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揺れる魔王と赤字国家をパチパチ立て直す  作者: 夏菜しの


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04:吠える四〇度

 ここは〈宰相(おれ)〉用の執務室だ。昨日の今日、まだまだ不慣れのため魔王のジークリンデにも待機して貰っている。

 最初に呼んだのは『竜人族』。これは時間を掛けるところと削るところを判断した結果だ。

 部屋に入ってきたのは部族長デュムラー他四名。部族長とだけ話しても駄目だろうと種族代表も合わせて呼んで貰ったのだ。


「ふん我らが先陣とは。人間よ、よい選択をしたな」

 まんざらでもなさそうなデュムラー。トカゲ顔ではないお陰で表情が分かりやすいのは助かるな。

 デュムラーとカラーリング違いの青い竜人がバルマーで、緑のトカゲはリザードマンのアドルフ、オレンジのトカゲはサラマンダーのアマーリアでこちらは女性。判るか!

 最後の一人は下半身がピンクの蛇でラミアのイーダ。ラミアなので当然女性。

 はい案件発生っと。

 ラミアは下半身が蛇だから『衣服の着用は上半身だけ』ということは事前に爺から習っていた。

 では何が案件なのか?

 着用するシャツが『チビT』だなんて聞いてない!

 けしからんことに南緯四〇度から下が丸見えだ。これが噂の『吠える四〇度』か。風よ吹け、もっと吹け。

 もちろん視線は顔から微動だに動かしてはいないぞ? だってセクハラだもの。度重なる試練もとい訓練の成果、げふんげふん。何故か視界の下幅が広がったような気がするけどな


「食糧事情が解決したら次は衣服に目を向けますね」

「は、はあ……?」

 俺はイーダの目を見てそう宣言した。


 赤と青と緑とピンク……

「アマーリアはサラマンダーだったね。なにができる?」

 いやだって、オレンジだよ? 空気読めって思わない。ここで来るなら黄色だろう。なんでオレンジにしたのかなぁ。

「〈宰相〉様もお気づきの通り、私たちサラマンダー『竜人族』の中でもっとも荒事に向いていません。しかし火を使うことには長けています。ですので部族では鍛冶の任を受けやらせて貰っています」

 鍛冶だって、いいじゃん。これからいろいろな道具を造ろうと思っていたのだ。鍛冶が得意な種族を探す手間が省けた。


「デュムラー族長。サラマンダーを除く『竜人族』で『魔石の確保』『街の警備』をお願いします。屈強な『竜人族』はいずれ『軍隊』として運用しますが、今はそこまで考えなくて良いです」

「我らを軍とするか。フフッ面白い。人間よ、いま一度名を聞こうか」

「田中士郎、経理マンです」

「ジローよ『魔石の確保』と『街の警備』、我が『竜人族』が確かに承った」

「魔石ですが、人間の領地に近いダンジョンは捨てます。あそこは『不良債権』だ。人間が知らない奥地のダンジョンで魔石を掘ってください」

「いいのか?

 我ら魔族にとってダンジョンは資源だぞ」

「そちらには獣人を入れてダンジョンコアの破壊だけ阻止させます。まあ『竜人族』の役目に比べれば雑務ですけどね」

「フハハッ奴らにはその程度の仕事が御似合いだろう」

 『獣人族』の名が挙がっただけで顔をしかめるが、ちょっと持ち上げると機嫌が良くなる。無茶な領収書を突き付けてくる営業マンよりよっぽど扱いやすい。ああ思い出したら腹が立ってきた、『観光PR費』って書けばなんでも落ちると思ってんなよ!


