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「ゆらあ」
「あ、そういえば今更だけど、ちゃんと答えてくれてありがとね」
「へ?」
「いやほら、受け入れられないってちゃんと答えてくれたでしょ?」
「え、待って待って、真面目になんの話をしているの……?」
まあ、振った側でも気持ちのいい思い出ではないから思い出したくない気持ちは分かる。
「だってほら、去り際に『ごめんゆら!』と返事をしてくれたでしょ?」
「はいぃぃいいい!?」
でも、この話を終わらせるには出していくしかないのだ。
進んで意地悪がしたいわけではないけど、こればかりは仕方がない。
「違うの?」
「違うよっ、そもそも返事をしていなかったことを謝ったばかりだったでしょ!」
「うん、だから一回目はそれで、二回目は告白の返事だったよね?」
「全く違うから!」
そういうことらしい。
「佳奈さんに言ってもそのことで反応してもらえなかったのは――」
「だって相談に乗ってもらっていたぐらいだし」
「どっちも相手のために動けていていいね」
ではない、振られたと思って片付けてきた物をまた拾ってこなければならない件なの?
それとも、ここで改めて振られるということなのだろうか。
「へ、返事っ、するよ」
いやでも、彼女の中ではまだ答えていないことになっているのだから気持ちが悪いか。
自分勝手に自分がすっきりさせたくて告白をした、だったら受け止めなければならない。
「す、すす、好き……だよ」
「それでいいの?」
「は……うん、もういまとなってはゆらだからいいんだよ」
ああ、また足に顔を押し付けて……。
別にここで改めて振られていてもそう変わっていなかったけど、彼女のさらさらの髪を撫でていく。
「いやでもまさかこうなるとはね、カラオケ屋さんにいったときは全く想像していなかったよ」
「花ちゃんが誘ってくれたおかげだよ」
あとは――あ、グループ分けのときに彼女が動いてくれたからなのもあるか。
「正直、あのとき動いたのも花がゆらといるときに近づきやすくするためだったの。だからゆらのことを考えられていたわけじゃない、それどころか自分のことしか考えていなかったから……ごめんね?」
「そんなことを言ったら私なんていつも自分の気持ち優先で動いているから」
嫌なことからは少しも頑張らずに逃げる弱さがあった。
実際、彼女がいてくれたからこうなっているだけで、私がなにかできたから変わったわけではないだろう。
「ゆら、そういうのは優しさって言わないからね? こういうときこそたまに見せるSなところを出して『そうだね』でいいのに」
「じゃあ、私はその自分のことを考えた有紗さんの――」
「有紗でいいよ」
「有紗のおかげでこうして初めて恋人ができたわけだから」
高校一年生の私以外に「恋人ができるよ」と言ったところで絶対に信じてもらえない。
それどころか生暖かい目と笑顔で「本の中での話だよね」と言われるところだと思う。
「で、でもさ、ゆらの中では勝手に振られたことになっていたわけでしょ? それなのに全く傷つかずに相手をしてくれていただけだったよね」
「告白することができた時点で私としてはよかったからね」
「ぶぅ」
いやいや、私が諦めの悪い女だったら大変なことになるのは彼女の方だ。
別に「だから感謝して」なんて偉そうに言うつもりはないけど、私自身がこんな感じでよかった。
「もう花と佳奈を呼ぶから」
「うん」
帰らないことを選択するかあの二人を呼ぶのは最近のお決まりの流れかもしれない。
あ、これも今更だけど、彼女はよくこうして何回も私のお家まで来てくれているなあと。
花ちゃんのお家から十分でも積み重なればかなりの時間になってしまうのに。
「やっと関係が変わったのね、おめでとう」「おめでとう」
「ありがとう二人とも」
