05
うーん、朝から体調が微妙だ。
とはいえ、保健室にいくほどではないから大人しく教室にいる。
教室から離れていると逃げられていると認識するのか大人しくしている今日は有紗さんが追ってくることもなかった。
いまの状態ではあのハイテンションには付いていけないからありがたいかな。
「ゆら、今日は大人しく教室にいるんだね」
「うん、もう有紗さんから逃げる必要もなくなったからね」
「はは、あれは有紗から逃げるためだったんだ」
それ以外の理由なら――あ、私の場合は図書室にいくからそれもあったか。
そうか、なら廊下の中途半端な場所で過ごさないでそこに逃げておけばよかった……とは残念ながらもう言えない。
何故なら、ああして興味を持って近づいてくれることが嬉しいからだ。
「おっと、どこかから見られているね」
「溝上さんだね」
「少し変わったのは佳奈もそうなのかもね」
離れるどころか前々よりも一緒にいるようになった。
その相手がなにもないとはいえ、同性と話していたら気になるだろう。
同性同士の恋愛だからこその問題、だというのにお友達は同性ばかりだという難しさ。
彼女が溝上さんを呼ぶと素直にやって来た、でも、その顔は嬉しそうなものではない。
「諏佐、あんた――有紗なら廊下にいるわよ」
「そうなの?」
夏が苦手みたいで少しでも涼しい場所を求めて探しているのかも。
私もお昼休みになったら静かで涼しい場所にいこうと思う。
本は今日読むと悪化しそうなのでぼうっとできる場所があるといいな。
どこか気づいていそうな溝上さんは彼女が引き付けてくれて助かった。
座っていられないほどでもないので午前中の授業は座っているだけで終わった。
移動は……うん、大丈夫そうだ。
病は気からと言うし、変に警戒しすぎると明日に響く。
まだ一日も休んでいないため、このままできれば皆勤賞を狙いたいところだ。
「あちゅい……」
なにも言わずに出たのに有紗さんだけが付いてきた。
でも、最近は常に「><」こんな感じの顔になっているので心配になる。
「いいところは見つかったの?」
「廊下なら多少はマシってだけで全然駄目……」
遠くまでいくと戻るのが面倒くさくなるから近くの空き教室にした。
私的には窓が開いていることで少し生ぬるくても風が入ってきて気持ちのいい場所だ。
食欲もあるし、これならひっくり返ることもないだろうと安心できた。
「あれ、お弁当は?」
「食欲ない……やる気もない……」
「それなら足、使う?」
「うん……」
床に直接座ることになるけどまあ、いいか。
「だけど意外だな、有紗さんみたいな人は夏が大好きで『プールにいこう!』とか『海にいこう』みたいに夏休みになる前からテンションを上げていそうなのに」
「プールとか海にもいくのはいくけど……夏は苦手だよ」
あ、もしかしてその弱っているときに花ちゃんに優しくされて好きになってしまったのかな。
「佳奈なんて暑いとか言いながらも毎日走ったりしているからね、私からすれば化け物だよ」
ば、化け物扱いはやりすぎだろう。
みんなしっかり言い訳もせずに運動もしているということだ。
だからこその細さだ、そして夏にはそれが重要になってくると。
同性をそういう意味で好きになればその魅力的な体に――やめよう。
あれか、上手くいかなくて微妙だったところに苦手な季節がきてより影響を受けてしまっている状態なのだ。
花ちゃんが溝上さんに集中している以上、私からすれば有紗さんの存在が大事なのでこのままなのは嫌だな。
もっとも、まだ七月になったばかりで二ヵ月ぐらいはこの状態が続くわけだから誘うのも……やりづらい。
「それはそうとゆら、今日本調子じゃないでしょ」
「なんで?」
危ない危ない、思わず「ぶっ、な、なんでっ?」みたいな反応をしてしまうところだった。
攻撃ではないとしても時間差で仕掛けてくるのはやめてもらいたいところだ。
だってこれだと……よく見てくれているみたいになってしまうし。
というか、あの二人の前では上手く隠せたのに彼女の前では意味がない行為になってしまっているのは私が彼女に……。
「まず教室から逃げていないのが一つ目の理由、二つ目の理由はゆらが私に足を貸すなんて元気なときならありえないからだよ」
いや、体調が悪かったら貸すと思うけど。
「あとは熱っぽい視線を向けてくるからかな」
「うん、最近は有紗さんばかり見ているからね」
「はいそういうところがアウトっ、もー無理しないの」
暑さに参っている人に言われるのって微妙だな……。
出会って一週間とかではないのだ、それなら有紗さんに対する気持ちが変わっている……みたいに考えられないのだろうか。
まあ、好きな人がいる人を気にしてしまっている状態で、彼女からすればまだまだ花ちゃんのことを意識してしまっているわけだからそんなこと考えないか。
うん、体調があんまりよくないことよりも問題なのはそこだった。
結局、あの日だけでいつも通りの状態にあっさり戻った。
そうすると今度は有紗さんみたいに暑さから影響を受けるわけで、私も少しでも涼しい場所を求めて動き回っていた。
いまは見つけたこの落ち着く場所で本を読むことにはまっている。
「ゆらー見てよこれ」
「え、眼鏡?」
伊達眼鏡? それとも普段はコンタクトをしていただけなのだろうか?
