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揺れる魔王と赤字国家をパチパチ立て直す  作者: 夏菜しの


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11/12

11:釣鐘

 各種族との話を終えたところで、宰相たる俺に侍女が付けられることとなった。当然これはジークリンデの計らいだ。

 侍女よりも今後のために人手が欲しいと言ったら計算の強い人を人選してくれたそうだ。まあ侍女と言いつつ護衛も兼ねているのは薄々感づいているけどな。


 最初の一人は美しいと噂に名高い釣鐘タイプをお持ちの天魔族のローゼマリー。

 見た目の年齢は二十代前半。金髪青目、翼の色は淡い金色、角は短くホワイトブリムに隠れるほどしかない。翼の色が薄いことから魔力は低め。ただし天魔族にしては低いだけで、もともと魔力の多い種族なので魔法が苦手と言うほどではないそうだ。

 金髪に金の翼と色合いは完全に天使なんだけどな……

 この女性は先日、真っ先に首をかっ切るポーズを見せていた怖いメイドさんなので天使とは程遠い。


 二人目は決して小さくはないが主張し過ぎない程よいサイズを持つ夜魔族のティルデ。彼女はサキュバスではなくリリムの方。

 見た目の年齢は十代後半の高校生。瞳は紅く長い銀髪をポニーテールに纏め、服装は露出の少ないワンピースやロングスカートを好む。弓道か風紀委員が似合いそうな清楚可憐な大変夜魔らしくない少女。ただしそれは口を開くまで、口調は軽くて甘ったるくて夜魔そのものだった。

 人選の理由は人間の街に出稼ぎに行っていた経験と夜魔が使う『夢操作』のため。それほど異世界の知識は有用だったみたいだ。


 三人目は黒豆サイズでも仕方がない妖精族から、フェアリーのレラ。フェアリーなのでもちろん京都弁の話者だ。京都弁だとどうしても高貴なイメージを持ってしまうが、彼女は本物のお嬢様なので問題なし。

 見た目は年齢は中学生から小学生。アオスジアゲハのような羽根を持ち、髪色も同様に黒字に青メッシュが入ったおかっぱ。おまけに服装まで黒のワンピースと黒々しい。

 フェアリーゆえに体は小さいが、妖精族は魔法に長けており護衛としては優秀らしい。なお普段は俺の肩に乗り姿を消している。


 このメンツで侍女って言われてもな。特に一人目、あれは完全に武闘派だよね。本当に計算に強いんだろうな?




 各種族に指示を行ってから一週間。この間は色々な種族から上がる報告を聞いたり、現場の視察なんかも行っていた。


 ドリアードのコリーナが植物を数点持ち帰って来た。何故か下半身が植物のアルラウネ(カカオベルト)のガブリエーレもいるが……

「彼女は?」

「お忘れですか、彼女はガブリエーレですわ」

「そうではなくて、なぜここに?」

「アルラウネ族は植物に詳しいので協力して貰いました」

「そうですか、ありがとうございましたガブリエーレさん」

「ッ……」

 コミュ障だろうか?

