04
「ねえゆら、私なんか佳奈に避けられてない?」
「それはほら、花ちゃんが強すぎるからだよ」
「なるほど、私が私らしく動いているだけで相手は大変って言いたいのか」
「うん」
出会ってから約一年というところなのに彼女は私のことを分かりすぎていた。
とはいえ、私も「あ、これは……」となったりもするので、まあ……一方的に分かられてしまっているわけではないと思いたい。
「その点、ゆらは有紗や佳奈と上手くやれていていいね」
「なにもないからだよ」
「敬語をすぐにやめたうえに名前で呼び始めているのは少し複雑だけどね」
「花ちゃんのときにもそうだったよ?」
「そうかな」
夏に出会って変えたのは冬だからそういうことになる。
「私はね、ゆらが一人で心細そうだったから話しかけたんだよ。だから割とすぐに一緒にいなくなると考えていた、でも、実際はこれだよ」
何回も「でも、切るほどではないからいてあげる」と言っていたもんなあ。
本人が嫌なら仕方がないと考えて、だけど結局はいてくれていることに感謝、安心して。
「好きになったのは昔から一緒にいる溝上さんだけどね」
「別にゆらをそういう目で見られなかったとかじゃないよ、たまたま私が佳奈のことを――あ、まだ気になっている状態だから勘違いしないように」
「はは、どうせそこから好きに変わっていくんだから細かいことはいいのに」
「こういうところではその細かいことが大事でしょ」
あいた……頻繁におでこに攻撃する癖だけはなんとかしてもらいたいけどね。
「有紗のことを気にしているのかな」
「あまりにも急だったからだと思う」
「まあ、そうか。私だって急にゆらからアピールされ始めたら同じようになるだろうし」
「自分に自信を持てるのはいいことだね」
彼女はアタックしていくだけでいいから楽ではないけど、まだマシな方だ。
溝上さんがどれだけ早く有紗さんに対するその複雑さを片付けられるかにかかっている。
んー意外と時間がかかりそうだな、だってこの前の有紗さんみたいになってしまっているし。
「うわなんかむかつく……どうせゆらだって好きな子ができてもこんな感じになるでしょ」
「どうだろうね」
「それこそ……有紗とかは?」
おいおいおーい……彼女でも流石にそれは……。
彼女も流石に不味いと思ったのか「あ、いや、いまのは忘れて」とすぐにやめていた。
実際にその通りだから間違ってはいないものの、もう彼女の中では自分のことを気にしていたことになっているから、うん。
「つ、疲れた~」
「おかえり」
「うん、いまの佳奈は駄目駄目だ~」
「佳奈佳奈と話してくるから教室で待ってて!」と元気よく出ていったのにね。
隣の席に座ってぐてっとなっている、あと溝上さんは何故か教室に入ってこない。
「す、諏佐、付き合ってよ」
「それならそのまま帰ろうよ」
「ふぅ、そうね。あんた達もあんまり遅くならないようにしなさいよ?」
「ん~」
「仕方がないから有紗に付き合ってもらうかな」
ここは追ってはいけないところか。
「はあ……」
「大きなため息だね」
「有紗からすれば私のせいで可能性がなくなったようなものなのにどうしたらいいのかを沢山考えてくれてね、なんか自分が嫌になってくるの」
「溝上さん的に同性恋愛ってどうなの?」
そもそもここが駄目なら頑張ろうとすることもできない。
私は気にならない派だ、だからといってそういう目で見られるということもないけど。
まずはお友達としてでも興味を持たれないと話にならないだろう。
「別にそれは気にならないわ、でも、それはあくまで自分以外が動いているときの話よ――は少し違うか……だからその、花が私のことを気にしていると分かっても気持ちが悪いとかそんな風には思わないってこと。ただ……」
「急だからね」
「そうね。まったく……小学生の頃から一緒にいるのに花も有紗も動き出すのが遅いのよ、前々からアピールしてくれていたら私だって……」
そうだなあ、やっぱり有紗さんの気持ちを知る前だったらこうはなっていないよなあ。
「マジであんたがいなかったらもっと泥沼だったわよ」
「その場合は溝上さんだけがすごい大変な状態になっただろうからあのとき、参加していてよかったよ」
「そっか、有紗はいまもこんな感じだもんね、慌てることになったのは結局私だけか」
まあ、その有紗さんはやっぱり空気なんか読んでくれていないけどね。
ちらりと確認をしてみれば追ってきている二人が見える。
花ちゃんはこそこそ尾行なんてしないで堂々と参加する人だから巻き込まれただけだ。
「諏佐――なんか変なやつらがいるわね」
「はは、どうする? 逃げる?」
