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追放された無能錬金術師の辺境スローライフ〜泥水ポーションが規格外すぎて古竜に溺愛されています〜  作者: 黒崎隼人


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第12話「気ままな辺境スローライフ」

 広場の中央に組まれた高い櫓の周りを、村人たちが手を取り合ってぐるぐると回っている。

 太鼓の軽快なリズムと、笛の甲高い音色が夜空に響き渡る。

 シルバ村の豊穣を祝う、秋の収穫祭が盛大に開かれていた。

 広場のあちこちには木組みの屋台が立ち並び、香ばしく焼かれた肉の匂いと、甘く煮詰めた果実酒の香りが夜風に乗って鼻をくすぐる。

 ルリアが調合した特別な肥料のおかげで、今年の麦は例年の3倍もの収穫量となり、村の倉庫には入りきらないほどの穀物が山積みになっていた。


「ルリア先生。この串焼き、食べてみてくだされ。うちの自慢の豚肉だ」

「先生、こっちは採れたてのリンゴのパイだよ。甘くて美味しいから」


 村人たちが次々とルリアの元へやってきては、手作りの料理を勧めてくる。

 ルリアの腕の中は、あっという間に美味しそうな食べ物でいっぱいになった。

 彼女が嬉しそうにリンゴのパイを口に運ぶと、サクサクとした生地の中から熱い果汁が溢れ出し、シナモンの香りが口いっぱいに広がる。


「美味しい……」


 ルリアが頬を緩ませていると、横から大きな手が伸びてきて、彼女が持っていた串焼きを1本引き抜いた。


「俺にもよこせ」


 ジルが串焼きの肉を豪快に噛みちぎり、喉を鳴らして飲み込む。

 普段は森で巨大な魔獣を狩っている彼も、今日は村人たちが作った料理を上機嫌で平らげていた。


「もう、ジルったら。ちゃんと自分でもらいに行ってくださいよ」

「お前のところに集まってくる飯が、一番美味そうに見えるからな」


 ジルは悪びれる様子もなく、ルリアの持つ木の実のジュースまで奪い取って飲み干した。

 その傍若無人な振る舞いに呆れつつも、ルリアの心は不思議なほど満たされていた。

 祭りの熱気から少し離れた木の根元に腰を下ろし、ルリアは広場で踊る村人たちを眺める。

 子供たちが笑い声を上げながら走り回り、大人たちは酒を片手に肩を組んで歌っている。

 そこにあるのは、王宮の冷たい石壁の中では決して見られなかった、温かく柔らかな人々の営みだった。


「さて、そろそろ私の出番ですね」


 ルリアは立ち上がり、ローブのポケットから小さなガラス瓶を取り出した。

 中には、錬金術で精製した細かな銀色の粉末が詰まっている。

 彼女は蓋を開け、手のひらに乗せた粉を空に向かってふっと吹き飛ばした。

 風に乗って舞い上がった銀の粉は、夜空の高くでパチンと弾け、無数の光の粒となって降り注いだ。

 まるで星屑が降ってきたような幻想的な光景に、村人たちから感嘆のどよめきが上がる。

 光の粒は地面に落ちる直前にふっと消え去り、あとには仄かに甘い花の香りが残った。


「すげえ。ルリア先生の魔法だ」

「なんて綺麗なんだ……」


 見上げる村人たちの顔が、光に照らされて明るく輝いている。


「魔法じゃないですよ、ただの錬金術です」


 ルリアは誰に言うでもなく小さく呟き、満足げに微笑んだ。

 隣に立つジルが、夜空を見上げたままぽつりと口を開く。


「悪くないな」

「はい。最高の夜です」


 ルリアはジルの横顔を見上げ、心の底から同意した。

 王都から追放されたあの日、ただの泥水を作る無能だと蔑まれていた少女は、この辺境の村で自分の本当の価値を見つけた。

 彼女の作るポーションは、相変わらず見た目も匂いも最悪かもしれない。

 それでも、それを必要としてくれる人々がいて、彼女の力を認めてくれるかけがえのない存在が隣にいる。

 誰の指図も受けず、自分の好きなように釜をかき混ぜる日々。

 果てしなく続く自由で気ままなスローライフは、まだ始まったばかりだった。

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