第6話「悪夢」
翌日、日本GP28周目。
1周前、エイデンがトラブルによりコースサイドに止まったことにより、セーフティーカー出動の可能性が高まっていた。
『アスカ、いいぞ!今4位だ!そのまま頼むぞ!』
「了解」
「3位とはかなり離されちゃったな…このまま行けばなんとか最高位は更新になるかな…」
飛花の前を走行する松下、ハリソン、マクラーレンのドライバーとはかなり引き離されていた。
「タイヤもミディアムタイヤでしかも28周走ったタイヤ…かなりボロボロで走りにくい…」
『アスカ!セーフティーカーが出動する!この周BOX!この周BOX!』
「必要なギャップは?」
『後ろと20秒!後ろと20秒引き離す必要がある!』
「了解!やってみせるよ!」
飛花がアクセルを踏み込み、ペースアップを目指す。
普通なら不可能なことだが、飛花はやってのける。
『後方とのギャップ21秒!許容範囲だよ!このままBOX!』
そして飛花がピットレーンに滑り込んだのと同時にセーフティーカーが出動した。
『セーフティーカー出動だ!』
「どうなるかな…」
田邊は少し不安だった。
セーフティーカーのタイミングでピットに入ると上手く行けば順位を上げたり守ったりすることができるが、失敗すると大きく順位を下げることになる。
田邊の作業が終わり、ピットを離れていく。
結果、3台のすぐ後ろで復帰することができた。
『OK、いいタイミングで復帰できた!あとはセーフティーカーがピットに戻ったら一気に抜くんだ!』
「了解」
セーフティーカーが先導を続けていく中、トップ3台が一気にピットレーンに流れ込んでいく。
これにより田邊が一気に首位に上がった。
『これでアスカが1位だ!』
「これで1位ね。了解」
トヨタファンたちは今回の初優勝に期待が高まっていた。
グリーンフラッグが振られ、レースがもう一度始まる。
全車が加速していく。
田邊はリードを稼ぐべく、どんどんペースを上げていく。
気づけば2位との差もかなり開いていた。
どんどん近づくトヨタの初優勝。
しかし、その思いは一瞬で崩れ去る。
「…!?」
田邊はマシンの異常を感じた。
「加速しない!」
ピットは騒然となる。
せっかく稼いできた後続との差も失われていく。
マシンの速度はどんどん下がっていく。
「Not accelerateing! I have no power!」
場内に響き渡る無線。
あの日のトヨタの無線を彷彿とさせる状況。
2016年、ル・マン初制覇を目前に起こったあの悲劇。
力なく減速していく76号車。
76号車はそのままピットレーンの出口に止まる。
田邊はショックのあまり動くこともできなかった。
『アスカ!アスカ!大丈夫か!』
「…」
田邊の目には大粒の涙。
せっかく目前にまで迫ったトヨタ初優勝のチャンスが指の間からこぼれ落ちていってしまった。
その横を通過していく松下の駆るメルセデスのマシン。




