01
「んー!」
実際にこんなことが起きるなんて……。
あんなの漫画やアニメの中の話だけだと思っていたのに……。
「はい、これでいい?」
「あ、ありがとうございます」
性別では同じなのにどうしてここまでの差があるのか。
別に私とこの人で極端に歳が離れているというわけではないだろうし、だけど私がこれからこの人並みに歳を重ねてもこうなるという確証はない。
「あなたは一年生でしょう? 入学してからよく来てくれているわよね」
「本が好きなので――あっ、人に語れるほど詳しくはありませんが!」
「ふふ、利用者がいてくれるのはありがたいことよ」
これ幸いとばかりにそのまま借りて図書室から退室、教室へ戻る。
しかし……本を読むことが好きになったのはいいけど、それに影響されて内向的になってしまった気が――って、本のせいにするのは最低か。
少なくとも私が思い描いていた華々しい高校生活ではなくなってしまっているのが、うん。
まあ、全て自分次第だからこれもまた自分のせいでしかないけど。
「ただいま」
「おかー」
彼女はお友達の橘内花ちゃん。
中学三年生の夏に部活が終わって「さあ、これから受験勉強を頑張るぞ」となったところで話すようになった子だった。
もちろん、私から話しかけられたわけではないけど、あのとき大きかったのは同じ高校を志望する関係だったことだ。
「うわ、また本を借りてきたんだ」
「敢えて分かっていることを言うの、嫌いじゃないよ」
「だって言いたくならない? そんなに本ばかり読んでどうするのって話だよ」
ここで格好良く言い返せたらいいのに……。
残念ながら私の場合はただ好きで読んでいるだけ、それを重ねていくことで知識が増えているかと問われれば違うと答えるしかないのが現実だ。
「ま、ゆらさんが本を読んでいるのなんて当たり前すぎることだからこれ以上はいいか。それよりもさ、放課後に複数人で集まるんだけどゆらも参加するよね?」
え、強制……。
それにメンバー次第で変わってくることだから誰が参加するのかどうかを言ってくれないと困る。
「参加してくれなかったら泣くから」
「花ちゃんはそんなことで泣かないよ。あと、私がここで『参加しない』と言っても色々と言いながら私といてくれると思う」
「自分に甘いね、私がこのままゆらの側にい続ける妄想をするなんてね」
「まあ、花ちゃんが嫌なら仕方がないよ」
去っていく背中をただ見つめることだけが私にできることだ。
もしそんなことになれば私はいま以上に本に頼って周りとは距離ができることになる。
「ゆらのそういうところは嫌い、でも、切るほどではないからいてあげる」
「はは、そっか」
「まったく、そこでそんなに安心したような顔をするなら普通に参加してよ」
「でもさ……」
「大丈夫だから、私の友達に怖い子はいないよ」
当然、お友達がいればそちらを優先するようになるわけで、アウェーの場所で一人ぽつんと放置されることになるのが嫌なのだ。
そこで頼ろうとしてしまったばかりに敵ができてしまったら? そんなことになったら本パワーに頼っても負けてしまいそうだ。
そうなれば不登校になるでしょ? そこからは両親にも迷惑をかけ、悲しませて誰も幸せにならない微妙な時間になる。
追い込まれたからと自分で自分を殺せるようなメンタルはしていないけど……。
と、とにかくこういうところでそもそもいかないことを選んでおけば無駄に敵は作らずにいられるのだ。
「そんなに不安なら私の手でも掴んでおけばいいよ」
彼女ガチ勢がいたらそれも悪い方に傾くきっかけになる。
というわけで、本を読んでいても落ち着かない時間となった。
お昼休みに持ち掛けられたことで心の準備をする時間が少なかったことも影響している。
「はーい、いまからこのメンバーでカラオケ屋さんにいくよー」
は、八人とかではなくてよかった……。
でも、私と彼女以外に四人もいる、これならなんとかなる……かなあ。
ただ、私だって絶望的に人と会話できないというわけではないのだ。
とはいえ、ここで無理をして自分から動こうとすると空回りして終わるだけなのでいまはただ付いていくだけだ。
「ん-人数多いから三、三で別れようか」
えっ、なんでそれなら系六人でカラオケ屋さんにいこうと思ったのか!
そう思って彼女を見たらウインクをされてしまった、私、彼女、〇〇さんだけならなんとかなるだろうという優しさなの……?