 細かいことはデュムラーにお任せ。サラマンダーのイーダだけは後で呼ぶと伝えて一旦退出して貰った。


「ジローは人の扱いが上手いな」

「本当にそう見えたのなら、元の世界の経験が少しは役に立ったということでしょうね」

「元の世界……

 すまない、了承も得ずこんなところに呼んでしまって」

 最初にもう帰れないと聞かされている。聞いたときはなんだそりゃと思ったが、いまはもうなんとも思っていない。

 判りやすく肩を落とすジークリンデ。

 震度一、体感が難しい震度だ。

 まったく。俺じゃなきゃ見逃してたね。




 次に呼んだのは『魔人族』だ。

 カニ(ゲイティ)を先頭に、四人が入ってきた。

 続く藍色の翼の青年は天魔だろう。次はちょび髭以外に特徴のない男性、貴族っぽいので魔人だろうか、いやバンパイアの腺もあるな。耳にヒレが付いている女性は魚人で、目を文様入りの黒い布で覆っている若い女性はメデューサかな?

 種族に対して入ってきた人数が足りないのだが。


 藍色の翼を持つ青年は天魔ヴェルス。爺の曾孫(ひまご)に当たるらしい。翼の色は遺伝と関係が無いらしい。ちょび髭の男性は魔人ザカリアス。バンパイアは人口が少ないので所属は魔人族になるようだ。じゃあ書くなよと言いたい。なおちょこちょここういった種族があるようだ。

 ヒレのある女性は魚人ブリッタ。なんとカニ(ゲイティ)の妻だそうだ。人とカニ、交配方法に興味が沸くが、魚類だし卵生かも。ちなみにエキドナも数が少ないので魚人族扱いだってさ。最後の一人はメデューサのエルヴィーネ。眼帯以外まるで普通。この世界で出会った初めての標準。ニュータイプが人類の革新だとすれば、心躍らない彼女はオールドタイプなのだろう。


「つかぬことをお聞きしますが、その眼帯のまま書類仕事ができますか?」

「〈宰相〉殿は面白いことを仰る。これは邪眼を抑える用途であって視界を遮るものではないわよ」

 回りくどい言い回しだが問題なく見えるようだ。


「『魚人族』以外の方にお願いしたいのは『書類レイアウトの統一』と『世帯調査』及び『戸籍の作成』です」

「『れいあうと』となんじゃ。訳の分からんことを言って煙に巻くな」

 おっとそこからか。

 誰でもわかる様にするため、紙を手で破って五つに分けた。

「この五枚の紙を書類とします。

 ゲイティさん、これを綺麗にまとめてください」

「お主わしを馬鹿にしておるのか。適当に千切った紙など纏まる訳が無かろう」

 バラバラの紙片を『適当に千切った紙』と断じたゲイティの指摘は正しい。

「ええその通りです。

 皆が思い思いに好き勝手書いた書類はこの紙と同じ。良いですか、レイアウトの統一というのは一枚の紙に、同じ人数の名前が同じ方向、同じ位置から書かれていることを指すのです」

