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追放された無能錬金術師の辺境スローライフ〜泥水ポーションが規格外すぎて古竜に溺愛されています〜  作者: 黒崎隼人


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第9話「黒い影の接近」

 シルバ村にルリアがやって来てから、1ヶ月の月日が流れていた。

 木々の葉は深い緑からわずかに黄色を帯び始め、吹き抜ける風には秋の涼しさが混じるようになっている。

 村の風景は、ルリアが到着した日とはまるで別物のように変貌を遂げていた。

 開墾された広大な畑には麦が黄金色に波打ち、収穫を待つばかりとなっている。

 ルリアが自動生産で作り続ける肥料のおかげで、痩せていた土地は見違えるほど豊かになり、村人たちの顔には余裕のある笑顔が絶えなかった。


「よし、今日の分の傷薬も完成」


 ルリアは額の汗を袖で拭い、錬金釜の火を落とした。

 小屋の中に満ちていた強烈な臭いが、開け放たれた窓から秋風に乗って外へと逃げていく。

 作業台の上には、コルクで栓をされた濁った緑色の小瓶がずらりと並んでいる。

 これらは村人たちが農作業で怪我をした時のための常備薬だ。

 最近では近隣の村からも噂を聞きつけて買いにくる者が現れ始め、ルリアの生活は王都にいた頃よりもずっと忙しく、そして充実していた。


「おい、ルリア。飯の用意ができたぞ」


 小屋の扉が開き、木製の大きなお盆を持ったジルが入ってきた。

 お盆の上には、湯気を立てる肉のシチューと、焼きたての丸いパンが乗っている。

 すっかり村の生活に馴染んだジルは、ルリアの護衛と家事全般を引き受けるようになっていた。

 彼が森で狩ってくる獲物は大きすぎて村人たちを驚かせてばかりだが、そのおかげで村の食糧事情は劇的に改善している。


「ありがとうございます。すごくいい匂い」


 ルリアは作業台を片付け、椅子に腰を下ろした。

 シチューを一口食べると、肉の旨みと野菜の甘みが口いっぱいに広がり、疲れた体に染み渡っていく。


「そういえば、村長が祭りの準備を始めると言っていた。今年の収穫祭は、お前のおかげで盛大なものになるだろうな」


 向かいの席でパンをかじりながら、ジルが少しだけ目元を緩めて言った。


「私がしたことなんて、少し錬金術を使っただけですよ。皆さんが頑張ってくれたから……」


 ルリアが謙遜して言いかけた時、ジルの手がピタリと止まった。

 彼の金色の瞳が細められ、窓の外の遠く、村の入り口へと向けられる。

 周囲の空気が、わずかにピリッと張り詰めた。


「……何か来る」


 ジルの低い声に、ルリアもスプーンを置いた。

 耳を澄ますと、遠くから複数の蹄の音が重なって響いてくるのが聞こえる。

 それはのんびりとした荷馬車のものではなく、硬い地面を蹴り上げる軍馬の規則的で荒々しい足音だった。

 鉄が擦れ合う微かな音が、風に乗って運ばれてくる。


「騎士団……?」


 ルリアの心臓が、嫌な予感で小さく跳ねた。


◆ ◆ ◆


 村の広場に、黒い甲冑をまとった騎馬隊が土埃を巻き上げて乗り込んできた。

 先頭を走るのは、金糸の刺繍が施された白い軍服を着た男。

 レオンハルトだった。

 彼の顔には長旅の疲労が色濃く出ているが、その瞳には焦燥と苛立ちがギラギラと燃え盛っている。

 馬のいななきと共に、武装した騎士たちが広場を包囲するように展開した。

 突然の出来事に、農作業をしていた村人たちはクワやカマを落とし、怯えたように身を寄せ合う。


「ルリアはどこだ。ルリアをここへ連れて来い」


 レオンハルトは馬から飛び降りるなり、大声で怒鳴り散らした。

 その高圧的な声に、村長であるガランが進み出る。


「王都の騎士様たちが、辺境の小さな村に何の御用ですかな。ルリア先生なら、今は薬を作っておられますが」


 ガランは震える膝を必死に抑えながら、ルリアをかばうように前に立った。

 しかしレオンハルトは、老人の言葉など耳にも入れない。


「そこを退け、老いぼれ。私は一刻も早くあの女に用があるのだ」


 レオンハルトがガランの肩を乱暴に突き飛ばそうと手を伸ばした瞬間。

 彼の腕が、見えない力に弾かれたように空を切った。


「俺の村の者に、むやみに触れるな」


 低く冷たい声と共に、ジルの長身がレオンハルトの前に立ち塞がった。

 黒い服を身にまとったジルの威圧感に、レオンハルトは思わず数歩後ずさりする。


「貴様、何者だ。私は第一王子レオンハルトだぞ。道を空けろ」


 レオンハルトは虚勢を張って怒鳴るが、ジルの金色の瞳に見据えられ、声が裏返っていた。

 そこへ、ルリアが群衆を掻き分けて広場に姿を現した。

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