「今日は慣れていない子もいるから私はこの子とね」
「ちょっと待った、花はいっつも諏佐さんといるんだからそれはないでしょ」
お、おぅ、知られていたか……って、名字ぐらいは知っているか。
「でもなあ、こうでもしないとこの子、走り去るよ?」
いや、仮にここで帰るとしてもちゃんと挨拶をしてからゆっくり帰る。
もう店内にいるし、外に出られてもお家まで走れるような体力がないからだ。
「諏佐さんと私でいいよ、せっかくこうして一緒に遊びに来ているんだから普段あんまり一緒にいない子と過ごすべきでしょ」
「と言っているけど?」
「わ、私はだいひょ――うぇぇ……噛んだぁ……」
血……出ていないかな。
ちなみに、
「あははっ、諏佐さん面白い! 私、前々からゆっくり話してみたいと思っていたんだよね!」
と、名字すらも知らない女の子は一人だけ楽しそうだった。
他の子は早く歌いたいみたいだったので結局、私と彼女とこの子の組み合わせに。
不可能ではないみたいだから別に全員で一室を借りてもよかったと思う。
「なにを歌おうかな~――あ、ちょ、なんでマイクを取るの?」
「まずは自己紹介から」
「え、同じクラスなのに知らないとかありえる? うわマジか……」
ひぇ……黙ると一気に怖く見えてくるな……。
「私は木滑有紗だよ、花とは最近知り合ったの」
「はい無駄な嘘をつかない、小学生の頃から一緒にいるでしょうが」
「はは、そうとも言うか。でも、途中からお気に入りの子ができたのか付き合いが悪かったけどねー」
「お気に入りの子ですか?」
「そそ、高校受験のために頑張り始めた頃にできた友達とね」
私……と考えるのは危険か。
いやでも、あれから一緒にいたけど、この子と小学生の頃からの仲だったなんてね。
全く分からなかった。
「ふふふ、その子とはいまもいるのかなー?」
「さあね。ゆら、歌えそうならどんどん歌って」
「じゃ、じゃあ」
「あれ、今日は珍しく抵抗しないじゃん」
「……せ、せっかく花ちゃんと一緒に遊びにこられているんだから」
なんか恥ずかしくて顔が見られなかった。
「そっか」
「ちょいちょい、なんか私いないことになってない?」
「二番目は有紗でいいから」
「おっしゃっ、諏佐さんよりも高い点数を取ってやるぜ!」
え、あ、採点設定にしてしまうのか。
いやでもっ、ここでウジウジしていたらなにも変わらないっ。
いつもお掃除のときにしているみたいに歌えばいいのだ!
「ぷしゅ~……」
う、歌えたぜ……。
お気に入りの曲で何回も歌っていた甲斐があった。
いつもみたいに寄りかかることはできないものの、隣に静かに座ると
「お疲れ様」と言って頭を撫でてくれた。
お礼を言い、注いできていたジュースを飲んでから木滑さんの歌声に集中する。
「ゆら、ちょっとトイレにいこ」
「え、あ、あー」
ごめん木滑さん、私の上手か下手かも分からない歌声を聴いてもらうことになったのに……。
「さっきから顔が赤くて気になってね」
「あ、ああ、私にしては珍しく頑張ったからだよ」
「体調が悪いとかじゃないならよかったよ」
「そんなに簡単に弱ったりしないよ?」
「ま、それは知ってる。でも、ずっとそういられるわけじゃないから」
それなら、うん、確かにそうだ。
「有紗とは上手くやっていけそう?」
「木滑さんは優しいから大丈夫だろうけど」
「けど?」
次はないんじゃないかなあ。
あと、私の勘違いでなければ木滑さんは彼女のことを、うん。
いまはにこにこ可愛らしい笑みを浮かべて対応してくれていても邪魔な存在と分かれば一気に変わってきてしまうのではないだろうか?
