまのは告白の返事か!
どちらであってもちゃんと答えてくれたことには変わらない。
私としてはそれで十分だった。
「ふんふふーん」
埃が溜まってきた気がしたからお気に入りの場所のお掃除をしていた。
近くにお掃除道具が入っているようなロッカーがないため、お家から小さなほうきやちり取りなんかを持ってきてしている。
「ゆらっ」
「わあ!?」
鼻歌交じりでやっているところを見られたということと、大きな声を出してしまったことで二重の恥ずかしさに襲われた。
慌てている心臓をどうにかして落ち着かせようとしていると「そんなに驚くこと?」と襲撃者――佳奈さんは笑って言う。
「佳奈さん達は上手くいったんだよね」
「うん、あの後ちゃんと話し合ってね」
よかった、あのまま重ねてしまう花ちゃんはいなかったらしい。
「ゆらの方は?」
「私は駄目だったよ」
よし、お掃除終了。
これ以外になにか持ち込んでいるわけではないからただ座ってぼうっとするか、本を読むぐらいしかできないけど、これで初期状態に戻った形になる。
「ま、いいか。花とは放課後に過ごせばいいからそれまではここでゆらといようかな」
「嬉しいけど……」
「ゆらは無駄に悪く考えすぎ、この程度で花が悪く言ってくるわけがないでしょ」
そ、そう言っている彼女がこの前危ない感じだったのに。
自分がされて嫌なことを相手にするべきではないと思う。
「ほら、足を貸してあげるわよ」
「私は――べは!?」
その気がない人間の頭をぐいっと引っ張るのもやめた方がいい。
「あの日ね、私よりもゆらの方が怖かったって言っていたわ」
「花ちゃんが思ってもいないことを言ってきたからね」
「でも、ゼロというわけじゃなかったと思うわ、そうでもなければ二回も重ねないでしょ」
「いや、あれは答えてくれない佳奈さんにむかついていたのもあったと思う」
「あ、あんたって結構言うわよね」
さて、その花ちゃんに彼女を返してあげないと。
今日は彼女の腕を掴んで学校をあとにした。
「これって花のところにいこうとしているのよね?」
「うん」
「はぁ……あんたは他人のことを考えている場合なの?」
「自分のことばかり考えているよりはいいと思う」
もう有紗さんのことで悩む必要もなくなったから今度は私がお節介を焼く番だ。
「止まって、これ以上は無理よ」
「なんで?」
「だってほら」
あれ、今日も先に帰ったのにまだ制服を着たままの有紗さんがいる。
これは偶然ではないだろうな、少なくともそんな顔には見えない。
とはいえ、二人で協力されてこうなったわけではないことはすぐに分かった。
「まずは勘違いをやめるところからね、それが終わったらまた一緒にいてあげるわ」
勘違いとは。
「か、佳奈はなんて?」
「なんか私が勘違いしていることになっているみたい」
というか、解散になるまでは整っていたのになんでこんなに髪がぼさぼさになってしまっているのか。
それが気になって今度は彼女の腕を掴んでお家まで移動した。
椅子に座ってもらい、持ってきた櫛で梳いていく。
「なにがあったの?」
「……もやもやしてあーってなったの」
「花ちゃんと帰っていたわけじゃなかったんだね」
「ううん、花と帰ったんだよ、だけど……」
だってお付き合いを始めてしまったしなあ。
「でも、一番はゆらが佳奈と帰っていたからだよ、まさか一緒に過ごしているとは思わなかった」
「あそこに来てくれた――」
「えっ、じゃあ私とゆらだけが知っている場所じゃなくなったってこと!?」
「はは、最初から私達だけの場所じゃないからね」
あれ、明らかに不満がありますという顔になってしまった。
そうかそうか、あそこは彼女にとっての逃げ場所でもあったのか。
なんで逃げたいのかはあの二人が教室で仲良くするから。
だから離れたいのにその片方が来てしまったら意味がないと。
「もう帰らないっ」
「それならご飯を作るよ」
「いっぱい食べるから!」
はは、作るからにはそれはありがたいな。
クッションを抱きしめて黙ってしまったので調理には集中できた。
また時間ができたら彼女が休める場所を探そうと決めた。