「ふむ……それをする効果は?」

「枚数を数えるだけで人数が判ります。ファイルに纏めやすく、あとで確認するときに見やすい。誰もが同じレイアウトで書くので間違いも減るしチェックも容易です」

 そう伝えながら一緒に召喚されてきた鞄から手帳を取り出した。そしてそれを開きゲイティらに見せる。


「これほどか、うむむ。お主、いや〈宰相〉殿が暮らしていた異世界の規則と有用性、しかと分かったぞ。ただこれをやるには時間が掛かりそうじゃ……」

「レイアウト案はこちらで作って後日渡します。

 でも『戸籍の作成』はゲイティさんの責任でやってください。これが出来れば正しい人口が把握でき、人頭税……失礼。住民の生活向上の第一歩になるでしょう。

 いいですか。急ぎではありますがもっとも重要なのは間違いがない(・・・・・・)ことです。皆さんの管理能力に期待しています」

「あい分かった。

 ところで我らへの依頼は聞かせて貰ったが、『魚人族』を抜いた理由はまだ聞いていないぞ。なにをやらせるつもりだ」

「漁業です」


「なんですって! 〈宰相〉はわたくしたちに下賤な漁師の真似事をしろと言うのですか!?」

「あれ。もしや皆さん魚はお食べにならないのですか?」

「いいえ食しますわ。わたくしは白身を好いていますわ」

 貴女の好みは聞いてません。


「それは誰が捕ったものですか?」

「商人から買ったものですが、元は漁師どもでしょうね」

「下賤な、漁師でしたっけ。下賤な者の手が触れた魚を食べているのです?」

「むっ減らず口を。魚も肉も平民らが働き作り出し、わたくしたち貴族がそれを買い上げる。これで商いが回っているのです」

「ええその通り。なぜ買い上げるだけで終わっているのか理解に苦しみます。

 平民を雇い入れ、魚を捕らせる。それを貴方達が売ればいいと思いませんか?」

「漁師の次は商人ですか。つまり〈宰相〉はわたくしたちに商人の真似事をしろと言うのですか?」

「いいえ商人すら雇うのです。これは国が行う事業です。

 貴方は魚人族だ、海に関して右に出るものはいないはず。魚やエビ、そしてカニを捕り、販路を作って売るまでの手順を整える。

 良いですかここで終わりではありませんよ。捕り続ければやがて魚がいなくなります。次の舞台(ステージ)は養殖です。海を区切り、もしくは陸に小さな海をつくり魚たちを育てます。ご理解、頂けましたか?」

「……なんと途方もない。ですが、面白いわ。

 いいでしょう、今は貴方に乗せられて差し上げるわ。だって『魚人族』と海が引き合いに出されたのですもの。海はおろか川さえも、わたくしたちが一番詳しいわ!」

「ブリッタさん、湖をお忘れですよ?」

「まあ揚げ足をとるなんて。当然、湖もですわ!」

「銛や竿で捕るような規模では考えていません。漁には網を使います。底引き網に定置網など、必要な知識はお貸しいたします。もちろん養殖に関してもね。

 ただしコンサル料はちゃんと頂きますよ」

「貴方、思った以上に曲者ね……」

「なんせ大きな負債を抱えていますので。取れるところからは取らせて頂いています」



 『魔人族』が退出していくのを見送り、ドアが閉まると思わず息が漏れた。

「ふぅ」

 『下賤な漁師』と蔑む彼女に『元締め』としての利権を提示して、プライドを『やる気』へとコンバージョンさせることができた。

 きっと最初に始まるのは網による乱獲だ。現代の乱獲と保護の歴史を思えば避けたいところだが、食糧難の今を打開するにはいったん目を瞑る以外なかったが……


「ジローは凄いな。

 選民意識の塊であるゲイティ夫妻には、わたしはいつも手を焼いているというのに。あれほど鮮やかに操るとは、さすが〈異世界の賢者〉だ!」

 興奮して立ち上がったジークリンデは子供のように体を上下に揺らした。


 ジークリンデが何か言っているが聞いちゃあいねぇ。だっていま、俺は宇宙の神秘の一端に触れているのだから。


 上に~下に~と体が揺れる。だが大地は一拍遅れて上下運動を開始した。

 ニュートンもこれを見てばんにゅういんりょくを発見したんじゃあないだろうか?


「どうしたジロー?」

 返事が無かったことを不思議に思ったのか体の揺れが止まった。

 しかし大地は止まらず最後に揺れた。大揺れだった。震度七、マグネチュートは地球全体だ。津波の心配は勝手にしておけ。

「ジロー?」

「失礼しました。『レイアウト案』を考えていたもので」

「うっこちらこそ邪魔して済まない」

「……いえ、ジークリンデ様が謝る必要はありません。むしろ大地の『潜在的なエネルギー量』を再認識させていただいただけですから」

 俺は平静を装い、震える手で資料を整えた。


 震度七……、観測史上最大級の衝撃だった。

 もし机という名の『防波堤』がなければ、倒壊しない建物が露見しチン級建築士として別の名をはせるところだったぜ。


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