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271  作者: Nora_
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06

「へらへら笑って相手をすると思っているのならそれは大間違いだよ」


 約束を破ったようなものだから被害者面をするつもりはない。

 そのまま歩いていってしまったから邪魔な存在になってしまうものの、花さんと佳奈さんの二人と帰ることにした。


「あんなに冷たい顔の有紗は初めて見たよ、ゆらはある意味すごいよ」

「あんたそれ褒めていないでしょ……」

「いや、だってゆらはそういうところも引き出せているということだからね」


 佳奈さんがいるときは私が頑張らなくても前に進めてくれるのが助かる。


「私だったら喜べないわね」

「矛盾しているかもしれないけど、あんな顔をされても確かに喜べないね」

「い、いい加減ね」


 まあ、「冷たい顔をされて嬉しい!」とはならないよなあ。

 私としては動かなかったことで夏休み最終日までこれまでと変わらない日々になると決まっている状態だ、今年も本にお世話になりそうだ。


「諏佐――ゆらに有紗と仲良くしたい気持ちがあるなら追った方がいいんじゃない?」

「私としてはいまは離れておく方がいいと思うけどね」

「一緒に過ごせなかったから有紗はこうなっているのよ?」

「普通に相手してくれると思う?」

「そりゃ……有紗なら相手してくれるんじゃない? あの子はとにかく人といるのが好きでしょ」


 ここで動けるような花さんみたいな人とは違うのだ。

 もう待つ前提なのは変わらないからこのまま大人しく帰るだけだ。

 まだ高校一年生の夏だ、有紗さんとは無理になってもなんとかなる。


「ゆらには協力してもらったようなものだから私も動くか。有紗のところにいくわよ」

「あ、私は本屋さんに寄っていきたいからいいよ」

「ゆら、ここで断ったらもう次は協力してあげないからね?」

「うん、大丈夫だから」


 既に買ってある本もあるし、三冊ぐらいでいいか。

 入場料でお金も結構使ってしまったからお家から出る機会がほとんどないのなら貯められていいのではないだろうか。

 幸い、これだ! という本はすぐに見つかって助かった。

 それからは寄り道もせずに真っすぐに帰って、まだやれていなかった課題に取り組――もうとしたところで誰か来て下りることになった。


「はい――佳奈さん」

「上がるわよ」

「うん」


 そんな顔をしなくてもいいのに。

 というか、二人でゆっくりしてほしくて別れたのもあったのにこういうことばかりだ。

 面倒見がいいのはいいけど、私からすればもったいないと思う。


「相手が花のときだってあんな態度だったことはないわよ」

「それは花さんのことが好きだったからじゃないかな」

「でも、あんたは花のことそれなりに知っているでしょ? そりゃ積極的に約束を破っていたわけじゃないけど、いきなりいけなくなったり、気分が変わったりしていかなかったりしたこともあった。それでも、有紗は『用があったり気分が変わっちゃったら仕方がないよ』で済ませていたのよ?」