四人になっても大して変わらないからこのままでいいと思う。
「意外ね、合流するとかじゃないのね」
「いいの?」
そのために私なんかと帰っていたのではないのかとツッコミたくなるところだ。
「まあ……いつまでも逃げていても仕方がないし、あと花は私的にも悪い相手じゃないからね」
「そっか、じゃあ集まろう」
で、こういうところでは空気を読もうとしてこっちのところに来てしまうのが有紗さんだ。
私の肩に手を置いてから「やるね~私じゃできないことをしているよ」と言ってきた。
「ゆらがいなかったら……友情崩壊していたかも?」
「それで離れることになるのは有紗さんだけだよ」
「うわっ、私だけにはきっついよこの子!?」
「それでもどうせにこにこ笑いながら『二人が楽しそうならいいんだよ』とか言うだろうけどね」
「うーん、なんか高く評価してくれているけど、私はそんな風にはできないよ」
なんだこの顔は……。
初めて見る顔で、だけどすぐに見たくない顔になったから違うところに意識を向けておいた。
「よいしょっと」
よし、ずっとやりたかった私の中での大掃除が終わった。
まだ十一時か、いまは本を読みたい気分でもないし、どうしようか。
今日花ちゃんは溝上さんとお出かけしているから頼ることはできない、となると。
「もしもしー? ゆらから電話をかけてくるなんてあの日ぶりじゃーん」
いや、私もなにをしているのか。
勢いで動いてしまったことを謝罪して電話を切った。
お休みなのだからベッドの上でゴロゴロしておけばいい。
その結果、あともう少しで夢の世界へ! というところでピンポンピンポンピンポンとチャイムを連打されて飛び起きることになった。
「はい――」
「なに切っているんだよー!」
ぐは……こ、ここには柔らかいクッションなんかはないのだから飛びついてくるのはやめてもらいたいけど……。
「もしかして私にはなにをしても問題ないとか思ってない? そういうの駄目だから」
「……お掃除が終わって時間ができたからだよ」
「はえーつまり私といられなくて寂しかったってことか。もーそれなら切ったりせずに素直になりなよもー」
とりあえず上からどいてもらってリビングに移動した。
一番好きなお菓子はもう教えてもらっていて分かっていたから買ってきていた物を出す。
「大丈夫かなー佳奈」
「自分から誘っていたぐらいだから大丈夫だよ」
「なんかさ、今頃になってもやもやしちゃってね」
「そんな状態で近づかないようにね」
「で、そんなときに電話をかけてきたのがゆらってわけさ」
よかったのか悪かったのか、彼女の顔で判断するなら……いやこれはどっちなのか……。
「急に電話をかけてきたと思ったら急に『ごめん』とか言って切るしさ、そのことで余計に酷くなったよね」
「うん」
悪かったみたいだ。
私も好きになりかけているお菓子をちびちびと食べることでなんとかする。
「やばい、泣きそう」
小さい頃は私もよく泣いていた。
人といたいのに怖くて、勇気が出なくて。
それを分かっているからこそ大人が「ほら、大丈夫だからいってきなよ」と言ってくるけど、それでいけるならそうはなっていないということで。
でも、私が仮に人といたくない存在だったとしても結局そこは変わっていなかったか。
「鳥か」
他の動物はいいよね。
鳥語は分からないから話しかけても一方通行、だからこそ怖いことをさせられることもない。
外で本を読んでいるときなんかはよく近くまで来てくれていた、だからついつい話しかけてしまったりもしていた。
「花の馬鹿ぁあああ……」
そうそう、公園のベンチに座ってよく読んでいたからこんな感じで泣いている赤ちゃんとか子どもの声がよく聞こえてきていた。
見たり聞いたりする度に「私かな?」となったものだ。
「ほら、これを食べなよ」
「食べるっ」
無駄なプライドがあって、どうしてもお友達の前でだけでは泣きたくなかった。
そのため冗談でもなんでもなく、何度も枕を濡らしていたぐらい。
「ゆらあ!」
「うわっ」
やばい、まんま小さい頃の私だ。
お部屋まで我慢しきれなくなって両親に飛びついたことが何度も……。
いまでもそのことを出されてかあと顔が熱くなってしまうぐらいなのに彼女は大丈夫なのかな。
こういうのは冷静になったときに背後からぐさりと刺してくるものだ。
後悔は先にできなくなっているから仕方がないと言えば仕方がないけど、自分のせいで後の自分が苦しくなるのは微妙だ。
今度こそ無理して笑うようになったらどうしよう。
私は彼女の笑顔を好きになっているところだから嫌だな。
こういうときに大事なのは前々から一緒にいるお友達だ。
夜になれば流石にデート的なことも終わっているだろうからそのときに溝上さんに頼もう。
