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追放された無能錬金術師の辺境スローライフ〜泥水ポーションが規格外すぎて古竜に溺愛されています〜  作者: 黒崎隼人


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エピローグ「泥水ポーションの真実」

 窓枠に降りた白い霜が、朝日を受けてガラス細工のようにきらきらと輝いていた。

 吐く息が白く染まるほどの冷え込みに、ルリアは毛布に包まったまま身を縮こまらせた。

 木造の小さな小屋には、石組みの暖炉からパチパチとはぜる薪の音が静かに響いている。

 鼻をくすぐるのは、乾燥させた薬草のほろ苦い香りと、火に炙られた木の皮の匂い。

 ルリアはゆっくりと瞼を開け、木目の天井をぼんやりと見つめた。

 王都を追放されてから、季節が一つ巡ろうとしている。

 あの息が詰まるような石造りの部屋での生活は、今となってはずっと昔の幻だったように感じられた。

 ルリアは毛布を押し除け、冷たい床に素足を下ろした。

 足の裏から伝わる鋭い冷気に、わずかに残っていた眠気が完全に吹き飛ぶ。

 部屋の隅にある水差しから、木桶に水を注ぐ。

 表面に薄く張った氷を指先で割り、両手ですくって顔を洗った。

 肌を刺すような冷たさが心地よく、思考が研ぎ澄まされていく。

 布で顔を拭いながら、部屋の中央に鎮座する使い込まれた錬金釜へと歩み寄った。

 釜の底には、昨日調合したばかりのポーションがわずかに残っている。

 濁った泥水のような緑色。

 王宮で嫌悪され、レオンハルトに床へ投げ捨てられたあの液体と全く同じものだ。

 ルリアは柄杓でその液体をすくい上げ、顔を近づけて静かに観察した。

 強烈な腐敗臭が鼻を突くが、ルリアは顔をしかめることなく、その液体の奥深くにある魔力の流れを見極めようと目を凝らす。


『なぜ私のポーションは、こんなに濁ってしまうんだろう』


 王都にいた頃は、毎日ノルマに追われてそんなことを考える余裕すらなかった。

 ただ怪我を治すためだけに、強引に魔力を練り込んでいた。

 しかし、この辺境の村で自分のペースで錬金術と向き合うようになり、ルリアはようやく一つの仮説にたどり着いていた。

 ルリアの体内に宿る魔力は、あまりにも密度が高すぎるのだ。

 普通の錬金術師が素材の性質を優しく引き出すのに対し、ルリアの魔力は素材の限界を超えて生命力を強制的に活性化させてしまう。

 その結果、薬草の細胞が耐えきれずに破壊され、泥のように濁り、強烈な腐敗臭を放つようになる。

 美しさや飲みやすさを完全に犠牲にする代わりに、破壊と再生を同時に引き起こす規格外の治癒力が生み出されていた。


「これじゃあ、王都の人たちが嫌がるのも無理ないか」


 ルリアは誰に言うでもなくつぶやき、柄杓の液体を釜に戻した。

 マリアベルの作る美しい色水は、確かに見た目も味も完璧だった。

 しかし、それでは本当に助けが必要な命を救うことはできない。

 ルリアは自分の不器用な錬金術を、初めて誇らしく思えた。

 綺麗なドレスを着て愛想笑いを浮かべるよりも、泥だらけの手で誰かの明日を繋ぎ止める方が、ずっと自分らしい。

 背後で、立て付けの悪い木の扉が開く音がした。

 冷たい外気と共に、両手いっぱいに割った薪を抱えたジルが入ってくる。

 彼の銀色の髪には細かい霜が降り、黒い服は朝露で少し湿っていた。


「起きているなら、火の番くらいしておけ。部屋が冷え切っているぞ」


 ジルはぶっきらぼうに言いながら、暖炉の前に薪をどさりと下ろした。

 その乱暴な動作とは裏腹に、彼は慣れた手つきで灰をかき分け、新しい薪をくべていく。

 あっという間に炎が勢いを取り戻し、オレンジ色の光がジルの端正な横顔を照らし出した。


「おはようございます、ジル。朝早くからありがとうございます」

「お前が寒さで倒れたら、俺の食い扶持がなくなるからな。ただの自己防衛だ」


 ジルは立ち上がり、服についた木屑を手で払い落とした。

 ルリアはクスクスと笑い、作業台の上の木の実を一つ手に取ってジルに放り投げた。

 ジルは視線を向けることもなく、片手でいとも簡単にそれを受け取る。

 硬い殻を指先で軽々と砕き、中の実を口に放り込んだ。


「今日も森へ行くんですか」

「ああ。村長が、冬ごもりのために干し肉をもっと作りたいと言っていたからな。でかい獲物を狩ってくる」

「あまり無理しないでくださいね。ジルは加減を知らないんだから」


 ルリアの忠告に、ジルは鼻で笑った。


「竜に向かって加減をしろなどと説教する人間は、世界中を探してもお前くらいのものだ」


 ジルはルリアの頭に大きな手を乗せ、わざと髪をくしゃくしゃに撫で回した。

 ルリアが抗議の声を上げる前に、彼は足早に小屋を出て行く。

 開け放たれた扉の向こうには、冬の澄んだ青空と、朝日を浴びて輝くシルバ村の風景が広がっていた。

 煙突から立ち上る煙、村人たちが交わす朝の挨拶、そして冷たい土の匂い。

 すべてがルリアの心を温かく満たしていく。

 ルリアは乱れた髪を指でくしけずり、新しい素材を入れた麻袋を肩に掛けた。


「さて、今日も最高の泥水を作りましょうか」


 ルリアの軽やかな足取りが、新しい1日へと踏み出していく。

 彼女の歩む道には、もう二度と冷たい檻が立ちはだかることはない。

 果てしなく広がる自由な世界で、ルリアの不器用で温かい錬金術は、これからも多くの人々の笑顔を咲かせ続けていく。

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