 うん、だから本命とそうではない相手とではどうしても態度を変えてしまうということだ。

 私だって有紗さんに対しては変えてしまっているし、自分を守りたいのもあるし、他の人のことなら最初から責められるようなことではないのだ。


「まだ十六時ぐらいだからお菓子食べる? チョコのお菓子ならあるよ」

「私、そういうのあんまり食べないようにしているからいいわ、それより有紗とのことよ」

「うーん、佳奈さんは花さんに集中するべきだと思う」


 謝罪できたのは私的にはよかった。


「あんたねえ……まあ、花も同じような顔をしていたけどさあ」

「だって花さんは佳奈さんが好きなのに佳奈さんがこれじゃ面白くないよ」

「極端なところがあるからマジでこのまま一直線で終わる可能性もあるのよ?」

「そうなったらそうなったで仕方がないよ」


 同じところをぐるぐる回ることになるのはお互いにとって疲れるだけ。

 花さんか佳奈さんが相手とそういう関係になってからでも遅くはない。

 それで間に合わないのならそのぐらいの仲だったということだ。


「私だってあんたにばかり構っていられるわけじゃないんだから」

「うん、それも仕方がないね」


 あいた……軽くでも攻撃されるのはMでもないから喜べないけど。

 そのまま出ていってしまったから鍵を閉めて二階へ、早め早めに終わらせておいた方がいいから課題を十八時ぐらいまでやった。

 そこからはいつも通りだ、自分の分のご飯を作って食べて、お風呂にも入って二十時前にはまたお部屋に。

 一応、他の日と比べたら体を動かしてあるのでこのまま寝てもいいけど、買ってきた本ではなくて既に読み終わっている本を読むことにした。

 いい内容の物は何度読んでもいい、だからついついそこから二十三時ぐらいまで~みたいなことになってしまうこともある。

 今回は二十二時前で止めておいた。

 ベッドに寝転んだら割とすぐに眠気がやってきてそのまま身を任せた。




「んーいい天――な、なにをしているの花さん」

「佳奈にどうしてもいけって言われてね、ゆらにしては珍しく長く寝ていたね」


 エアコンが点いているわけでもないのにお部屋がよすぎた。

 午前九時半、確かにいつもならもうとっくに起きている時間だ。


「私のことで時間を使わせてしまってごめん。でも、佳奈さんには大丈夫だって改めて言ったんだけどな……」

「ま、私としても全く気にならないわけじゃなかったからね。あと、『花ちゃん』に戻すように」

「あ、うん」


 い、いつでも自分のペースでいられるのはいいことだよね。


「しゃーない、有紗のところにいくか」

「私は――あー」

「このまま二人だけで話し合っていても全く前に進まないからね。ふっ、突撃するのが一番でしょ」


 ああ、これは面白がっているときの顔だ。

 どっちに転んでも花ちゃん的には損なことはないからなあ。


「はいピンポンと」


 お母さんとかが出てくれた方がいいかな、という期待をすぐに裏切られた、なんなら扉を開けてくれた有紗さんがばっと扉を閉めてしまった。


「ちょいちょい、見ただけでそれはないでしょ」

「……なんで連れてきたの」

「ゆらが頑固で困っているんだよ、これをなんとかできるのは有紗だけだよ」


 が、頑固……。


「でも、ゆらは約束を破るような子だし……」

「ある程度一緒に過ごした有紗ならゆらが自分の方からいくような子じゃないって分かるでしょ」

「そ、それがおかしくない? 花もなんでそれで納得していたの」

「自分が動いた方が楽だからだよ」


 急だけど、花ちゃんは声量が大きいほどではない、それなのに扉越しに会話ができてしまっていることに不安になった。

 いやまあ、私だってお家で大声ばかりを出しているわけではないものの、すっ転んだときなんかには「あいた!」と大きな声が出てしまうときがあるので外に漏れ出ていたら恥ずかしい……。


「開けて」

「……花を使うなんてずるい」


 うん、あとこれも少し恥ずかしかった。

 自分の力だけではどうしようもなくなったときに頼るのは普通のことだしても「私気になりませんよ、仕方がないですよ」みたいなスタンスでいたのに結局これかとね。

 さっきだって「いやいいよ」と断ることもできたはずなのだ、それなのに甘えてここにいる時点でずるいのは確かだ。


「私の意思でここに来たんだよ」

「ゆらはそうしたくなるまでの子ってこと?」

「実際、ゆらが私のために動いてくれるときもあるし、そうなんでしょ」

「なんか曖昧な言い方……花って結構いい加減なところがあるよね」

「そんなものでしょ、私は別に自分が完璧な人間なんて思ったことはないけどね」


 手招きされたから近づくと今日も今日とて腕をがしっと掴まれた。

 もうずっとこうしてくれていればいい、そうすればちゃんと付き合う。


「じゃ、もうこんなことで喧嘩みたいなことをしないように。あー暑い、佳奈のところにでもいくかなー」

「花ちゃんありがとう!」

「んー」


 そのまま軽く引っ張られて上がらせてもらうことになった。

 やっぱり泊まりにいくことにしておいた方がよかった。


「そこに正座」

「うん」


 基本的にこう座っているから罰感がなにもない。

 彼女が頑張ってもS属性の人にはなれないと分かった。


「もう一度言うね、花を使うなんてずるい」

「うん」

「知らない間に佳奈も来ていた、なんてないよね?」

「昨日、佳奈さんが来てくれたよ」

「は」


 可能性がなくなったときでもこんな顔はしていなかったのに確かに私はある意味すごいのかも。


「あ、あのさあ、少しは隠そうとしないの?」

「うん」

「あーもうっ、うんうん攻撃は禁止!」

「隠す必要がないから」


 彼女が佳奈さんに聞けば一発で分かってしまうことだ。

 無駄なことで時間を使ってほしくないと考えている対象はなにもあの二人だけではない、それは彼女も同じなので答えられることなら答えていくだけだ。


「あ、あと、なに佳奈に言われたからって抱き着いたりしているのっ、わ、私じゃなかったらぶっ飛ばされているところだからね!?」

「佳奈さんが動いてくれる条件がそれだったからだよ、そうでもなければベタベタ勝手に触れたりしないよ」


 んー冷房が効いているけど、私は自然の風の方がいいかな。

 じっとしすぎているからなのか人工の風に当たっていると寒く感じてくる、外でなら温度調整もできないから出るしかない。


「もうゆらが協力しなくたってあの二人なら勝手にやるよ」

「そうだね」

「な、なんだこの子は……」


「諏佐ゆら、高校一年生です」とでも言っておけばいいのかな?