花ちゃんとは……また今度ゆっくり話してもらうしかなかった。
「暑いな……」
まだ七月手前なのに大丈夫なのかな。
花ちゃんはこんな状態でも一人だけ涼しそうな感じだけど、有紗さんは……。
「いやあっつ……なにこのやる気の高さは……」
あ、これは溝上さんだ。
「よくあんな教室でずっといられるわね」
「廊下もあんまり変わらないんだけどね」
「まあ……これが証拠よね」
おでこからどんどんと汗が。
私の方もタオルを持ってきておいてよかったと言えるレベルだ。
「で、ちらちら見られているみたいだけど、あんた有紗になにかしたの?」
「なにもしていないかな」
できなかったからこそこうなっている。
「じゃ、今日は三人で出かけましょ。そうねえ――あ、カラオケとかいいわよね、あんたの歌声を聴いてみたいわ」
「それは溝上さんと花ちゃんと私だよね?」
「は? そんな訳がないじゃない、あんたと有紗と私よ」
あの日、ちゃんと彼女を頼っても足りなかったことになる。
だから今日、また彼女の時間を貰えればなんとかなるかもしれない。
「有紗も予定を空けておくようにね」
「その前にちょっとゆらと……」
「ん」
せっかく協力してくれているのだから「いきたくない」とか言わないでもらいたいところだ。
「もう暑すぎて溶けそうっ、この状態で狭い部屋の中に集まるのって危険じゃない!?」
「ここと違って冷房が効いているんじゃないかな」
ではないっ、もう本当に有紗さんは!
紛らわしいからやめてほしい、でも、無理をしてほしくないから待つしかないし……。
「仮にそうだとしても、それまでにかいた汗のせいで汗臭くなっちゃったりとか……」
「はぁ……乙女だね」
「そりゃそうだよっ」
これならもう騒がしくしていてもいいから普通に近くにいてほしい。
「もう背中とかべちゃべちゃだから、これならマジでお風呂に入ってからいった方がいいから」
「また汗をかいちゃうよ」
お風呂に入って体温が上がった分、余計にね。
あと、汗のせいで体が冷えて風邪を引いてしまうかもしれない、気になるなら制汗スプレーとか制汗シートでなんとかしてもらうしかない。
「そもそもさ、佳奈は私達と遊んでいる場合じゃないというか? うん、花といればいいよね。あとは仲間外れにしたくないから集まるなら四人で集まるよね」
「あと二人のお友達はいいの?」
「ゆらさん、空気を読んでね」
え、だって仲間外れにしたくないと言うから……。
「ゆらに隣にいてほしいのにいてほしくないっ、夏は難しい!」
「別に汗臭くなんかないよ」
「はいお世辞ーっ、そういうところは本当に花に似ているよ!」
似ているところがあってやったーと喜んでおけばいいか。
授業中も少し苦しかったけど、今日も無事に放課後を迎えることができた。
結局、花ちゃんは「暑いから嫌だけどいく」ということで四人でいくことに。
「ゆらは隣にいて、寄りかからせて」
「うん」
おお、暑いとかなんとか言っている割にはひんやりしていて気持ちいい。
「ふっ、佳奈は隣にいて、寄りかからせて」
「ちょ、真似するのはやめなさ――重いっ、暑いっ、邪魔臭い!」
あれ? なんかどんどんと体温が高くなっている。
こちらに体重をかけるのをやめ、ばっと立ち上がって有紗さんの手を掴んで引っ張っていた。
「佳奈にするのは駄目」
「ふっ、そんな顔をするぐらいなら最初から佳奈に甘えればよくない?」
「は?」
「だからそんな顔をしても意味ないって」
いやそんなバチバチは求めていなかった。
怖いし、巻き込まれたくないから歌ってしまうことにする。
もう彼女達の前でだったら恥ずかしくない、何曲だって歌おう。
「いいじゃない。じゃ、次は私ね」
「うん、楽しみ」
「や、それは流石に期待しすぎ」
少しだけ二人に意識を向けてみると石像みたいに固まってしまっていた。
言い争いになっているわけではないからいいかと片付けて集中する。
「あなたが――」
「こら佳奈!」
「いやちょ――」
そんなにタックルをしたいならラグビー部にでも入ればよかったのに。
「まったくっ」
「いやでもさー私達を放っておいて二人だけで盛り上がるのはちがくなーい?」
「その顔うざ……でも、これは花のせいよ、なに面倒くさいのを刺激してくれているのよ」
「ゆらに甘えるのぐらい普通だから」
「じゃあ、私が佳奈に甘えても普通――うわあ、自分には甘いのに相手にだけ厳しいんだ」
これだったら二人だけでばちばちしてくれていた方がマシだから溝上さんには次の曲を入れてもらった。
今度は邪魔されなかったので、私はお友達の可愛い歌声を聴くことができた。




