05:ぺったんこ
続いて『巨人族』を呼ぶのだが、合わせて『幻魔族』にも声を掛けた。ただし土地や大地に強い者と言う条件を付けている。
「あれ?」
「どうしたジロー」
「次はフィッシャーさんと他数名の『巨人族』が来るんですよね。どうやってこの部屋に入るんですか?」
広いとは言えここは人間サイズの執務室だ。部族長会議で出会ったギガスのフィッシャーなんて扉から入れないじゃん。
「ああ、伝えていなかったな。
彼らならもうそこにいるよ」
ジークリンデが窓の外を指す。太陽が雲に隠れたのか暗いなと思っていた時期がありました。違った。四つの巨体が窓の外で体操座りしてた……
ジークリンデはおもむろに窓を開け、
「エラがまだなんだ。もう少し待って欲しい」と伝えた。
「おう分かった」
加減してくれたのが分かったがそれでも大音量、窓がビリビリと揺れた。
それから少し、ピクシーのエラを肩に乗せた綺麗なお姉さんが入ってきた。白のチュールスリーブドレス風の衣装が眩しい。
何故『風』なのかって?
本来『袖』がスリーブで、『細かい網目状に糸を織った生地』がチュールと言い、合わせてチュールスリーブとなる。
しかし彼女の服は袖だけではなく北半球上部が薄い雲に覆われていた。白と肌色のコントラストにより視界の「解像度」が強制的に引き上げられる。
だが視線は下げない絶対に。
肩に乗るエラ。
ぺったんこ、癒しだ。
エラが胸を隠しながら身を捩る。
「うわぁ宰相はんの目線やらしぃわー」
お”? お前が言うか。ほぅ……
「ジ、ジロー、おまえ……まさか?」
「ち、違います! エラが居るのは丁度彼女の顔の高さじゃあないですか。偶然です」
「はぁ良かった。大きいのが嫌いなのかと思ったぞ」
好きですけど? もちろんよく訓練された経理マンの俺は口に出したりしないし、視線も向けたりしないぞ。
だが自意識過剰なロリには気を付けよう。
外で待つ巨人たち。
もっとも大きいのはギガスのフィッシャーで四メートル。彼は部族長でもあり種族代表でもあるそうだ。次がビックフットのヤルマル。もふもふの灰色の毛むくじゃらだが触りたいとは思わない。だって毛が太くて硬そうなんだ……
巨人のハリーと牛人のイグナーツは三メートル前後。牛人の姿は俺の知るミノタウロスとは違って角の有無以外巨人と変わらない。
北半球が薄い雲に覆われている美女はドリアードのコリーナ。樹木の精霊だから土には詳しいとのこと。
土地や大地に詳しい人を頼んだはずなのだが土に詳しい人が来た。伝達ミスかな?
「全員揃ったようなので始めます。
『巨人族』にやって貰いたいことはまずは『新田造り』と『水路工事』です。これが終わったら物理的インフラですが、こちらは今期の目標ではありません」
「宰相、いんふらってなんだ」
「道路・橋・港の整備や治水です」
「橋は無いと困るからな。でも他がわからん。飯とは関係ないだろ」
「ジークリンデ様、魔王国の地図を貸して貰えますか?」
「ああ、これを使ってくれ」
パッと出てきたのは先んじて準備しておいたからだ。
「ここが港、つまり海ですね。いまは、ここからここを通って王都まで魚が運ばれています」
港から王都までは二つの山があり現在は二つ纏めて迂回されていた。
「なあ宰相よ。ここを真っ直ぐ行った方が近いんじゃないか」
「その通りです。これが道を作るというインフラになります。道が直線で、おまけに道が綺麗に舗装されていたら、荷馬車の移動も速くなるし掛かる人件費も安くなります。
つまり港で捕れた魚が安く早く届くんです。そして新鮮!」
「おおっそれは飯に繋がるな!」
興奮したのか抑えられていた声がデカくなった。窓がビリビリと音を立て、フィッシャーが「すまん」と謝罪した。
もちろん謝罪は受け入れるぞ。彼の興奮の分、俺は手ごたえを感じているのだ。
「治水と言うのは水害の抑制、つまり水の氾濫を防ぐほかにも、日照りが続いても大丈夫なように水を貯めて置き、必要に応じて畑に回す行為を指します。これを流域治水と言うのですが……」