 ガブリエーレは最初からそうだったが視線を絶対に合わせない。絶対に視線を下げない俺が言うのだから間違いない。


 コリーナたちが持ち帰って来た野菜を検分する。

 名前は違うそうだが、見た目はそっくりなジャガイモとサツマイモとラディッシュが木で作った籠に乗せられていた。

 この中で実際に食べられているのはサツマイモだけ。事前のヒヤリングによると生のまま丸かじりだそうだが……

 サツマイモって消化が弱い人はお腹を壊したような覚えがある。獣人族って健啖家が多いのだろうか。

 ガブリエーレによるとラディッシュには毒は無いようだが、ジャガイモには毒があるらしい。ちなみに彼女との会話はコリーナを挟む伝言ゲームで成立している。


 毒が無いらしいのでラディッシュはそのまま齧った。

 ガリっと一口。うん、ラディッシュだ。薦めるまでも無くジークリンデもガリっといった。

「大丈夫なんですか?」

「美味しいですよ。お二人もぜひ」

 名は体を表すとでも言おうか、ガブリエーレはガブっといった。しかしコリーナは戸惑っている。口を少し開け、止める。

 無理もない、昨日まで雑草だと思っていたんだ。それを食べるには抵抗あるよね。俺だって食用タンポポがあるって知ってるのに、タンポポを食べるのには抵抗があるもん。

 やがてコリーナは目を瞑りエイヤと口にした。


ガリ、ジャクジャク……


「あら美味しいですわ」

 意識改革は必要だが、どうやら大丈夫のようだ。


 次はジャガイモだが、念のためにサツマイモも食べておこう。なおジャガイモは芽と緑の部分を丁寧に取り除いておく。どっちも芋だし一緒に蒸すことにした。

「『蒸す』……?」

 どうしたガブリエーレ?

「宰相様、『蒸す』と言うのは一体……」

「えっ『蒸す』ないの?」

「ふっふっふ。わたしが教えてやろう。

 『蒸す』と言うのはだな、野菜を『蒸す』ことだぞ」

 この魔王、絶対知らんだろ。


 こちらの世界の一般的な調理方法は、『焼く』と『煮る』だけのようで、『蒸す』だけではなく『炒める』や『揚げる』なども存在していないことが分かった。

 鍋と木の籠を借りて蒸し器を造り、ジャガイモとサツマイモを蒸した。


 この日三人の芋信者が生まれた。




 竜人族が主体となった魔石集めは順調の一言。彼らは短期間でかなりの数の魔石を集めてくれた。この魔石を売り、食糧と家畜を手に入れる。家畜は将来のためで、食糧は他種族への報酬として使う。

 だからこの魔石は竜人族に対する前借りだ。


 獣人族の長ブレージを呼び指示を告げる。

「売買の担当は『獣人族』と『妖魔族』から選出してください。指示書を出しますのでファニーさんに伝達をお願いします。なお輸送はケンタウロスにお願いします」

「了解した」

「一つ注意があります。

 魔石は、そうですね、十五に分けてそれぞれ別の国や街で売ってください。売るタイミングは一番遠い街を基準にして同日が望ましいです」

「なんだそれは!

 そのような手間は人と時間が無駄だろう、俺を馬鹿にしているのか!?」

「無駄ではありません、いまから説明しますね」


 事前に爺に聞き、魔石の出荷量は確認済だ。

 その結果いつもの量に対して、この量は明らかな過剰。つまり売れば供給過多となる。きっと今後数ヶ月は魔石は売れなくなるほどに……

 それほどの量を同じ街で売れば当然買い叩かれるだろう。

 しかし他の国や他の街ならどうか? きっと普通に売れるだろう。だが翌日、それとも翌々日には供給が多いことが知れるかもしれない。まあ電話などが無く、人づてで情報が伝わる世界だから伝わらないかも知れないが、用心するに越したことはない。

 同日にいろいろな街で魔石を売る。そして彼らが供給過多だと気づいたときにはもう遅い。取引は成立し、我々はもういないだろう。


「なるほど……

 浅慮に怒鳴りつけたこと、詫びさせてくれ」

「大丈夫です。

 さて売ることを理解して頂いたので、今度は買う方ですが、こちらも同じです。売った街々で食糧や家畜を買ってください。理由は同じです……」

「食糧の値上がり防止だな。了解した!

