08
夏休みが終わってしまった。
いやまあ、有紗さんとはあれからも一緒にいられたし、お祭りなんかにもいけたから満足している。
ただ、それだけに前と違って「学校か……」となってしまうのだ。
これまでならありえなかった、寧ろ夏休みが終わったらほっとしていたぐらいなのに。
それもこれも有紗さんのおかげだ。
「ゆら、おはよう」
「あっ、花ちゃんおはようっ」
しまった、テンションを上げすぎてしまった。
が、ここでも優しいのが彼女で、こちらの頭を撫でつつ「お、今日はハイテンションじゃん。はは、それだけ有紗と仲良くやれたってことか」と言うだけだ。
「でも、少し残念だよ、学校が始まってしまったらそうゆっくりはしていられなくなるからね」
「うわ本当に珍しい。私の方がそれを言う側で、ゆらはいつも『学校があった方がいいよ』って言っていたのにね」
「もう変わってしまったんだよ」
それでその変えてくれた人はまだ来てくれていないことになる。
いきなりお休みとかはないよね? ないと思いたい。
って、最終日だって普通に一緒にいたのにこれは好きになりすぎか……。
「ずびし」
「いひゃ!?」
「はは、おはよう」
佳奈さんも全く変わっていなくて安心できた。
聞いてみればまだお付き合いはしていないみたいだ。
「あの一時期はなんだったのかと言いたくなるぐらいには花が駄目でね、今月までになんとかできるかしら……」
「ふふ、私を攻略するのはそう簡単じゃないということだよ」
「ふざけないの」
「はい……」
あれ、立場が逆転してしまっている。
「でもね、佳奈相手に頑張りたい自分はいるんだけど、動いた後にぐわあっ、ってなるから嫌なんだよ」
いやでもまさか、こんな有紗さんみたいなことを言う花ちゃんが見られるなんてね。
あ、いやあれか、私がまだまだ仲を深められていなかったから見せてくれていなかっただけか。
いまは好きな人パワーで自然と出てしまっているだけで……。
「そう? 好きな子が相手のときにちゃんとできたってことで私なら嬉しくなるところだけど」
「佳奈みたいに強い人間ばかりじゃないということだよ」
「ほーつまり、花は恋愛面ではポンコツってことか」
「ぐっ、む、むかつくけど……強く言えない」
早く会いたくなって廊下で乙女のように待っていると「こんなところでどったの?」と有紗さんが来てくれた。
「有紗さん!」
「わあっ、あ、朝から熱烈すぎ!」
「ご、ごめん……」
今日はお昼前に終わるから付き合ってくれるといいな。
ご飯とか食べにいきたいな、それが無理でもどっちかのお家にいって作って食べるとかでもいい。
「お、遅かったね?」
「うん、夏休みが終わったという現実を受け入れられなくてね。佳奈が来てくれたんだけど、ぐちぐち文句を言っていたらおでこに攻撃を仕掛けてから先にいっちゃった」
「はは、それでも来てくれるのが優しいね」
「そうだねーだから佳奈を好きになってもよかったのかもしれないねー」
でも、そうしたらまた花ちゃんと~となるからどちらを選んでも結果が……。
「あ、いま拗ねているでしょ?」
「ううん、佳奈さんを好きになってもあの二人が変わらない限り衝突は避けられないと思って」
「あー両想いとかやってらんねー」
なんかいまにも「だりーやってらんねー」とか言い出しそう。
髪先をくるくるさせればギャルみたいになりそうだ。
それはそれでそのまま優しいわけだから……悪くはないだろう。
とはいえ、金髪とかも似合うだろうけど、私はいまのままの有紗さんの方がいいかな。
「ちっ、教室でいちゃいちゃしやがってよー」
「あんたいきなりキャラが壊れているわよ?」
「少しぐらいは考えてほしいところだなまったく」
こういう男の人いそうだな。
「ま、有紗が壊れているのはいつも通りだからいいか。これでみんな揃ったわね」
「おいおい、貴様のみんなはたった四人でいいのか?」
「みんなそんなものでしょ、あとやめて」
「ちぇ、いやでも本当にいちゃいちゃするのはどうかと思うよ」
花ちゃんが花ちゃんをできればこれよりもっとすごいことになる。
ただ、いまは佳奈さんの背中に張り付いて顔を隠しているぐらいだから当分の間はこのままかも。
二人がお付き合いを始めるよりも先に私の結果が出そうだ。
「あんたもゆらとすればいいじゃない」
「えーゆらはなー」
「贅沢言うな」
「な、なんだよっ、私から花を奪ったくせに!」
すごいな、迫力はあるのに顔は笑い顔のままだ。
「真剣な顔で言いなさいよ、せめて怒り顔とかさ……」
「へへへ、だって怒られるようなことでもないしね」
私が同じことをしたら相手が怒ってどこかにいくだけ。
多分、にこにこしている彼女だってすんとなって「話はそれだけ? それじゃあね」となるところだ。
「ゆら、解散になったら教えるの忘れないように」
「あ、うん」
そういえばそんな話もあったな。
完全下校時刻が早めに設定されているとはいえ、十五時ぐらいまでは余裕があるから案内しよう。
「ここだよ」
「へえーここもいい場所じゃん」
有紗さんが他のお友達と教室でくっちゃべっていたせいで余裕がない状態になってしまった。
だからここに来られたのに大して休めないまま帰ることになる。