「戻ろうよ」
「うん、歌わなければ損だからね」
戻って私のやることは二人の歌声を聴くこと、ジュースをちびちびと飲むことだ――あ、二人が楽しそうに話しているところを見ておくというのもあったか。
この組み合わせになってよかったな。
無理強いもしてこないし、最初はともかく途中からはずっと内側は落ち着けていた。
「歌った歌ったー」
「はい飴、有紗は歌うのが上手で喉に影響なんか出ていないだろうけどこの味好きでしょ」
「おっ、ありがとう花!」
あかん……もうそのようにしか見えない。
花ちゃんもそういうところがもうね、彼女が橘内花をやっている限りは好感度稼ぎまくりだ。
「私の家はこっちだからね諏佐さん」
「は、はい」
「つまり、今度来ておくれってことだよ? そこらへん分かってる?」
「そ、それなら一ヵ月以内にいかせてもらいます」
くっ、一週間以内にした方がよかったか。
これでは「いけたらいく」と言っているのとあまり変わらないような……。
「ねえ花、諏佐さんって意外と合わせてくれるね?」
「でも、嫌なら嫌って言うから大丈夫だよ、あとそのときは私もいくから」
「きゃーっ、花ちゃんも来てくれるなんて嬉ちー!」
「いいから早く帰りな」
「あーい。じゃ、またねー」
今更だけど、彼女達と一緒に盛り上がることができなかった人達も普通に優しかった。
彼女以外の人と普通に話せたというだけで十分どころか高く評価してもいいところだ。
「さ、帰るよ」
「うん」
うーん、お家の場所的に仕方がないとはいってもこれはいいのかどうか。
彼女の優しさに全力で甘えている結果だから喜べない。
「参加したうえに歌ったのは高評価、はは、ゆらにしてはやるじゃん」
「水を差したくなかったんだよ」
「でも、有紗と話しているときに家のお母さんみたいな顔をしていたのはマイナスね」
「だ、だってさ、木滑さんだけじゃなくて花ちゃんも楽しそうだったからさ」
ほとんど無表情か呆れたような顔をしていることが多いから参加してよかったと思う。
「だからって変な勘違いをしないように」
「しないよ」
嘘です、思い切りしています。
だって木滑さんみたいな子が恋愛面では強くないと分かれば普段との差に可愛くて悶えてしまうのだ。
「案外、ゆらと有紗って合いそうだけどね」
「木滑さん的に興味ないでしょ」
「ま、少なくとも今日はそう見えたってだけだよ」
彼女とも別れて一人でお家へ。
別れた場所から十分は歩かなければならないから遠くはないとしてももう少しぐらいは近くあってほしかった。
そうすれば夜に急に会いにいきたくなってもすぐに会える、十分ぐらいで大袈裟すぎと言われてしまうかもしれないけど、一分とかで会えた方がいい。
「ただいまー」
って、誰もいないけどね。
早く帰ってくる私が家事も担当! みたいなこともない――あ、やるとしても両親の分まで作ることはないということだ。
べ、別に自分勝手、自分のことをだけを考えて動く自己中心的というわけではなく、両親にそうしろと言われているからだった。
意地を張って頑張って、それで待っていても虚しい結果になるだけだと分かったらもうしようとはならないものだ……。
というか、
「下手に人と一緒にいたせいで寂しいぞ……」
だからといっていま別れたばかりの花ちゃんを頼ることはできない。
少し時間が経過すれば兄、姉、弟、妹が帰ってくるわけでもない。
可愛い可愛いペットが! みたいなこともないからここではやっぱり本に逃げるしかなかった。
これはよくないなあ、だって本を読みたいからではないんだもん。
こんなことばかりでは詳しくなれなくて当然だ。
「はぁ……」
まあ、それでも本というのはやっぱり優秀な存在だ。
だからある程度の時間まで読んで、いいぐらいの時間になったらご飯を作って食べた。
お風呂から出ても大体そんな感じで終わっていく。
「よし」
私は学校がある平日の方が好きだった。
何故ならいちいち本人に許可を貰えなくてもお友達と会えるからだ。
休日にお家にいくと本当に迷惑そうな顔をされてしまうのもある。
「おはよう花ちゃん!」
「ん」
あ、そっか、朝はこんな感じだよね。
お昼休みくらいになると完全な状態になるからそこまで待たないと。
「おっはー」
「んー」
「テンションひっくっ。はははっ、それでこそ花だよ!」
そ、そもそもお昼まで待とうとしていたのだからこれは全く構わない。
「それより諏佐さんさあ?」
「はい?」
「なんで昨日連絡先を交換してくれなかったの?」
えぇ……だって頼まれていないし……。
彼女から少しだけでも私の情報を聞いていたのなら私から動けるわけがないと分かるはずだ。
「そういうのはちゃんと言わないと駄目だよ、特にゆらが相手のときはそう」
「あ、復活した。ふふ、諏佐さんのことになれば朝でも花はそんな感じなんだね?」
「ゆらのことを説明してあげているだけ、それ以上でもそれ以下でもない」
「はーいはい」
そのまま交換の話は――なくならなかったので交換しておいた。
アプリのIDも教えたことでお友達みたいにやり取りができる準備が整った……のはいいけど、果たして使われるのかどうか……。
「心配だからグループでも作るか」
「えーそこで不安になられるのは心外なんですけどー」
「間違いなくゆらが被害者になるからね」
あーこれなら二人がやり取りしているところを見ることができるからそれは……使っていると言えるのでは?
ただそこにあるだけで空白のままだと悲しいからそれならまだいいか。
「諏佐さん、後で二人だけのグループを作ろうね」
「ははは……」
「そこ、普通に聞こえているから」
「でも、やっぱり諏佐さんとこそこそ話だってしたいよ」
ひぇ……花ちゃんの顔が……。
怖いから違うところを見ておいた。
そうしたら両頬を両手で挟まれて「ま、ゆらがいいならいいよ」と終わらせてくれたのだった。