 ところで宰相よ、分ければ分けるほど効果がある様に思ったがどうだろう」

「その通りですが、足並みが揃えやすい近場だと大体その数になるんです」

「これより増やすには遠い国まで足を運ぶ必要があるか……

 理解した、宰相の指示通り行動しよう」

 なお一ヶ所だけ、家畜を買わずに酒を買うように指示した。ここで買った酒と食料はダンジョンの側に造った町の食堂で使うのだ。




 ダンジョンの近くに新たに建設する町づくりを視察した。

 移動は馬車で、御者はローゼマリーが務めてくれた。なんでも『御者はメイドの嗜み』だそうだが、その手綱捌きは騎士のように勇ましい。まあ騎士の知り合いなんていないけどな。


 建設現場に到着してまず驚いたのは、その『垂直統合型』の圧倒的な作業効率だ。


 初日、森の開拓は想像を絶するスピードだった。

 巨人たちが、まるで家庭菜園の雑草でも抜くかのように、俺の胴ほどの太さがある大木を次々と引き抜いていく。そう、根こそぎだ。巨人は魔法が苦手な種族だと聞いていたが巨体ゆえ魔力の量は多く、それのほとんどが身体能力向上に自動で使われているらしい。だからこそのこの腕力か。

 その隣では小帽子の妖精コボルトたちが抜かれたばかりの巨木に魔法をかけていた。

「あれは何をしてるんだ?」

「乾燥の魔法どす」

 なるほどコボルトが叫ぶと、木材から余分な水分が蒸気となって吹き上がる。本来なら数ヶ月、数年かかる『乾燥工程(シーズニング)』を、彼らは魔法による分子レベルの操作で一瞬にして終わらせてしまうのだ。

 加工済みの材木は、コボルトたちが振るう小さな斧やノミによって、見る間に寸分違わぬ柱や梁へと姿を変えていく。圧巻だな。


 二日目、建築はさらに加速した。

 巨人たちはもはやただの労働者ではない。クレーンと高所作業車のハイブリッドだ。

 コボルトの親方であるロビンが、巨人の肩に乗って指示を飛ばす。巨人は大きな手で木材を持ちあらかじめ掘られた穴へ正確に差し込んでいく。

 さらに驚くべきは、巨人が片手で足場となる板を支え、その上で数人のコボルトが屋根の骨組みを組んでいく姿だ。揺れ一つない安定感。現代日本のゼネコンが見たら、重機の維持費がバカらしくなって卒倒するだろう光景だった。


 三日目には、屋根の瓦葺きと外壁の漆喰塗りが始まった。

 ここで俺は前職の経験から一つだけ強く要望を出しておいた。

「ロビンさん、建物同士の間隔を三メートル空けてください。あと、地下に一本、大きな石造りの溝を通しましょう。下水道(インフラ)の整備です」

「地下に排水なんて集めてどうすんのさ」

「そこに集めることで排水で町が汚れるのを防止するんです。

 衛生管理は町の資産価値に直結します。病気が流行れば、せっかくの町も一瞬で『不良債権』化しますからね」

 資産価値や不良債権と言った言葉は知らずとも、病気の予防になると言う言葉は響いたようだ。コボルトたちは面白がって石を積み、見事な排水システムを組み込んでいった。


 町とダンジョンを繋ぐルートはやはり巨人たちが行った。木を抜き、道を作る。ただしダンジョン近くでの作業は、巨人に驚いた人間が勘違いして襲ってくる可能性があったため、深夜料金を出して夜に作業して貰っている。

「いいのか宰相! 夜に働くだけで、昼の二割五分増しも飯をくれるのか!?」

 巨人たちは歓喜し、夜の森で鼻歌を歌いながら道を切り開いていった。魔族にとって「夜に働く」のは苦ではないらしい。むしろ「深夜料金」という概念自体が新鮮だったようで、現場のモチベーションは爆上がりしていた。


 結果として、町はたった四日で形を成した。


 完成した町へ、獣人や夜魔など、見た目が人間に近い種族が移住を開始した。

 整然と並んだ瓦屋根の家々、石畳のメインストリート。そこには、人間の街で迫害されていた者たちの、期待に満ちた熱気が渦巻いている。

 ダンジョン近くの森を、深夜のうちに巨人が力技で「一本道」に変えた跡を見たときは、さすがに少し引いたが……。


 これで人間を迎え入れる『器』は整った。

 ……次はやってくる『人間』たちをどうやって『おもてなし(集金)』するかだな。


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