とはいえ、初日から叱られたくはないから移動しようとするとぐいっと引っ張られた。
「ここならこういうこともし放題だね」
「ち、近くない?」
「だってあまりにも嫉妬メラメラの目でゆらが見てくるから、不満を溜めさせてしまったのなら発散させてあげないといけないからね」
彼女はこういうところがあるから恐ろしくもある。
どうしても顔の近さが気になってしまって頑張って距離を作ろうとしているけど、そのどれもが無駄に終わっていく。
どういうつもりなのだろうか、これで受け入れるつもりがないならある意味ですごい存在となってしまう。
「朝さ、私に抱き着く前に花にもハイテンションだったって聞いたけど、どういうつもりなの?」
「そ、そっちこそどういうつもりでこんなことをしているの?」
「質問に質問で返さない、いいから答えて」
「ひ、久しぶりな感じがして声が大きくなってしまったんだよ」
少なくとも抱きしめたりはしていないから勘違いはしないでほしい。
「なるほどね、佳奈が攻撃を仕掛けたのはそれを見ていて気に入らなかったのかも」
「ま、待って、有紗さんは見ていなかったよね?」
前々から意味もなく扉の向こうに意識を向けたりしているから間違いない、有紗さんはいなかった。
これも花ちゃんか佳奈さんに聞いただけだ。
「は? あんなの演技に決まっているでしょ。まあ……ゆらに抱き着かれてどうでもよくなったのはあるけど……」
「え、もう教室のところまで来ていたのにいちいち廊下まで戻ったの?」
だったらもう少し早く廊下にいってあげればよかった。
そうすれば私も早く会えたうえに有紗さんに無駄なことをさせなくて済んだ。
「ろ、廊下にいたんだけど、花達と楽しそうに話しているゆらを見たら教室に入れなくなったというか……」
「え、なんで?」
「なんでって……」
す、すっごく怖い顔だ。
やっぱりそこは花ちゃんと盛り上がる佳奈さんがいたからではないだろうか?
「も、もうここに縛り付けて帰ろうかな」
「あっ、そろそろ出ないと不味いよ」
「この子ときたら……」
叱られるのも嫌だし、閉じ込められるのもごめんだ。
彼女の手を掴んで校舎内から外へ。
快晴であることはいいことだけど、もう九月になるところだからそろそろ落ち着いてもらいたいところだ。
夏はやっぱり苦手みたいだから秋とか冬になってくれればもう少しぐらいは……って、告白の返事次第ではそんな期待もできなくなるか。
「ストップストップ!」
「うん?」
「お腹空いたっ、そして偶然そこにファミレスがあります」
あ、そうか、案内をしたことで忘れていた。
この歳からこれでは心配になる、歳をもっと重ねた際にボケないことを願っておこう。
「じゃんけんで勝った方が奢るというのはどう?」
「ごめん、私、そういうのは好きじゃないから」
「ま、まあ、自分が食べた分をしっかり払うのが自然だよね」
有紗さんの顔……そういうことか。
私は返事をしてもらえるまで待っていればいいけど、動かなければならない彼女としては気になるのだ。
でも、しなければよかったとは後悔していない。
だからこういうところだ、ここが他の選ばれる人達とは違う。
「なににしようかな~」
うーん、いまは定食とかよりも甘い物が食べたいかな。
となると、ゼリー、アイス、パフェ……。
パフェの中にはアイスが入っているのもある、が、それだけに値段もするからどうしたものか。
「ちょ、真剣に悩みすぎでしょ、どうせなら私のことでそんな顔をしてよ」
「今日は元々、有紗さんと一緒にお昼ご飯を食べられたらいいなと思っていたんだけど、いざ実際にここに来たらガッツリ食べたい気持ちにはならなくてね。それでデザートを頼もうとしているんだ、有紗さん的にはどれがいい?」
「ん-デザートならやっぱりパフェでしょ。パンケーキとかも美味しいけど、まだまだ暑いいまは少しでも冷ましていかないとね」
ケチケチするなよと言われている気がする。
サイズも値段もすごいパフェは流石にやめたものの、ある程度の値段の物にしておいた。
「お待たせしました」
「きたきたあ!」
注文していたときから分かっていたことだしてもこうして運ばれてきたのを改めて見るとこういうところは女の子らしくない感じがした。
でも、彼女自身は細いままだから……。
「あれ、今度はなんかやらしい顔をしているね?」
「ぶっ、ごほっ……ごほっ……」
「わっ、大丈夫っ?」
実際にこの前の水着姿を思い浮かべていたわけだから違うとは言えなかった。
ここで慌てて言い訳をすると必死に見えてしまうかもしれないからちびちびと食べていたら「あーん」と……
「後で私のもあげるからちょっとちょうだい」
「あ、あーん」
「あむ――ふふ、おかずとの間に食べても美味しいなあ」
そ、そういうのは答えてからにしてほしいけどね。
もう一口食べられたからこのまま全部あげて走り去りたいところだった。
初日から心臓が暴れまくりだ、分かりやすく寿命が縮んでしまっている気がする。
「ゆら顔が赤いよ?」
「パフェを食べられて高揚しているんだよ」
「そっか」
もう勘弁してほしい。
また新しい場所を探しはしないけど、積極的に誘ったりはしないようにしようと決めたのだった。




