07:カカオベルト
「ブレージさん。フレーデを借りていいですか?」
「むっ妹に求婚するつもりなら今度は戦う力を見せて貰うぞ!」
そーじゃねえよ。
「えっ!? ジロー……?」
だからそーじゃねえって。
「違います。いまの規模の『畜産』で全員は使わないでしょう。余った人手で良いので人間の領地に近いダンジョンに入って魔石をとって欲しいんです」
「魔石の事は『竜人族』に頼んだと聞いたが?」
デュムラーが自慢しに行ったのだろうか、ブレージは不満げに顔を顰めた。
「それは人間の領地から離れた場所だけです。人の領地に近い方は彼らよりも貴方たちの方が適任だ」
「はははっそれは愉快。ぜひ奴らに聞かせてやりたいな」
「面倒くさいのでやめてください」
「冗談だ。いいぞ、手を貸そう。当然理由はあるんだろうな?」
「外貨を獲得して家畜を買います」
「それを得てどうするのだ」
「もちろん家畜を買いますよ。
野生種が人に慣れるとしてもすぐには無理でしょう。だったら最初から慣れている家畜を買って増やす方が楽だ」
「楽だと言う理由であるならば、最初から野生種などいらないのではないか」
「いいえ要ります。家畜が一種類だけだと病気になった時、全滅しちゃいますからね」
「〈宰相〉はよく物を考えているな。誠に恐れ入るぞ」
ブレージが協力を約束してくれたのでさらに話を進めることに決めた。
「ジークリンデ様、サラマンダーのアマーリアと『妖魔族』を呼んでください。
どれからどの部族でも構いませんので、建築が得意な種族はいませんか?」
「それやったら『幻魔族』んとこのコボルトが得意やで」
コボルトへはコリーナが向かう。
最初に来たのはジークリンデに連れられたサラマンダーのアマーリアだ。これは待機を命じておいたので当然だろう。
「アマーリアに聞きたい。武器や防具を造るとき魔獣の素材を使えないか?」
「もちろん使えますよ。〈宰相〉様、よくご存じですね」
狩猟ゲームの知識だがどうやら役に立ったようだ。
「『獣人族』も『鬼人族』も魔獣の素材は捨てているはず、それを利用して装備を造って売ることは可能か?」
「売ると仰られますが、どこにです?」
「もちろん人間たちだ。
ダンジョンの近くに町を造る。そこで鍛冶屋を開いて人間たちに売るんだ」
「……それは大丈夫でしょうか?」
「どういう意味だ」
「〈宰相〉よ、アマーリアは、『安易に武具を人間に売ってよいのか』と言っているのだ。武具は使い方を間違えれば戦争の道具となる。為政者ならば、その武器を手に俺たちが攻められる未来も考慮しなければならないぞ」
「なるほど……そのような考え方もあるんですね。
なにぶん平和な世界から来たものでその考えには至りませんでした。教えて頂き感謝いたします」
魔族の武器が出回ればパワーバランスが壊れるかもしれないか、う~ん難しいな。
「ならば質を落としたらどうだ。オレさまたちも素材は捨てている。それが利用されるならぜひそうしたいぞ」
「グルリット族長には申し訳ないですが、質を落としたものを造りたがる鍛冶屋なんてどこにもいません」
「ならば素材だけ売るのはどうでしょう?」
「素材の加工は秘伝で、それが伝わらないのなら素材には価値が無いと思います」
「いいや武具の質を落とす必要はないし、人間に武器を売るのも問題は無いぞ。
その程度の数で揺らぐほどわたしたち魔族は弱くないはずだ」
「ジークリンデ様、しかしあちらで生産されたら数が増えませんか」
「アマーリアよ、素材の加工はサラマンダー族にしか伝わっていないと聞いているが、相違ないか?」
「はい相違ございません」
「ならば良い。
ジークリンデの名において、『素材の直接の売買は禁止、ただし武具の販売は認める』とする」
ジークリンデの魔王っぽいところを始めて見たような気がする。
魔王の言を受けたグルリット。
「おい〈宰相〉。オレさまたちの素材代はぜんぶ家畜の数に回してくれ。世話はブレージに任せることになるが、オレさまの部族は食い扶持が多いからな。量が増えるのは大歓迎だ」
おお。乱暴な言動に似合わず良い部族長じゃあないか。
十五分後、部屋の中がとても賑やかになっていた。
『妖魔族』が来たのとすれ違いに『鬼人族』が去っていき、一人残るフレーデに重々言い聞かせてブレージも去った。
