02
「実はさ、好き……なんだよね」
「そうなんですか!?」
お、おし、驚いているフリはきっと成功した、私としては「おお!」という反応が一番合っていた。
あ、でも、実際はこういうときに違う「〇〇が好きなんだよね」となるのがいつものことだ。
「ま、まだなにが好きか言っていないんだけど……」
「話す行為が好きということですよね」
「え、あ、それも好きだけど……いま私が言いたい好きは花のことで……」
ま、マジか……。
「だからさーなるべく花といたいんだけどあの子……諏佐さんとばかりいるからさー」
「こ、こんなのをけ、消さなくても影響力は皆無ですよ!」
いまは放課後で珍しく別れている状態だった――と言うのは微妙で、花ちゃんと別れた後に彼女がやって来たことになる。
よく考えてみなくてもこの状態で二人きりになるのは危険では……?
「私、結構なんでも言う方だから諏佐さんに対しても遠慮しないよ。だからさ――」
「じ、自分の方からはいっていないので許してください!」
お家の中に急いで逃げた。
それからすぐに鍵を閉め――ようとしたときにバッと開けられて心臓が飛び出そうになった。
「そう警戒しないでよ、ね?」
「べ、別に警戒しているわけでは……」
こう……肉食獣で獲物を見つけたときの顔と目をしているんだよなあ。
花ちゃんの怖い顔よりもよっぽど怖い、でも、頼ることもできないと。
というか、こうして別れた後になにかメッセージを送ることなんかもできていなかった。
「それにさ、敬語はやめてよ。あと、私もゆらって名前で呼んでいい?」
「それは構いませんけど……」
「ほらほら、敬語はやめて」
「……私を消してもなにも変わらないよ」
「だからそんなことしないって!」
ふぅ、少し落ち着けた。
どうせならとそのまま上がってもらって飲み物を出すことに。
花ちゃんだってここには数回しか来たことがないのに最近知り合ったばかりの彼女を上げるなんてね。
「なんで私に言おうと思ったの?」
「ゆらなら勝手に言い回ったりしないと思ったからかな」
「お友達は花ちゃんぐらいだからね」
べ、別に橘内花ちゃんというお友達ができるまでお友達がゼロだったわけではない。
本がお友達だから人間のお友達がいなくても大丈夫! なんていつでも逃避していたわけではなかった。
「ひど、私とだってそうでしょ」
「いいの? 自分で言うのもあれだけど、お友達だと分かったらすぐに甘えちゃうよ?」
うん、なーにを言っているのか。
でも、これに耐えられなければ私となんて一緒にいられない。
「んー私の発言も矛盾しちゃっているけどさ、花が『来てくれないんだよね』って言っていたぐらいなのに?」
「だからこそだよ、花ちゃんが来てくれたらすぐに甘えてしまっていたから」
「じゃ、これからは甘える対象が花と私の二人に増えるだけだね」
陽キャラさんはすごい、絶対に私には真似できない。
願望だと言われたらそれまでだけど、ただそう言うだけで終わりにするようには見えなかった。
「花、好きな子とかいるのかなあ」
そういう話は全くしてくれないからどうなのか。
まあ、仮にしてくれていてもここで「花ちゃんは〇〇が好きだよ」なんて言えるわけがない。
彼女は私がそういう風にしないことを信じて来てくれているわけだしね。
「もし好きな子がいたら応援するけどね」
「大人だね」
「だってそこで喚いてもイメージを悪くするだけだからね」
もっと違うタイプの人が相手だったとしてもそれは同じか。
「でも、それはあくまで表での話であって、裏ではゆらに甘えちゃうかも」
「はは、私だって少しは役に立ちたいからいいよ。それにほら、こっちだけ甘えるだけ甘えて終わりというのはズルいでしょ?」
「あーっ、私が失敗する前提で話しているでしょ! 少しは応援してよ!」
む、難しいね……。
ただ、花ちゃんに似ているところもあってそこが嬉しかった。
本当なら私のなにかが似ている、というのが一番だとしてもだ。
「ゆらは誰か好きな子いないの? それこそ……花とか」
「花ちゃんのこと好きだよ」
「はいはい、よくあるやつですよね」
ある意味ではチョロいけど、そういう意味ではチョロくないという感じかな。
「私に合わせてないことにしようとしているなら怒るけどね」
合わせようとできないからここは黙っておくことにした。
どれだけのメンタルを持ち合わせているのかは分からないものの、少しも影響を与えないようにしたい。
流石にこちらがなにも言っていないのに一人で悪い方に考えて自滅してしまうような子ではないことを願おう。
「ちょっと、聞いてる?」
「うん」
「ゆらって黙ると本のことを考えてそうで気になるんだよ」
「そっか」
最近の私にとって本は逃げる際に甘えさせてもらう存在だ。