わざわざ来てくれたことにも感謝だ。
「で、関係が変わったというのにそこの変なのはなんで不貞腐れているの?」
彼女は二人をお家に上げてから再度私の足に張り付いていた。
床に比べたら多少は柔らかいとしてもクッションなんかほどではないから気になってしまう。
「……ゆらが悪いんだよ、なんでか勝手に私が振ったことになっていたしね」
「ああ、それは聞いたときに違和感があったのよね、触れることはしなかったけど」
「佳奈は知っていたんだからちゃんと止めてよ」
「いやそんなことをしてもゆらは信じないでしょ、どうせ『佳奈さんが優しいからよく言ってくれているだけだよね?』と言われて終わっていたわよ」
滅茶苦茶言いそう、ではなくて言う。
本人から違うと言われても「いいの?」なんて聞いてしまったぐらいだ。
「はは、佳奈いまの声真似上手いね」
「でしょ?」
「まあでも、本当にこうなってよかったよ」
「私としてもそうね」
すごい優しい顔で彼女の髪を撫でていた。
「花でも変えられないゆらの手強いところを私は何回も見ることになるわけか……」
いい意味で手強いならいいけど、残念ながら悪い意味で手強いところが複数あるから知らないままというのは無理だろうな。
大事なのは彼女がどこまで我慢できるか、あとは私がどこまでいい方に変えていけるかだ。
「最初なんてすぐに花の後ろに隠れてしまいそうなぐらいには弱く見えたのにね、ここまで変われるものなのねえ」
「でも、あのカラオケの日だって急に有紗が動いても逃げようとしなかったからね、もしかしたらあの時点で違っていたのかもしれない」
「運命の相手ってやつ?」
「そうかもね」
本人は認めたがらないだろうから言わないとしてもこれは妥協の恋であることには変わらない。
流石に本命以上に好いてもらえているなんて考える人間ではない。
でも、彼女がいてくれるなら。
私はいつもの自分に対する甘さ全開のソレで向き合っておけばいいのだ。
「ほらほら、張り付くのはやめな、顔がデコボコになるよ」
「うーん……って、なにその顔!?」
「私? 佳奈? ゆら?」
「ゆらの顔っ、いまお母さんみたいな顔をしていたから!」
お母さんみたいな顔とは……。
「ゆらのことだから有紗が妥協してくれたとか考えているんじゃない?」
ぎくっ、なんでこうも鋭いのか。
「うわあ……もうそのやり取りをしていて違うと言っているのに信じてもらえていないのなら悲しいよ」
「そうよね、いまとなってはゆらが一番よね」
「というか、そうでもなければ受け入れるわけがなくない?」
「うんうん――って、本命から落とされた私としては複雑なんだけど」
「「はは、贅沢言うなー」」
なんか変わったなあ。
仲良くなる前なら花ちゃんが笑う側で二人がしょんぼりみたいな顔でいることが多かったのに。
「ゆら……泣いていい?」
「うん」
「ゆら――ちょっと、佳奈痛いんだけど?」
「なにどさくさに紛れてゆらに甘えようとしているのよ、あんたはこっちに甘えなさいよ」
「そうだよ花、ゆらも取ろうとするなんてずるいよ」
ああ、またバチバチ状態になってしまった。
喧嘩をされると困るので有紗だけを連れて廊下に出る。
そうしたら今度は真正面から抱きしめてきた。
「妥協とかそういうターンはもう終わったから、私はもうゆらが好きなんだよ」
「そっか、嬉しいよ」
「うん、私もゆらを好きになれて嬉しい」
やばい、感覚的には何時間でもできてしまいそうだ。
完全に二人きりではない状態でこれだから二人きりになったら……どうなるんだろうね?
「かーいちゃいちゃされてやっていられないわね」
「ね、本当にそう思う」
「はは、やり返し?」
「「はは、やり返し」」
この三人が仲良くしていてもそれが自然だから悔しさとかは出てこなかった。
それに、燃えそうで燃えない仲というのは私的に羨ましかったのだった。




