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揺れる魔王と赤字国家をパチパチ立て直す  作者: 夏菜しの


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06:大福

 『幻魔族』を残留させたまま、『獣人族』と『妖鬼族』を呼んで貰った。

 『獣人族』ブレージの後に続くのは、同じく白虎の獣人で中高生くらいの女の子、その後ろの豚顔はオークだろうか方眼鏡してるんだけど。『鬼人族』グルリットの後は一人だけ。身長二メートルオーバーの強面の男性、ゴブリンとグレムリンは小型種なので、消去法でオーガかな。この体格で『巨人族』に属さない理由はなんだろうな……


 唐突だが、日々の食事の話をしたいと思う。

 『たまに行くなら』『ご褒美』『背伸びをする』と言っうように、豪華な食事というのは毎日ではなくたまに食べるものだ。

 毎日の食事はしとやかでよい。しかし上品さを忘れてはならない。例えば手のひらに乗るほどの大福なんて良いじゃないか。とても落ち着くし心が乱されることもない。


「ジローどうした? そろそろ始めるぞ?」

 何度か呼んだのだろうか、ジークリンデが不満げに腕を組んで隣に立っていた。

 ……豪華な食事はたまにで良いだと? 俺に甲斐性があれば毎日でも食ってやるさ。


 自己紹介が始まった。大福、じゃあなくて白虎の女の子はフレーデでブレージの妹。妻の次は妹か、縁故が多いな。そしてオークの名はロイ。名乗りは丁寧、所作も完璧。創作物で植え付けられたオークの印象を裏切る紳士っぷりに驚いた。

 鬼人の代表は部族も種族もグルリットでオーガの名はハンジ。ゴブリンとグレムリンは鬼人やオーガに従う種族だそうで代表はいなかった。それだけ聞くと貴族と平民のように感じたが、もっと身近な武将と小姓みたいな関係だった。鬼人やオーガが主となり、彼らを養う。養う数が多いほど強い家となるようだ。


「ふたつの部族を呼んだのは依頼したい仕事の分担とその相談のためです。大雑把に言いますが『農業』『畜産』『酪農』『物流』になります」

「『畜産』と『酪農』は初めて聞く言葉だな」

「『畜産』とは牛、豚、鶏などと言った家畜・家禽を飼育して、肉・乳・卵、そして皮などを生産することを指します。

 『酪農』は『畜産』の一部になりますが、乳に関することに特化します。チーズやバターなどを造ります」

「育てるより獲る方が楽だろう。おめえオレさまを騙そうとしてんのか?」

「逆に聞きますが、獲物が獲れない日はありませんか?」

「もちろんある。だがそんなの当たり前のことだろう」

「グルリット、少し黙れ。

 まさかお前は、その獲れない日のために家畜とやらを育てろと言っているのではあるまいな?」

「その通りです」

「その家畜を育てるのに使う膨大な餌はどうする。相手は植物ではなく動物だ、水をやれば勝手に育つようなものでもないし、ひと月ふた月で育つものではなかろう? それだけの量、家畜などに使わず、我らが食った方が良いのではないか」

「〈宰相〉、てめぇ、オレさまを騙そうとしやがったのか!?」

 勝手に育つと言われてコリーナが顔を顰めた。そちらは後でフォローするとして、まずはこっちから片付けよう。


「では先に『畜産』の利点を伝えましょう。

 肉や乳、そして卵を安全・安定して生産して供給します。場所は山間や寒冷などの農業が難しい土地を利用します。家畜が出した糞尿は堆肥として作物の栽培に使います。これを『耕畜連携』と呼びます」

「堆肥には家畜の糞尿を使うのですか。ですけど動物の糞尿を直接土に混ぜても美味しくありませんわ。むしろゲェーです」

 ちょっとコリーナさんは黙ろうか。


「安定はいいだろう理解できる。だが安全と言うのはなんだ。まさか狩猟ごときで我ら獣人族が遅れをとるとでも思っているのか? 舐められたものだな」

「一応そっちも含むかもですが、そちらではないです。

 安全と言うのは、食料の『品質』の話です。狩猟した肉やついでに採ってきたどこかの卵、これって食べても大丈夫でしょうか? お腹を壊したりしませんか? 幼い子供に与えても大丈夫ですか?

 ですが『畜産』で得られた肉や卵は違います。正しい餌を与えて飼育してますし、病気になったら治療します。治療できない病気なら肉にはしません。病気も無く腐ってもいない、どの動物の肉や卵なのかが判っているから、誰もが安全に食せるのです。

 ただし家畜の確保はこれからです。まずは野生種を捕まえて人に慣らすことから始めないと駄目ですね」

「宰相はん。動物の事やったらうちのウリシュクが詳しいで。担当決まったら顔つなぎしたるわ」


「安定した安全な肉か。

 ……獲物はまず大人が食べる、そして翌日まで平気なら子供にも与える。その必要が無いということか。これがお前の、いや〈宰相〉の力と言う訳だな。良いだろう俺は〈宰相〉の力を認めるぞ。

