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271  作者: Nora_
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07

「うん、そうそう」


 ……誰かと電話をしているみたいだ。

 夏だから薄暗くはないけど、多分いまはそれなりに早い時間だと思う。


「ゆら? ゆらなら寝て――いま起きたみたい、代わった方がいい? そっか、じゃあまた後でね」


 これは佳奈さんだな。


「おはよう、佳奈から急に電話がかかってきてね」


 よし、正解だった。

 でも、挨拶を返して一階にいくために立ち上がったのに有紗さんがベッドに寝転んでしまった。

 流石に顔すらも洗っていない状態で話すのは気になるから休むとしてもそれが終わってからにしてもらいたいけど……。


「あの子はもうゆらマジックにやられちゃっているんだよ、だからすぐに心配になっちゃうんだよ」

「ありがたいことだね」

「でも、花とのそれに集中できなくなるぐらいだったら駄目だよ、聞けば三十分ぐらいしか話していなかったらしいしね」


 意地を張ってしまっているわけではないんだろうなあ。

 それこそ、佳奈さんも花さんと同じだったということだ。

 つまり、佳奈さんが佳奈さんらしくいる限りはこうなることが確定していると。


「お腹空いた、夏休みだから外に食べにいっちゃう?」

「それでもいいよ、ちゃんと付き合うよ」

「ぶーそれなのに終業式の日は付き合ってくれなかったよねー」


 これからは同じようにはしない。

 なので、お店に向かっている最中は手を握っておいた。

 このままなにも発生させないまま終わらせるなんてもったいない。

 結局、自分の気持ちに正直にならないと気持ちが悪いだけだ。


「あーこれは子ども扱いされているわけじゃないんだよね?」

「うん、私が有紗さんと手を繋ぎたかっただけだよ」

「え、昨日からなんで大胆になっているの?」

「なんでだろうね」


 私はなにもないのにこんなことをしたりはしない。

 分からないなら分かってもらうしかない。


「着いたー」


 お家でも少し頑張れば食べられる内容なのにお店というだけで変わってくるものだ。

 ただ正直、プラシーボ効果だと言われても仕方がないかな。


「卵焼きもいちいち自分で作るとなると面倒くさく感じるときがあるから五百円以下で出来上がった物を食べられるのはありがたいね」

「毎回は利用できないからこそいいよね」

「私は将来、毎日外食しても余裕なぐらいのお金持ちになりたいけどね」

「はは、毎日は流石に飽きそう」


 違う内容の物に頼ってもそうなりそう。


「飽きたらゆらに作ってもらうよ」

「卵焼きぐらいは作ってあげるよ」

「ぐらい、ぐらいねえ、面倒くさがっている私を攻撃したいのかな? 私、そういう積極さはイラナイデス」


 まあ、いまは早く入って食べよう。

 朝はメニューも限定的だから悩む必要がないのがいい。


「帰ったら課題を――」

「海にいこうっ」


 高校生になってから初めての夏休みで遊びたい気持ちは私にも分かる。


「遊んでばかりだと後で泣く羽目になるよ? 別にそうなっても協力するけど、そうならないように早めにやっておいた方がいいんじゃないかな」


 が、残しておくとそわそわして楽しめなくなるからやっておかなければならないのだ。

 合わせたくないということなら帰るからちゃんと言ってほしい。


「だってあのときは余裕がなくて楽しめなかったし……」

「それなら少し課題をやってからでどうかな? ちゃんと付き合うよ」

「……分かった、いってくれるならそうする」


 よしよし、これで本に逃げてしまう私も出てこなくなったということだ。

 あれは危険だ、あと〇〇にいかなければならないという予定が入っていれば先延ばしにもしないはずだ。


「帰ろ」

「うん」


 まだ八時過ぎだから十時ぐらいまで頑張ればいいかな。

 海となると早めに移動を開始しないと帰るときが大変になるから早めの方がいい。

 そっちに意識が流れかけても大丈夫だ、テストというわけではないからね。


「……一時間ぐらいでいい?」

「少しずつ伸ばしていけばいいよ」


 彼女からしたら八月前でなにを焦っているのかと言いたいのかもしれないなあ。

 でも、そうやって油断して痛い目にあったことがあるから怖いのだ。

 静かな時間が始まった。

 普段、真面目に授業を受けていてもどの教科にも少しは苦手なところがある。

 そういうところを教え合うことで埋めていけていければいい。

 何度も言うけど、テストではないのだから協力しあうべき――だったのに。

 あ、あれ、凄く集中していて声をかけづらい。

 一度やると決めたらここまで高い集中力で向き合えるのか。

 それでいてお勉強ばかりではなくてみんなと盛り上がろうと動けると。

 花ちゃんが話しかけてきてくれていなかったら絶対に接点なんてできていなかった。

 なので、私が心配になるような存在でよかったと思う。


「さっきからちらちら見てきてどうしたの? これを言い出したのはゆらなのに全く集中できていないじゃん」

「ごめん、だけど有紗さんが気になって」

「へえ、それなら海にいったときにそうしてくれると助かるけどね」

「なんで?」

「私が努力しているところを見せられるから」


 なんかいつもの可愛い感じではなくなっている。

 これは私が見方を変えてしまったからなのか、彼女がこの数日間で大人になりすぎてしまっているのか。

 とはいえ、ちくりと言葉で刺されてしまわないように切り替えたのだった。




「海だー!」

「ふふ」


 そうそう、彼女はこれだよこれ。

 真面目な感じもいいけど、こうして笑っていてほしい。


「ちょっ、いま内側で馬鹿にしたでしょ」

「ううん、いまの有紗さんが好きだよ」

「なにそれ、意味が分からない、全く繋がっていないじゃん」


 改めて水着を買ったとかでもないからあの日とそう変わらない。

 海の方も賑やかで寂しさも感じない。

 水に触れてある程度したら少し歩いてみるのもいいかもしれない。

 住宅街を歩くのとはまた違った新鮮さがあることだろうから。


「あー花も誘えばよかったかなー」

「そうしたら佳奈さんも来てくれてみんなで楽しめるね」

「少なくともゆらと二人きりよりはよかったよね」


 ど、どうしたのか、あ、課題を無理やりやらせたから?