居残り組のエラとコリーナ、フレーデとアマーリアの四人。
新たにやってきた『妖魔族』は全部で五人。まずは部族代表のファニー、北緯十五度はいまだ健在だ。夜魔代表はアリアネで彼女の種族はリリムだ。黒のネグリジェは生地が薄いわレースが多いわでもう大変。唐突だがリンゴって瑞々しくて美味いよな……
アルラウネ代表はガブリエーレ。種子で増えるアルラウネという種族はラフレシアの上に女性の上半身が乗っていた。足先は大きな花で見えないが、スゥーと音も無く歩く様子からもしや浮いているのだろうか。
話は変わるが『赤道ベルト』と言うものはご存じだろうか。北緯二五度~南緯二五度に位置する帯状の熱帯・亜熱帯地域を指し、別名『コーヒーベルト』とも呼ばれている。では北緯二〇度~南緯二〇度はなんと呼ばれているか。答えは『カカオベルト』だ。
無造作に巻かれた白いチューブブラは圧巻の一言。まさか北極と南極を同時に見ることができるとは。これぞまさしく宇宙の視点。
ハーピィ代表はフローラ。下半身は鳥で鉤爪が鋭いので猛禽類かも。ハーピィの翼は様々な形で書かれるが、この世界は手と一体の振袖タイプだった。顔を除き全身羽毛に覆われていて、胸部の柔らかそうな白い羽毛以外、こげ茶や茶で鷹を思わせる。いくら羽毛があるからと言って腰ミノだけは止めてくれ。
最後の一人はケンタウロスのゲオルギア。騎士のような甲冑を着た凛々しい女性。当然だが下半身は馬である。鎧型を一般的とは言いたくないが、唯一まともに服を着ているのが彼女だけとは、さすがは『妖魔族』と言うべきか、恐るべしである。
紹介が最後になったが、『幻魔族』から新たにコボルトのロビンが参加している。コボルトとは言っても犬面の人種ではなく小帽子の妖精の方だ。
おかしいな。コボルトと言えば男児か小サイズのおっさんを思い出すのだが、なんでロリっ子が来たのか?
俺とジークリンデ、幻魔族三人とフレーデとアマーリア。妖魔族五人の計十二人。部屋に入るには多すぎたので、小会議室へ場所を移した。
ジークリンデが奥に座り、俺がその隣ぬ座った。ジークリンデの逆隣りにはファニーが素早く動き確保されてしまう。おっとり系の癖に動きが早いのなんのって。あの揺れ、起立してたら危なかったね!
アルラウネとケンタウロスは椅子には座れない。ハーピィも構造的に座らない。エラはコリーナの肩ではなく、机の上で胡坐をかいている。
結構席が空いているが始めることとする。
「皆さんに集まって貰ったのは、『物流』と『町づくり』に関する相談です。
俺の構想を先に伝えますので質問は後ほどお願いします」
人間の領地に近いダンジョンの側に町を作る。将来的にはすべてに作りたいと思っているがまずは一ヶ所から。
壁の建設、宿屋(女衒)、道具屋、鍛冶屋、酒場兼食堂を予定。『妖魔族』で特に人に近いものが従業員として配置。
町が出来た噂は『獣人族』に流して貰う。
壁と建物の建設はコボルト担当、店の店員は夜魔担当、道具屋で扱う薬はアルラウネ担当、鍛冶屋はサラマンダー担当。そして食糧の輸送はケンタウロスに任せたい。
『獣人族』には噂を流して貰う以外にも、ダンジョンに入って魔石を獲るのと、町の住人として治安を守って欲しい。
「ざっとですが説明は以上です」
「いいだろうか?」
真っ先に手が上がったのはケンタウロスのゲオルギアだ。
「〈宰相〉殿は荷馬車の真似事をせよと、我らケンタウロスに仰るのか?」
「足がもっとも速く、勇敢で力が強いのがケンタウロスだと聞いています。荷馬を走らせるのは誰でも構いません。しかしそれに追従し護衛できるのはケンタウロスを置いて他にいないはずです」
「もちろんだ。我ら以上に適したものはいない」
女騎士よ、そんなにチョロくていいのか?
「ねぇ宿屋ってそう言う目的だけでもいいかしら~」
「もちろん駄目です。女性の探索者もいますし、女衒の数は少なめでお願いします」
「そうすると成り手が少ないかもぉだわ」
えっ夜魔って全員ソッチなの、ぜひお相手……
『俺は金貨四五〇〇枚の負債』
『俺は金貨四五〇〇枚の負債』
『俺は金貨四五〇〇枚の負債』
危なかった。なんて巧妙に隠された釣り針だ。俺じゃあなかったら釣られてたぜ。