「そうそう、この状態でゆらの本を借りれば――じゃん、いつも本を読んでいる真面目な女の子に見えない?」
「私としてはそのまま本を好きになってもらいたいかな」
そうすれば有紗さんと共通の趣味ができて嬉しいから。
あとは貸し借りできればもっといい、地味にお金がかかるのと、毎回毎回図書室や図書館までいくのも大変だからだ。
「ぶっぶー私に本を勧めるとか一番やっちゃいけないことだよ」
「まあ、本を好きになってもらえなくても少し元気になってくれたことの方が嬉しいよ」
「あー暑い暑いって言っていても自分が辛くなるだけだからね」
溝上さんも上手く付き合っているみたいだから私も変えていかないと。
あとは運動か、なるべく涼しい時間を狙って動きたいものだ。
「ということでゆらさん、夏休み初日にはプールにいこうゼッ!」
「いいよ」
五百円ぐらい入場料が高くなってしまったものの、遊びながら体を動かせるというのは大きい。
あとはこれも溝上さんが上手くやるようになったことであの二人がどこまで進んでいるのかも分からなくてしまったため、それを堂々と見られるのも大きかった。
「水着を買いにいくイベントとかあった方がいい?」
「いや、私はいらないかな」
持っている物を大事にしていけばいい。
「なら、終業式の日はゆらさんの家に泊まらないとね」
「そっちにいこうか?」
「ちょっと失礼――うん、別に熱はないみたいだね。いやあのさ、花から色々とゆらゆらの話を聞いていたんだけど、ここまで受け入れないって話だったんだよ?」
「だっていま誘ってくれるのって有紗さんぐらいだから」
この前のカラオケ屋さんにいったときみたいに色々と言いながらも参加していたんだけどな。
花ちゃんからすれば彼女みたいにすぐに「おっけっ、参加メンバーはっ?」とならなければ駄目なのだろうか。
そもそも、自分から動く、誘うぐらいしなければマイナスなのかも。
「だから言うことを聞いておこうって? きゃはー私のこと気に入りすぎーなのにたまに凄く冷たいときがあってその差にドキッとしちゃう!」
弱っているよりはいいと思う。
「そうだ、今度花と二人きりで集まることになっているんだけど、勝手にマイナスに考えて嫉妬しないようにね」
「あ、そういうところ花ちゃんに似ているよ」
似ているからまたばちばちにならないか心配になる。
上手くいかなくて面白くないとしても八つ当たりをしては駄目だ。
私が知らないだけで昔からそうして仲良くしてきたとしても……もう少しぐらいやり方があるのではないかと偉そうに考えてしまうのだ。
「ま、昔から一緒にいるからねー」
「だったら好きになってしまってもなにもおかしくないよね」
「うわこの子またSモードになっちゃっていますよ、少しずつこっちの精神ゲージを削ってきているんですよ」
「いや、だから二人で一緒に過ごすのなんて当たり前だって言いたいだけだよ」
それに、傍から見る分には一番影響を受けているのは溝上さんだ。
それこそ、二人で会うことを快く思わなくて今度は彼女と溝上さんでばちばち……なんてことにもなるかもしれない。
「もーそんな顔をしているなんてもう駄目ってことじゃん」
「喧嘩……にならないよね?」
「なるわけないでしょ? 別にこっからアピールしていこうってわけじゃないんだから」
「それならいいけど」
というか、なんでこのお気に入りの場所で彼女と話すことになっているのか。
今更すぎるけど、別に教えたとかではないのに。
しかも、こうして違う場所を求めたのはなにも暑いからだけではない、彼女に変に甘えすぎないようにするためにでもあるのにこれでは意味がない。
「はいはい、よしよししてあげるからそんな顔はやめて」
「仲良くしていてほしいから普通に楽しめそうならよかったよ」
「ちょっと待って、なんか変な目線で見ていない?」
「いまは少しお姉ちゃん目線で見ているかも」
「ぷっ、あははっ、ゆらがお姉ちゃんとかありえないでしょっ、あるとしても妹だよ!」
可愛げのない姉、妹、どちらであっても彼女にとって損をすることはあっても得なことはない。
だから家族とかではなくてよかった。
「あ、そろそろ戻らないと」
「うん」
また新しい場所を探そう。
夏休みがきてしまう前に動いておく必要があった。
「プールだっ、人がいっぱいだ!」
すごい数だ、これは……泳げないな。
正直、ただ歩くのも大変そうだ。
参加なんかしなければよかったかとすぐに後悔している自分がいる。
「諏佐、あんたなんか白すぎて心配になるわね、日焼け止めちゃんと塗った?」
「うん、なんとか頑張って塗ったよ」
白いとかなんとかは今日一緒に来ているメンバー全員そう変わらない。
「はぐれそうだから花か有紗にくっついていた方がいいわよ」
「はは、本当は花ちゃんにはくっついてほしくないよね?」
「え、別にあんたならいいけど、ただし有紗は駄目」
「なんでだよー!」
こう、有紗さんの中のなにかを刺激しなければならないルールでもあるのだろうか?