 いやまあ、こんなことがなかったわけではないからこういうところもあると受け入れておけばいいか。

 隠されて笑われている方が気になるし、うん、少し我慢すればいいだけだからこの方が健全だ。


「あーあ、失敗したなあ」

「もしあれなら休んでいても――」


 ん? ぷいと違うところを見られてしまったけどこれは……。


「有紗さん?」

「な、なに?」

「あ、いや、なんか顔が赤かった気がしたんだよ」

「だって今日も暑いからっ、夏は苦手だかラッ!」

「お、落ち着いて、休んでくれていればいいから」


 どうせ泳ぐなんてできないから少し触れる程度だ。

 帰られてしまうと困るものの、それは一人でも問題ない。


「おお、冷たい」


 なににも遮られていなくて手や足の一部以外は熱いぐらいなのに不思議だ。


「……違う意味で花を連れてきておけばよかった」

「花ちゃんだったら日陰にいそうだね」

「想像できる、だからこそこっちのあっついあっついところに無理やり引っぱり出して微妙そうな顔をさせたかった」


 キャラが短時間でコロコロ変わって忙しいかな。

 ただ、一度もマイナス方向に偏らせないと言うのは難しいかと片付ける。


「あ、上手くいかなくて花に意地悪がしたいわけじゃないから誤解しないでね」

「うん、ただお友達として遊びたいんだよね?」

「そうだよ、なのに最近は佳奈佳奈佳奈だもんなー」

「いいことだよ」


 いつもこっちのことばかりで相当時間を使わせてしまっていたからね。


「む、その花や佳奈が一時期ゆらゆらゆらーだったのも問題なんだけど?」

「私は有紗有紗有紗ーさんだよ」

「ま、真顔で言うから冗談なのか本気なのか分かりづらい」


 あれ、笑ったつもりだったんだけど。


「笑っていないように見えた?」

「少なくとも真剣な顔じゃなかった」


 そうか、ここは笑うところではなかったか。

 今日はもう届かないので今度やり直そうと決めた。

 あとは決めていた通り、彼女とゆっくり海岸を歩いていく。


「実はね、昔ここで溺れかけたんだ、それを助けてくれたのが花だったの」

「溺れそうになっている人を助けにいって両方とも駄目……みたいにならなくてよかったよ」

「ああ、最近はよく聞くよね。その後のお祭りで相手をしてくれなくて拗ねたりもしたなあ」


 こういう話をしてくれたのは初めてだからここでも乗っかっておくことにした。


「もうそのときから?」

「実は……うん、格好良く見えてね」

「そうそう、花ちゃんは格好いいよね」


 分かりやすくアピールをされていたわけではないけど、女の子にモテるような女の子だったと思う。


「そういう子だからゆらみたいな子を放っておけないんだろうけどね。いやでもいつから隠していたんだろう」

「実は私に話しかけた頃からとかもありそう」

「それだったら花らしくないとしか言えないけどね。はは、これもゆらのせいかも?」

「短期間で何回も支えられていたから全く関係ないとは言えないかな」


 それだけ余裕があったということか。

 やっぱり花ちゃんが花ちゃんをしているだけで効果が桁違いと。

 いつも「そんな不安そうにしなくても大丈夫だよ」と笑みを浮かべて言ってくれていたし、あのときは最近の有紗さんに対する私みたいな感じだった。

 そういう意味で好きにならなかったことが意外だ、当時の私に細かく聞きたいところだ。


「も、もー嘘だよ冗談だよ」

「いま有紗さんは花ちゃんと同じことをしてくれているんだよ」

「ほーん、だから気になっちゃっているということだね」

「やっぱり分かるものなんだ」

「え?」


 あ、これはいつもの冗談というやつか。

 無理なら無理で早く振られたい方だからここで出していくことにした。


「花ちゃんにはっきりされた頃から有紗さんのことが気になっていたんだ」

「花がはっきりした頃……って、まだ出会ったばかりと言っても過言ではない頃じゃん!」


 意外だった、好きになるとしても好きな人がいない人を好きになると思っていたのにこれだ。

 驚きたくなる気持ちが分かる、私も驚いている。


「へ、へー」

