10:佐藤錦
本日の予定は『幻魔族』ただ一つ。
昨日も参加して貰っていたが、助言に留まり、本格的な依頼はこれから行う予定だ。
部族長のエラは昨日に引き続き参加。ドリアードのコリーナは植物探しのため不在。もしかしたら堆肥作りかも知れないが、まあどっちでもいい。ロリっ子コボルトのロビンも街つくりのため作業に入っていて不在だ。
新たに来たのは以下三人。
身長三〇センチトンボではなく蝶の羽根を持ったフェアリーのギラ。ピクシーのエラとは親戚だと言うが、どういう経緯でトンボと蝶が親戚になるのだろうか。
「なんや?」
「いや何でもないぞ」
ぺったんこのエラに対して、ギラの方は大層なサクランボをお持ちだった。この身長にしてサクランボは凄いのではないだろうか。
「エラさん。宰相はんの目、やらしない?」
おっとエラが大阪弁でこっちは京都弁かよ。
妖精族ってキャラが濃いなー
「せや。うちのこともそう言う目で見てんで」
おいちびっ子ども、いい加減にしろよ。
「ジロー……やっぱり」
「違いますから。佐藤錦なんて思い出してません」
次の二人は下半身違いで、山羊の方がウリシュクのゼップルで、蜘蛛の方はアラクネのハンカだそうだ。前者が男で、後者は女性。
半獣半人の女性の服装と言えばいろいろと問題が多かったが、ハンカの服装は何の問題も無かった。色は違うがゴスロリと呼ばれるもので、露出度の低さに定評がある完璧な服装と言える。
なお得意なことは、フェアリーが魔道具で、ウリシュクは道具作り、アラクネは服飾となる。
「では始めましょう。
最初の議題は『魔道具』です。
『魔道具』の現在の問題点は大きく一つで、『ライセンス料の未回収』です」
「宰相はん、『らいせんす』ってなんどすか?」
「いま人間の世界へ売った魔道具はすぐに真似されて使われている、この事実はご存じでしょうか?」
「そのとおりどす。えらい気に入らしまへん」
「ライセンスと言うのは、発明や意匠などを他人に使用させる契約を指します」
「うちらが造った魔道具を使うのにお金を取る言うこっとすか?」
「物ではなく技術や機能ですね。
逆に言いますがライセンス契約を結ばない限り、同じものを造って販売できなくします」
「どないしてどす。機械を開けたら回路は簡単に確認できますえ」
「まずはいまから言うことが可能か、考えながら聞いてください。
真っ先にやることは回路を見えなくする加工です。回路を書いたところに別の板を貼るのでもいいですし、ダミーえーと偽の回路を混ぜて本物を判断できなくするのもいいでしょう。最良は回路に蓋をして無理やり開けたら消失するですね。
続いてやるのは燃料となる魔石の規格化です。
魔石の大きさは保有する魔力の量に違いがあるだけで、出力は変わらないと聞いています。ならば小サイズの魔石を粉にして成形、それを燃料とした魔道具を新たに造ります。これによる効果は、新たな魔石燃料の販売利益の確保、新たな魔石燃料を使わない魔道具の淘汰、そして魔石の大きさによる損失の解消です」
そもそも保持魔力しか変わらないのに、大サイズと小サイズの魔石の値段があれほどかけ離れているのが問題だったのだ。
高く売れる大や中サイズの魔石はそのまま売り、安く叩かれている小サイズの魔石は粉末にして電池のように成形してしまえば適正価格に落ち着くはずだ。
「まず回路を隠すのんは簡単どす。こんなん出来ひん訳があらへんわ。
そやけどぱちもんの回路を入れるのんは難しおすなぁ。蓋をして消失さす方が簡単かもしれしまへん」
「規格化の方はどうだ?」
「かんにんえ。うちには規格化の想像ができしまへん」
電池なんて見たことが無いのだから当然だな。
召喚されて来た時に持っていたカバンを開き、中を確認した。目的のものはすぐに見つかった。鍵と一緒にキーホルダーにつけておいた、百均で買ったLEDライトだ。
この中には、ボタン電池が入っている。
見本としてライトを付けた後、ボタン電池を取り出して見せた。当然だが電池を抜くとライトは動かない。それもちゃんと確認して貰った。
「これが規格化された電池どすか。よう分かったわ。
それで『これ造れるか?』どしたなぁ。おもろい。うちらがやらして貰うわ」
「ありがとう。気になることや判らないことがあったら聞いてくれ」
「ほなうちは出て行ってええんやろか。
すぐにでも作業に掛かりたいわ」
最後まで居て欲しかったが、魔道具以外に携わるつもりが無いらしく、ならば作業を進めて貰おうと許可を出した。
再びカバンを漁り、いろいろと取り出していった。
まずはボールペンだ。三色とシンプルな赤だけの二本が鞄に入っていた。ボールペンの構造は簡単だ。ペン先にボールを固定し、インクの入ったパイプに付ける。ボールが回れば重力の助けもありインクが消費されていく。
三色タイプは再現の必要はないがバネのギミックを参考にして他に転用して欲しい。
また鞄に付けていた『そろばんキーホルダー』も見せておく。
竹製が望ましいが贅沢は言わない。木で作って貰いたい。電卓は会社のデスクの引き出しにあり持ち歩いていなかったから、今後の経理資料を作成するにおいて『そろばん』は最重要アイテムなのだ。
続いてみせたのはシステム手帳だ。
見せたいのは紙の方ではなく、紙の規格統一の意味と、バインダーやファイルの有用性だ。決算時の経理書類はかなりの量になるが、それを纏めるファイルが無いなんてぞっとする未来だよね。
また筆入れから定規を取り出し長さの単位を決めた。時間の単位は腕時計を基にする。あとは重量だが、定規があるのでこれは簡単。水一〇センチ立方で一キロとなる。
これらの作業がウリシュクのゼップルが請け負ってくれた。
残るのはアラクネのハンカだが彼女の役目は決まっている。
漁業用の網の作成と各種族の服装改善だ。
「まず魚人族に漁業を任せていますので網の作成を優先でお願いしたい。
そして手が空いたら衣服の『布面積の使用率の増加』に着手お願いします」
北に南、果ては海割れと、少しは俺の苦労も考えて欲しい。
「宰相の言いたいことは分かったけど、民族衣装まで口は出せないわよ」
くっそれがあったか。
彷徨う視線が捉えたのはマーメイドドレス姿のジークリンデだ。あの胸のサイズでマーメイドドレスってのが駄目なんだよな。
お陰で今日も北緯三十五度は健在だし……
「こ、これは我が天魔族の民族衣装であり正装だ。決してわたしの趣味じゃあないぞ!?」
「じゃあジークリンデ様はどういう服が好みなんでしょうか?」
「フリル多めの可愛い……
ハッ!? ち、違うぞ。わたしは魔王だ、服装で舐められる訳にはいかない」
「ハンカさん。ゴスロリを一着発注させてください。
サイズはジークリンデ様でお願いします」
「ジロー!?」
「まあまあ落ち着いてください。
これは布面積を増やすための政策の一つです。魔王自らそのような服を着ることで、他の部族も改革が起きていることに気づくでしょう。
そうなれば服が売れ、経済が回ります。雇用も増えさらに豊かになるのです」
「むむ……
そう言うことなら仕方が無いな。わたしが率先して着てやろうじゃあないか!」
相変わらずチョロいな、大丈夫かなこの国。