あと、そこで花ちゃんのこととならないのはまた露骨というかなんというか。
なにも発生しようがない花ちゃんのときよりも相手をするのが大変かもしれなかった。
「最近、有紗と仲良くできてるじゃん」
「うん、木滑さんのおかげでね」
「有紗も普通に楽しそうだし、やっぱり相性がよかったんだね」
少し合わない相手でも来てくれている限りは頑張る。
「じゃあ、この前の私と有紗以外のメンバーとも仲良くなれるんじゃない?」
「まずは木滑さんと仲良くなれるように頑張るよ」
「まあ、ゆらはあっちもそっちもとやるのは苦手か」
ああでも、私の方はともかく木滑さん的には彼女と過ごしたいか。
彼女が相手のときみたいにやっていけばいい。
来てくれる前提でいるのはアレだけど、来てくれたら相手をさせてもらうぐらいの感じでね。
「ということで、あんたがもっと有紗と仲良くなれたら他の子ともね」
「うん」
木滑さん以外のお友達のところに向かったから廊下に出る、すると「動かないで」と背中に指を突き付けられた。
そう近い席ではないとしても私達を包む雰囲気とかで不安になってしまうのだろうか。
「でも、ここだと他の人に迷惑だよ、少し移動しよう」
「れ、冷静に対応しないでよゆら……」
少し歩いて振り向いてみると困ったような顔をしている木滑さんが。
そういう顔でも可愛く見えてしまうのは正直に言うとズルいと思う。
「は、花となにを話していたんだー?」
「この前一緒にカラオケ屋さんにいったメンバーの人達とも過ごしてみろと言われまして、私はそれに対して『まずは木滑さんと仲良くなれるように頑張るよ』と答えました」
無駄な嘘をつきたくはないから普通に話していくだけだ。
「おいおい、敬語をやめるって話だっただろー? なんなら木滑じゃなくて有紗でよくない?」
「そうですね、木滑さん的に問題ないなら有紗さんと呼ばせてもらいます」
「敬語はいらないって!」
まあ、これで二回目だし、それならやめればいいか。
敬語を貫き続けられるような敬語キャラではないからだ。
「さっき見ていたときに思ったんだけどさ、正直に言うとライバルはゆらじゃなくてそのグループの子達の中の一人なんだよね」
「あのときもあっさり別れていたことだし、そんなことないと思うよ」
あ、でも、あのときは彼女も変な行動をしていたから分からないか。
何故かこちらに合わせようとしてしまっていたからなあ、なんで「私と花は一緒ね!」とならなかったのか。
二人して私みたいな存在は放っておけないということなのかな? もしそうなら面倒見のいい同級生が二人もいたことになる。
「いやいやっ、なんか怪しい雰囲気の子がいてねえ――ほらっ、ゆらはよく本を読んでいるから分からないんだよ」
「そうだね」
実際、彼女といるところだってろくに見ていなかったからいまの発言は正しい。
「あ、ちょ、別に悪口を言いたいわけじゃないからね?」
「え、気にしていないけど」
「そ、それならいいけど……ゆらの顔ってたまに怖く感じるんだよ」
結論、黙ったらみんな怖い。
そういうところも影響しているのかもしれない。
花ちゃんは私程度の真顔に怖く感じる存在ではないのでなんとかなっていただけでね。
「バーンッ」
「え?」
「もーゆらはノリが悪いなあ」
え、あ、え……?
なんかため息をつかれてむかつきはしないけど……複雑な気持ちになった。
あとこれ、花ちゃんが他のお友達と一緒にいるから来ているだけだろう。
ある程度はフラットな状態で相手をさせてもらうことができる人間でよかった。
誰かが来てくれる度に舞い上がっていたら相当恥ずかしい人間になる。
「ねね、ゆらは花のことが好きじゃないんでしょ? だったら協力してよ」
「私にできることならするよ」
「そうだなあ――あ、ゆらが誘えば一発なんじゃないの? いまいってきて!」
「分かった」
「って、こ、ここでは動いてくれるのかーい」
「放課後に遊ぼう」と誘えばいいか。
三人で話していたからそのお友達に謝罪をしてぶつける。
「なんだ、珍しくゆらから誘ってくれたと思えばどうやら違うようだね」
私が誘ったけどね。
彼女が入ってきて私の後ろに隠れる。
花ちゃんが机を二回タップすると隠れるのをやめ「ははは……」と困ったような笑みを浮かべた。
「私と遊びたいなら普通にそう言えばいいでしょ」
「い、いやーだってなんか楽しそうだったし? 邪魔するのも申し訳ないなーって」
「で、自分は気になるからゆらに頼んだと、無駄だね」
「で、ど、どうなんだい?」
負けるな頑張れ。
「放課後に予定が入っているとかでもないし、別にいいよ」
「やったっ、ゆらありがと!」
「あれ、私への『ありがとう』は?」
「あ、ありがとう花」
え、もしかして私がいないところでもこんな感じなのかな。