「はぁ……もう罰として泊まってもらうから」

「色々持ってくるね」

「付いていくから、だってそのまま休むとかしそうだし」

「うん、いこう」


 やましいことがあるわけではないから構わない。

 こうして、また彼女と一緒にいられるようになった。




「ゆらぁ……」


 食事も入浴も終えてゆっくりしていたらなんか足に張り付かれていた。

 こういうときは「どうしたの?」と聞くのではなく、寧ろスルーしてあげる方が精神的にいいので本に意識を向けていた。

 これは買ったばかりの物だからやっぱりより新鮮な気持ちで読める。

 当たりだったようですらすらと読めて、ページを捲る手が止まらない。

 速読ができるタイプでもないのに過去最高の速さで読み終えてしまいそう――だったのに我慢できなくなったのか本をばっと取り上げられてしまった。


「泊まっているときにそういうことをするのが一番最悪だから」


 はは、もう一時間は経過しているのに結構待ってくれたなあ。


「ごめん」

「有紗さんらしくなかったけど、あの日はなにかあったの?」

「凄く楽しみで寝られなくて、その状態で学校にいったら凄く恥ずかしかったの。そこに自分から動かないとゆらは来ないという現実が叩きつけられて、意地を張って……一人で帰ろうとするんだけどやっぱり期待をしてしまったというか……」

「私が当たり前のように動かなかったからだね」

「そう……とも言えない、だってこれは完全に私の一人相撲でしょ」


 ああ、大して柔らかくもない足にとうとううつ伏せで……。

 顔が痛くないのかな。


「あぁ……」

「有紗さんはなにか趣味はある?」

「花や佳奈を見ること」

「そっか」


 あの二人がお付き合いをしている状態ならいいけど、そうではない状態で参加させてもらうわけにもいかない。

 また、尾行的なこともしたくはないから……一人になったタイミングでビデオ通話とかどうだろうか?

 それなら自然と仲直りができたと教えることもできるし、アプリのアカウントも知っているから電話を――それこそ二人で電話をしていたらどうしよう。


「佳奈に電話かける」

「そ、そっか」

「なに?」

「な、なんでもないよ」


 ら、ラッキー。

 待っていると「もしもし?」と声が聞こえてきた。


「お、仲直りできたのね」

「うん、花が来てくれてね――あ、佳奈もそうか」


 あれ、あの後に彼女のお家にいったのかな? はと出てきた気になることについては「私はゆらのところにしかいっていないけどね」という佳奈さんの発言ですぐに違うと分かった。


「それも昔なら考えられないことだよね」

「んーゆらにはお節介を焼きたくなるというか、まあそんな感じね」

「私も花も佳奈もゆらにやられているなあ」


 自分に甘くてそのまま乗っかってしまうときがあるからやられているというのは間違っていないと思う。

 花ちゃんや佳奈さんはともかくとして、彼女的には危ないところまでいってしまったから今回はこうなったのだ。


「やられているのはあんたでしょ」

「な、なにが……?」

「ま、これから花と話すところだからこれで切るわよ、じゃあね」


 これもずるいけど、私の方からかけなくてよかった。


「もう寝るっ」


 床でも寝られるからお腹にだけでも掛けられる小さなお布団を持ってきておいてよかったと言える。

 課題も持ってきたから明日は一緒に課題をできるといいな。


「ゆら、まさか床で寝るつもり?」

「うん」


 明らかにそういう流れだった、私がここで「ベッドで一緒に寝たい」と言っても断られるところだっただろう。


「はぁ……お客さんを床で寝かせるような女だと思われていたんだね私は。はぁ……いいから早くきて、そもそも床で寝かせるつもりなら布団セットを持ってきているところでしょ」

「じゃ、じゃあ」


 ら、落差が激しいな。

 一応は考えて背を向けたら「そっち向くの禁止」と難しい。


「やっぱりあっち向いて」


 最初からそのつもりだったから背を向けるとそのままぎゅっと抱き着いてきた。

 私はもうしてしまっているからこれでフェアというわけだ――ではない、なんかおかしくなってしまったようだ。


「これは一人用のベッドで狭いからしているだけだからっ」

「うん、おやすみ」

「お、おやすみ」


 これ、ちゃんとした夏用のやつだな。

 いいなあ、二人で寝転んでいても全く暑くない。

 ちゃんと掛けておかないと夏でも風邪を引いてしまうわけだし、ある程度の大きさもあってあんまり気にしなくていいのが大きかった。

 なので、自分のお部屋、ベッドかのように朝まで気持ちよく寝てしまったのだった。

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