03:ご来光
魔王城の大広間に集められた七部族の長たち。ずらりと並んだ彼らの異形と威圧感を前に足が竦む。
いや竦んでる場合か、これから始まるのは『倒産寸前国家の債権者集会』だ。
大きなテーブルの誕生日席に魔王『ジークリンデ』が座った。俺はその横で席には座らず立ったまま。席がないのではなく、紹介を終えるまでそうしたいと希望したのだ。
さて手前の席、ではなく向かって左手から。
背中にトンボのような透明な羽を持った少女がテーブルの上に座っていた。そうテーブルの上だ。彼女の身長は三〇センチ、椅子に座ったらテーブルには届かない。
爺に教わった知識を思い出す。トンボの羽はピクシーで蝶の羽だとフェアリーだった。つまり彼女はピクシーだ。
次に座っていたのは白虎の男だ。白は良い。もし黄色の虎顔男が座ってたらどう思う。有名なプロレスラーを思い出さないか? 俺はきっと笑ったと思う。顔を見て笑うのは失礼この上ないが、場違いっぷりに笑いを堪えることができなかっただろう。
次。
……なぜかカニがいた。なんだこいつ、獣人はさっき出たぞ。
初手ピクシーの分、テーブルには余裕があるようで、カニの横幅を受け止めてくれているが……、う~んわからん。
パスして消去法にしよう。
だから泡を吹くな、笑いを堪える身にもなってくれ。
次はジークリンデの向かいの誕生日席だが。遠近法狂ってんのかな?
デカい、あれが巨人か。四メートルくらいの大男が─たぶん地べたに─こじんまりと座る姿は言いようのない哀愁が漂うぜ。
巨人族には一つ目だったり毛むくじゃらもいる様だが普通にデカいだけ。普通にデカいってパワーワードかもしれん。
折り返しも終わり右手側へ。赤髪に赤蝙蝠の翼、頭の左右には角が生えている。丁度こっち側なので椅子の後ろ側も見えていて、赤い尻尾までがセットのようだ。
間違いない竜人だろう。レッドドラゴンタイプ。赤がリーダーなのは万物共通のお約束、異世界でも変わりないようで何より。
その隣にもまた巨体がいた。今度のは二メートル半ばくらい。いないとは言えない絶妙な大きさである。デカい人間にしか見えないが額にある角で判断、鬼人だな。あと上向かいの八重歯? も鬼っぽい。好物はきっと肉。
最後の一人を見る前に消去法でカニの正体が分かった。
あれは魔人族で、たぶん魚人だ。……人型はどこ行った。つか魚でもねーよ!
お待たせしたな最後の一人を紹介しよう。
ジークリンデの豊かな大地を優に一回り増した豊かな大地もとい大ちちち。
ちょっとでもずれたら、推定ピンクの朝日が拝めちゃいそうなオフショルダーの服をお召しになられた妖艶な美女。北緯はなんと脅威の一五度だ。タイ、暑いな。
こんなん絶対にサキュバスですやん、色気やべぇ。さっき椅子をずらして半歩こちらに寄せてきて、同時に香った彼女の発する匂いもどこか香しく……さすがはタイ、ハーブが有名、って、これ男を惑わすフェロモンじゃんね。
目が合うと赤い舌が唇をゆっくりと這うんですが、もしかして誘惑されてるー!?
右は地獄、左なら……おぅ北緯三〇度、なんでぇ? ああっ俺が立ってるから北緯がずれてるんだ。ちょっサキュバスのお姉さん!? 視線下げて微笑むのやめてもろて!
「魔王さん、はよ初めてや。うち忙しいんやけど」
異世界人だけがもつ〈翻訳スキル〉とやらがどう作用したのか、ピクシーの話す言葉は関西弁だった。なんでやねん。
ちなみに俺は関西出身ではないので、翻訳された関西弁の使い方が正しいかどうかは判らないけどな。『さん』は最上級だっけ?
