第6話「規格外の錬金術」
小屋の空気が、錬金釜の下で燃える薪の熱でじわじわと温まっていく。
ルリアは大きなすり鉢に青白い花を放り込み、すりこぎで力任せに押し潰した。
花の繊維がちぎれ、青臭い汁がすり鉢の底に溜まっていく。
「おい。素材の処理が雑すぎないか。普通はもっと慎重に魔力を込めて抽出するはずだ」
ジルの指摘に、ルリアは手を止めることなく首を横に振る。
「大丈夫です。どうせ釜の中で溶けるので」
ルリアは砕いた花とキノコを無造作に釜の中へ放り込み、木桶から井戸水を注ぎ入れた。
釜の中の液体は透明な水色から、瞬く間に濁った緑色へと変わっていく。
ルリアは釜の縁に両手を当て、目を閉じて深く呼吸をした。
指先から、目に見えない強大な魔力が濁流のように釜へと注ぎ込まれる。
ジルはその魔力の密度と質量に圧倒され、思わず壁から背中を離した。
『この娘、どれほどの魔力を隠し持っているんだ』
ジルの金色の瞳が、驚きに見開かれる。
本来、錬金術とは繊細な魔力操作と厳密な温度管理が求められる技術だ。
しかしルリアは、圧倒的な魔力で素材の性質を強制的にねじ伏せ、強引に融合させている。
釜の中の液体が激しく沸騰し、小屋の中にあの強烈な腐敗臭が充満し始めた。
「臭い。鼻が曲がりそうだ」
ジルが顔をしかめ、服の袖で鼻を覆う。
「さっきあなたに飲ませたポーションの補充を作っているんです。すぐに終わりますよ」
ルリアは額の汗を拭いながら、釜の下の火を小さくした。
濁った液体を柄杓ですくい、手際よく複数のガラス瓶に移し替えていく。
コルクで栓をすると、臭いは嘘のように消え去った。
「よし、次は村のための肥料を作ります」
ルリアは息つく暇もなく、別の小さな釜を作業台の上に置いた。
中には村の広場で少し分けてもらった土と、砕いた鉱石が入れられている。
村の畑は土が痩せており、作物が育ちにくいとガランから聞いていたのだ。
ルリアは釜の側面に触れ、指先で複雑な幾何学模様を素早く描き出した。
木炭で描かれたような黒い線が、魔力を帯びて青白く発光する。
「何をしている」
「自動で素材を混ぜ合わせる術式を組み込んでいます。これなら、私が寝ている間でも勝手に肥料が完成しますから」
ルリアが指を離すと、釜全体が微かに振動を始め、中からゴリゴリと石が擦れ合う音が響いてきた。
術式が釜自体を動かし、内部の素材を最適な速度で攪拌しているのだ。
ジルは信じられないものを見るような目で、ひとりでに動く釜を見つめた。
「自動で錬金を行うなど、聞いたこともない。お前、自分がどれほど異常なことをしているのか分かっているのか」
「異常ですか。王都では、私の作るものは全部泥水だと笑われていましたけど」
ルリアは不思議そうに小首を傾げ、釜の表面の汚れを布で拭き取る。
その無自覚な様子に、ジルは重いため息をつき、頭を抱えた。
「王都の人間は節穴ばかりらしいな。お前の持つ技術は、一国を傾けるほどの力だぞ」
「そんな大げさな。ただの肥料と傷薬ですよ」
ルリアのあっけらかんとした笑顔を見て、ジルは思わず吹き出した。
彼の喉の奥から、低く響くような笑い声が漏れる。
「面白い。お前のそばにいれば、退屈することはないだろう」
ジルは口元に笑みを残したまま、小屋の床にどっかりと腰を下ろした。
ルリアは彼の言葉の意味を深く考えず、新しい素材の選別に没頭し始める。
窓の外では完全に日が沈み、暗闇に包まれた森の奥から夜の獣たちの遠吠えが響いていた。
冷たい夜風が壁の隙間から吹き込んできたが、小屋の中には釜の熱と、二人の穏やかな時間が確かに満ちていた。