 そして『畜産』もだ。俺たち『獣人族』に任せて貰おう!」

「待てよブレージ。オレさまも『畜産』とやらに興味が沸いたんだ。勝手に話を進めるんじゃあねえ」

「ねー。『酪農』は空いてんでしょ。だったらあたしがやるねー」

「フレーデ勝手に決めるな。部族長は俺だ」

「やらねえなら丁度いい。『酪農』なら乳やチーズが自由に食えるんだろう。チーズはオレの好物なんだ。オレたちオーガが引き受けるぞ」

「やらないとは言っていない! 勝手に決めるなと言っただけだ!」

「ほーら盗られた。兄さんの優柔不断なそーいうとこ、ダメだっていつも言ってんじゃんー」


 収集が付かなくなってきたのでパンパンと手を叩いて黙らせる。

「はいはい。落ち着いてください。

 役割は後で決めましょう。次は『農業』を説明しますよー」

 なんか低学年の先生をやっている気分になってきた。



 『農業』で伝えることは『巨人族』に話した内容も含まれているが、軽く流しこちらでは主に、『種籾の選別』『播種』『鎮圧』などの話をする。

「まず『種籾の選別』です。

 塩水を作り種籾を入れてよくかき混ぜます。水に入れて浮いたのはポイしてください。これは『不良在庫の事前廃棄』です」

「なぜ捨てる。〈宰相〉はオレさまを馬鹿にしているのか。多く撒いたら多く採れる。誰でも知る常識だぞ」

「水に浮くのはスカスカの種で不稔、失礼。芽が出ない種なので除去しているんです。

 もともと芽が出ない種ですから取り除いても収穫量は減りません。むしろ、そいつらに栄養や手間をとられない分、他の麦が良く育ちます」

「ほう、そう言う理由があるのか、理屈は判らんがよく分かったぞ」


「『播種』の方法ですが、『条播』と『散播』と言うのがあります。『散播』と言うのは麦を畑にまき散らす方法です。きっといまやっているのではないでしょうか?」

「ああ、どこもそうしているな」

「いま行っている『散播』で収穫量を上げる方法もありますが、今回はもっと効率が良い『条播』を採用します。『条播』の中にはドリル播と言うのもありますが機械が無いので、今回は筋蒔きですね」

「なあ宰相はん。そのドリル播ちゅうのはどんな機械が必要なんや?」

 ずっと静かに話を聞いていたエラだったが、『機械』と言われて黙っていられなかったようだ。

「俺は経理マンで機械には詳しくないので構造は判りません。ですが仕組みは理解してます。地面に穴を開け種を入れて土を被せるという一連の動作をする機械になります」

 祖父が持っていたトラクターがやってる一連動作の話だ。これの構造やら図面なんて分かるわけがない。

「あかん。構造判らんっちゅーのは致命的やわ。来年でも難しいかもな」

「〈宰相〉殿、少しお聞きしても良いか?」

 同じく沈黙を守っていた紳士ロイから声が上がる。

「はいどうぞ」

「穴の大きさと深さは、そして間隔は如何ほどか教えて欲しい」

「深さは三センチほどで間隔は二〇~三〇センチです」

「グルリット殿に相談だが、グレムリンらに踵の高いブーツを履かせて畑を歩かせるのはどうだろう」

「ほぅいいじゃあねえか。ゴブリンじゃあ重いが、それより小さいグレムリンなら確かにそんくらいかもしんねえ。

 んで最後に残ったのは『制圧』だな。で、どこのだれを攻めるんだ?」

 攻めねーから。


「『種籾の選別』はすぐに作業を開始してください。選別が終わった麦はよく乾燥させて。撒くべき畑はいま『巨人族』が作っています。

 畑が出来たらグレムリンに靴を履かせて歩いて貰う。その穴に種を入れ、土を被せる。『鎮圧』は鬼人やオーガの怪力で踏み固めて貰えば良し。

 あとは一〇日ごとに麦踏みを繰り返して根の浮き上がりを防ぐ。

 このような流れになります。

 役割分担ですが、『妖鬼族』の方が『農業』への従事度が高くなりました。今後『農業』は『妖鬼族』が中心に行って貰います。従って『畜産』と『酪農』は『獣人族』がお願いします」

 もちろん現在行っている狩猟による食料確保は両部族とも続けて貰うよう伝えた。


 二つの部族がそれぞれ動き出す。

 まずオーガのハンジが『種籾の選別』を行うため出ていった。

 続いて牧場の場所や柵の製造は紳士オークのロイが担当になり退出した。兄だからこその采配か、フレーデでは不安だったのかもね。


「ははっジローはうっかり者だな。まだ『物流』の話が残っているぞ」

 ふふんと得意げに腕を組み胸を反らすジークリンデ。

 急な惑星移動は大地に多大な被害をもたらした。南半球が潰れ、北半球へその余波が生まれ、大きな波がおきた。

 なんとなく終わりっぽい雰囲気が漂ったが、そうではない。

「忘れてませんよ。その話はもう少し後です」

 次の話に丁度いいフレーデが余ったのは僥倖だ。


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