一度意識してしまったらいままで通りにはできないということか。
「ゆらはどうする?」
はぁ……なんでここで「二人きりで!」とならないのか。
「有紗、ゆらのこと名前で呼んでいるの?」
「うん、さっきやっとお互いに名前呼びに変わったんだ」
「そ。で、私も聞くけど、ゆらはどうする?」
「私は本を読むよ」
当然だよなあ。
ここで参加するような人間ではなくてよかった。
「分かった。じゃ、そういうことで私と有紗の二人きりね」
「わ、分かった」
「有紗さ、なんか前からおかしくない?」
「ふぅ、失礼だなー」
戻ろう。
本を出して読もうとしたものの、時間がなかったからやめた。
放課後は暇になるからそのときに読めばいい。
それで実際、解散になったら二人は仲良く教室から出ていった。
「諏佐、ちょっと付き合いなさい」
あ、この人はあのとき一緒にいた人だ。
花ちゃんや有紗さんと組めなくても別に睨んできたりはしていなかったけど、あのときは上手く隠していただけだったのかもしれない。
「あ、花が好きとか有紗が好きとかはないから勘違いしないように」
「そうなんですね」
「私はね、合っているならあんたと同じ立場の人間よ」
えっと、見ていることしかできない――のではなくて、応援する側ということか。
色々な人の色々な人に対する好意を知ってしまっていると動きづらくなるからこれはありがたかった。
「ただ、花よりも有紗寄り、かしら」
「有紗さんに幸せになってもらいたいんですね」
「そう。だけど別に好感度の違いとかじゃないのよ、私からしたら有紗の方が花より上手くできなさそうだから応援したいの」
「あー」
「花は勝手に上手くやるでしょ」
緊張とかは……しなさそうだなあ。
好きな人に対してぐいぐいいきすぎて「は、花ちゃん!?」と叫んでしまいそうなぐらい。
「あとこれは私が勝手に想像しているだけなんだけど、もしかしたら私の方の組の誰かを気にしているかもしれないわ」
「あ、あなたという可能性は……?」
「私は有紗とばかり過ごしてきたからないわね」
だからこそ、とは考えづらいか。
「ないけど、私のことをそういう目では見てほしくないわね。だって有紗と争いたくないもの、あの子が悲しそうな顔をしているところを見たくないもの」
「はい」
「つか、あれだけ一緒にいるわけだし、諏佐って可能性もあるかもね」
「私も有紗さんと争いたくありません」
「どうしても知ってしまうとねえ」
さあ、時間も経過して邪魔をしてしまう可能性もなくなっただろうから帰ろうか。
挨拶をしてあくまで一人で帰るつもりだったのに一緒に帰ることになった。
「諏佐の家ってあっち?」
「はい、花ちゃんのお家から十分ぐらい歩いたところにあります」
「それならいこうかな」
「構いませんけど……送りませんよ?」
「や、そんなつもり全くないから、そもそも女が女に送られるって変でしょ」
無駄に警戒しても疲れるだけ、早く帰ろう。
が、運がなかったのは花ちゃんと楽しそうに歩いている有紗さんと遭遇してしまったことだった。
笑顔だったのにすんとそれもなくなって、無言で私達の方に近づいてきてこちらの肩に手を置いてきた有紗さん。
「ふふふ」
「あんた壊れたの?」
「いやはや、いつの間にかそこが繋がっていたなんてねえ?」
「こうして一緒にいるのはたまたまよ、付き合ってもらっている状態なのはそうだけどね」
うん? なんか花ちゃんの様子が変だ。
花ちゃんの正面には名字も名前も知らないこの人がいて、何故かあっちを見たり、この人を見たりと忙しい。
この人と楽しそうな有紗さんが気にしている、ようにも見えない。
これは……。
「ゆらっちもやるな~」
有紗さんだけが楽しそうだ。
「でも、私と以上に一緒に過ごしたら泣くからね?」
「や、あんたは花と過ごしているくせになに言ってんの?」
「日本語~へへ、うへへ」
「駄目だこいつ……」
ど、泥沼化するのだけは避けてほしいところだけど、誰が誰を好きになるのかなんてコントロールできないし、されるようなことでもない。
「もういいわ。諏佐、さっさとあんたの家のいきましょ」
「はい」
「私もいく~花もそれでいいよね?」
「うん」
どのペースでやっていくのかも各々で違うと分かっていてもため息をつきたくなる。
このまま油断をして変な選択ばかりをしていると痛い目にあう。
花ちゃんが側から去った後に頑張ろうとしても無駄に終わってしまうだけなのに……。
「二人きりにはさせないゾ!」
「有紗さん」
「え――うわこわあ……」
今回は意識してそういう顔にしている。
が、何故そうしているのかを全く分かってくれなかったうえに「そう緊張しなくて大丈夫だよっ、みんな優しいよ!」と変な勘違いをしてくれた有紗さんだった。