まあいいか、もうお金を払ってしまっている状態だから頑張って付いていこう。
次は絶対に海にする、誘われることがあるのかは分からないけど。
「きゃはー冷たーい」
「つか、なんでそんなに焼けてんの?」
「ゆらに約束を破られて解散直後から外で寝っ転がっていたらこうなった」
いつもの彼女なら「今日家にいくからね!」と朝の時点で言ってくるはずなのになにも言ってこなかったからだ。
終業式中も終わった後もそわそわしながら待っていたのに一人で出ていってしまった結果、こうなっている。
「諏佐も約束をしていたんなら守らないと駄目じゃない」
「ごめん」
「ぷい、ゆらなんか知らなーい」
「面倒くさい状態の有紗は任せたわよ」
結局、距離なんか大してできない。
「有紗さ――」
「怒っているからね私」
いやそうではなくてこれだけ人がいるのにズンズン進めてすごいなと思っただけだ。
「しかもさ、あれからあそこで過ごさなくなったのも気に入らない。なに? 私に知られたから場所を変えたってことなの?」
「そういうわけじゃないよ、だけどあそこよりいい場所を見つけてしまったというだけでね」
「教えてよ、私から逃げているわけじゃないんだからいいでしょ?」
「夏休みが終わったらね」
いまはここを楽しんでほしいのに、ああ、腕をがしっと掴んでそっちに集中することはできないみたいだ。
「これは他のお客さんに迷惑にならないようにしているだけ、本当はゆらなんてどうでもいいんだからね」
「うん」
彼女のズンズン力が高くて二人にはすぐに追いついた。
「人多いな……」と言っている花ちゃんはともかくとして、溝上さんは掴まれたままの私を見て微妙そうな顔をしている。
「普通逆でしょ」
「これでいいんだよ」
「あんたってMなの?」
「Yだね」
「いやそういうのいらないから」
これで帰りたい気持ちもなくなってしまっているのだから仕方がない。
「じゃあ私も……って、そうはならないけどね」
「花ちゃんなら受け入れてくれるよ」
「さっき試しにくっついたら思いっきり距離を作られたんだけど?」
「花ちゃんは溝上さんが――」
「それも変でしょ、佳奈でいいよ」
やっと許可が出た。
んーそう考えると花ちゃんではなくて花さんにした方がいいのかな。
「それなら佳奈さんで。花さんは佳奈さんが好きなんだから好きな人にくっつかれたらドキッとしちゃうでしょ? だからそれだよ」
「ふーん、はは、あんたは違うって?」
こっちに甘々な感じは全くない。
ここだからまだなんとかなっているだけで敷地外に出てしまえば多分、一緒にはいられなくなる。
いままで通りにやるだけでは駄目だということを教えられた一件だった。
「だってこれは罰みたいなものだから」
「なのにそんな顔をしてしまうの? やっぱりMじゃない」
「そ、それでいいから花さんにしてみなよ、大丈夫だよ」
「じゃ、あんたが有紗に抱き着いたら頑張るわ」
別にできないことはないけど、今日は避けられてしまいそうだ。
でも、ここで動けば佳奈さんが動きやすくなるということならやるだけだ。
「よし、やるからね」
「うん」
腕を掴まれた状態だから少し難しかったものの、やってみせた。
意外にも避けられたり、攻撃されたり、暴れられたりすることもなくそのまま数秒が経過する。
「ただ衝突しただけじゃ?」
「こ、これ以上は迷惑になるからね、足を止めるわけにもいかないから」
「ま、あんたは頑張ったから私も頑張りますかねー」
気が付けば佳奈さんが動く方に変わっているのか。
あ、今度は花さんの方が駄目そう。
あっちが解決すればこっちが駄目になる、難しい状態の連続だった。