「好きな人がいる人を好きになるとは思わなかったんだよ。もっと正直に言うと『ゆらの馬鹿』と言われて帰られたときから私は……」


 あのもやもやは悪く言われたからだけではなかった。

 いまなら分かる、あのときから彼女に負けていたようなものだ。


「じゃ、じゃあさ、花に教えてもらった日にゆらが来たのって私といたかったからなのもあるんじゃない?」

「いや、あのときは一人でいるよりも誰かと一緒にいた方がマシだと思ったからだよ。私に花ちゃんが好きだと教えてくれたその日にだったから」

「うぅ……なんか恥ずかしい……」

「私なんて少し優しくしてもらえただけで有紗さんのことを意識してしまっているんだから気にする必要はないと思うよ」


 変な時間になってしまったけど、これは避けられないことだったからいま終わらせられてよかった。


「なるほどね、ゆらは私が好きなんだ」

「もうそんな感じかな」

「でもさ、なんでこのタイミングなの? そういうところも花と似ていたってこと?」

「いやそれは……最近になってやっといいかなと思えたからだよ」


 最近というか今日、だから少し嘘をついてしまった。


「えーなんか矛盾していないかー?」

「そ、そうじゃなくて、有紗さんが花ちゃんのことを狙っていないって分かったし、佳奈さん達も上手くやれているし、これ以上は言い訳をしてなにもしないままでいるのはやめようと思ったんだよ」


 私にとって本命でも彼女からすれば私は妥協の存在でしかない。

 普通は上手くいかない、だから奇麗に振られて終わらせたかった。


「まだ諦めていないように見えたんだ」

「だ、だって好きな人をそう簡単には諦められないでしょ?」

「んー相手が佳奈だと分かったらすぐに、ね。それに最近の佳奈を見ていればあの子も花のことを気にしていたんだって分かるからねー」

「す、すぐに捨てられるような軽い気持ちだったとか思っていないから!」

「わ、珍しくゆららしくない大声だ」


 彼女はこちらの頭を数回撫でてから「ありがとね」と。


「返事を聞かせてほしいの」

「えーまだ告白されていないからなー」

「あ、有紗さんのことが好きなんだよ」

「んーだけどこのまま答えを出すのはできないなーいまは海を楽しもうよ」


 自分勝手な告白だから自由に振る舞われても被害者面はできない。

 あと、太陽光線にやられそうになっているから足とかだけでも座って冷やしておくことにした。


「これ、花や佳奈に教えてもいい?」

「うん」

「あの二人は気づいていたのかな、ゆらが体調が悪いときだって気づいていなかったから今回もアレかな」

「はは、花ちゃんは佳奈さんに、佳奈さんは花ちゃんに意識がいっているんだよ」


 後から言うのはずるいけど、私はあのとき花ちゃんは気づいていたのではないかと考え直していた。


「やだもーそれじゃあ気づいた私がゆらばかり見ていたみたいじゃん」

「あれ、嬉しかった」

「はいはい。私としては場所を変えたことがやっぱり気に入らないけどね」

「だってあそこは有紗さんに甘えないために探したのに意味がなくなってしまっていたから……」


 夏休みが終わったら教えるという約束をしていたからここで振られても教えなければならない。

 ただ、振った振られた関係なのに上手くやっていけるのだろうか?

 花ちゃんと彼女が上手くやれているのは別に振ったわけではないからではないだろうか。


「はあ? そんなのいらないでしょ、友達にぐらい素直に甘えなよ」

「いいの……?」

「と、というか、ゆらはそう言いながらも全力で甘えているよね? さ、さっきの告白とかも振られない前提で――」

「いやそれは違うよ、振られる前提で告白したの」


 あ、ここで怒ってくれるぐらいがいいかも。


「は? ……むかついた、今日は絶対に帰さないから」

「はは、そっか」

「なに笑っているの、ここは笑うところじゃないから」


 い、いや、そんなことを考えつつもいまは色々と怖い状態だから笑うしかなかったのだ。

 私にとっての勝負の時間はまだまだ続くようだった。

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