「ふぅん収穫が雨に左右されへんのやね。凄いやん宰相はん」
「どういうことだエラ」
「川の水を貯めとく施設ちゅーんかな。それを造るやろ。んで雨が降らなんだら、その施設から水をばーっと出して畑に行かせんねん。どや合っとるか?」
「ええ合ってますよ」
褒められたエラが「やたっ!」と小さくガッツポーズを決めた。
「ジロー、わたしにも問題を出してくれ!」
自分も褒められたいとその目が語っていた。
だったら次の問題に行こう。
「先に確認させて貰いますが、近年の穀物の収穫量って減っていませんか?」
「ああ減っている。雨はちゃんと降っているのに麦が育たないんだ」
「コリーナ、理由はわかるかい?」
わたしじゃ無いのとジークリンデが瞳を揺らすが、君はこれの答え持ってないでしょ。じっと見たら気が付き狼狽えて瞳を反らした。
「そう、……ですね。あの畑は土が美味しくありません。だから根をはるのが嫌です」
めちゃくちゃ抽象的な表現なんですが……
不思議ちゃんかな。
「あんな宰相はん。コリーナたちドライアードは樹木の精霊やんか。いまは女の姿とってんけど、樹の姿も持ってんねん」
話せる木か、それは便利だ。
ただし差別用語かもしれないから口には出さないけどな。
「ははっ『土が美味しくない』は良かったですね。
俺の世界ではその現象を『連作障害』と呼んでました。同じ作物を植え続けると土からその作物が育つのに必要な栄養が失われてしまうんです。だから育ちが悪くなる」
「ほぉそうだったのか!
いままで原因が判らなかったのに、凄いぞジロー!」
「ではジークリンド様へ問題です。
麦の収穫量を上げるにはどうしたらいいでしょうか?」
「え? そんなこと急に言われても……」
「問題を出して欲しかったんでしょう?」
「くっ! ジローは意地悪だ! 問題の難易度が違いすぎる!」
「フィッシャーさんはどうですか?」
「『新田造り』だろう」
「はい正解です。よく覚えていましたね」
あっさり正解を出され口をぽかんと開けるジークリンデ。アホ可愛い。
「他にも正解はありますが、手っ取り早く今回はそうしてみました」
「他にもある!? よし考えるぞ!」
パァと瞳を光らせ顔を上げる。
震度一か。微震だな。
「あの、美味しい土を持ってくる。もしくは土を美味しくするための作業をすれば良いのではないかしら?」
「正解です」
上がっては下がる。大きく肩を落とした。
震度三。
揺れた、いい揺れだった。資産価値を再認識した。
「堆肥の投入や別の作物を作る、または休ませるのです。
今回は新しく畑を作るので、おのずと休ませることになりますね。もちろん堆肥作りを平行して行って投入もしますけど」
「堆肥とやらも『巨人族』に任せるのか?」
「いえ、コボルトが手先が器用だと聞きましたからそちらを……」
「美味しくなる土に興味があります。ぜひ私たちドリアードにやらせて頂けませんか」
俺の言葉を遮って手を挙げたのはコリーナだった。
「エラはそれで良いか?」
誰がやろうがこちらに遺憾は無い。後はエラの腹積もりだけだ。
「うち? 問題ないで~。コリーナの好きにしたらええやん」
「じゃあ堆肥の作り方は後で教えます。
ジークリンデ様?」
「あ、ああなんだろう」
「新しい畑を作る場所の手配をお願いします。それに俺では必要な規模も判りません。引き継いでフィッシャーさんに指示をお願いします」
「了解した。フィッシャー、付いて参れ!」
颯爽と部屋を出ていくジークリンデ。
ついて参れって。天然か、最高かよ。
窓の外で佇む巨人たち、どうやって付いて行けと?
それに彼女は大きな勘違いをしている。これは俺の言い方も悪かったが……
引き継いで欲しいのは、『仕事』ではなく『人選』の方だ。俺が不慣れなために待機して貰っている役割を忘れてどーするんだよ。
よほど慌てたのか震度五を記録。
顔を真っ赤にして戻ってくるまでしばらく掛った。改めて役割を伝えたらもっと真っ赤になった。