「すまない。皆も待たせたな、会議を始める。
まず先日話した件から報告しよう。見ての通り〈異世界召喚〉は成功した。
ジロー自己紹介を」
後半は俺にだけ聞こえるように小声だ。
「俺はの名前は田中士郎、経理マンです。赤字を解消するのが使命です。皆さんどうかご協力お願いいたします」
挨拶を終えて着席、北緯が五度上がりほっと一安心したのも束の間の事、関西弁のちびっ子が早々に不満を漏らした。
「魔王さんー、彼、経理マンっていうてんけど。〈賢者〉呼んだんちゃうん?」
「いやジローは〈賢者〉に間違いないぞ」
「って魔王さんは言うてはるけど~、自分どっちなん?」
「〈賢者〉でもあり経理マンでもあります」
「もうええわ!」
「小芝居をするなら帰らせて貰うが?」
カニが不満げに口を開いた。追従するように巨人と鬼人も首肯する。獣人と竜人は興味がないのか無関心。妖魔? さっきからテーブルの下で、俺の右膝の上に『の』の字を書いてるよ。こそばゆいったらないぜ。
だが絶対に見てやらない。着席したお陰で五度ほど北上したが依然ヤバさは変わらない。
「そうだな、話を進めよう。
ジローの役職は先日決めたとおり〈宰相〉で、今後はわたしの補佐をして貰うこととなる。なお異世界出身ということで、こちらが常識だと思っていることが伝わらないこともあるだろう。その際は怒りに任せるのではなく、諭してくれるように願う。
ではエラから自己紹介を頼む」
「魔王さんが言うてどうすんねん。もううちが自己紹介する意味ないやんか。
まあええか、うちの名はエラ、幻魔族の族長やらせて貰ってます。物作りはうちらに任せてや」
「獣人族代表ブレージだ。
先に言っておくぞ。俺に指図したければまずは力を見せろ。話はそれからだ」
「魔人族代表ゲイティじゃ。わしらに何をさせたいのかは知らんが、見合った報酬はちゃんと払って貰うぞ」
「ギガスのフィッシャー。お前がいれば飯の心配がなくなると聞いた。よろしくな」
部屋中に響く声。一番奥にいるってのに凄ぇな。逆に体の小さいピクシーじゃあここまで届くまい。そう考えるとこの席の配置にも意味がある……、いやねーわ。
ずっと俺の右膝で文字を書いているお姉さんは絶対違うと思う。
「竜人族デュムラーだ。我らは力だけに頼る無粋な獣人とは違うゆえ指示には従おう。ただし無能な指示でなければだ、ゆめゆめ忘れるなよ人間」
それは従わないと言っているのと同じなんだよなぁ……
「オレさまは妖鬼族のグルリット。見ての通りの鬼人だ。オレさまは難しいことは判らんからおめえに任せる。だが頭が悪りぃからって騙すようなことはするなよ」
「うふふふっ、最後はわたくしねぇ
ファニー、サキュバスよぉ。美味しそうな匂いがする〈賢者〉様ぁ。今晩わたくしと『い・い・こ・とっ』しな~い? すごーくサービスしちゃうわよぅ」
色気たっぷりのお姉さまの口調がおっとり系だと? そんなん詐欺やん。cv井上○久子やん。
腕を絡めて体をファニー。
揺れる、揺れまくる。アジア諸国が地震で埋もれちゃう!
まって、まって、ねえ。椅子の位置を変えずにそんな前のめりになったら!? 俺の方へ身を乗り出す形となったファニー。
北緯が! 北緯が!?
ッ!?
ご来光だ。
ありがたや、ありがたやー
「……ロー? ジロー!?」
「はっ!? 俺はいったい……」
俺を見つめる赤い瞳が不安げに揺れている。
「ファニーの体当たりに吹っ飛ばされて後ろに倒れたのだ。大丈夫か? 頭は打っていないか?」
体当たり、そうだったかな……? なにか強烈な光に当てられたような……
「わたくしそんなことしてないわよぅ」
お水のお姉さんが何かつぶやいているが……
いいや。ジークリンデが俺に嘘をつく訳がない。しかし衆人環視の元で気を失うとは情けないな。もっと体を鍛えた方が良いだろうか。
立ち上がり腰を九〇度に曲げる。謝罪は皆に聞こえるようにハキハキと。
「大変失礼しました。
それではこれより各部族ごとにお話をしたいと思います。今しばらくお時間を頂きますようよろしくお願いします」
これより汚名返上だ。




