第9話「アピール」
翌月、富士スピードウェイ。
ピットにはVERTEとEFTCのカラーリングに彩られた2年前のマシンが2台整備されていた。
守谷と田邊、安達、キャロルの4人でこのTPCで行うプログラムを確認していた。
今回エイデンはWECの開発テストに参加するためF1テストを辞退。
そうして3人が話しているとアンドレッサとアンドリューが来た。
守谷も2人の存在に気づく。
「おっ!ミスターアンドリュー!大丈夫でしたか!」
「やぁ、ミスターモリヤ、無事に来れたよ。それでこいつが」
「アンドレッサ・サリーです」
「あら、日本語上手!」
「実はアンドレッサは元々日本で生まれたんだ。だから日本語が上手なんだ」
「なるほど」
「それで、このテスト、VERTEのマシンに乗ることで話をしていたが、大丈夫か?」
「えぇ、こちらも承知しています。」
そしてパドックでアンドレッサは真っ黒のテスト用レーシングスーツに着替える。
「いいか?アンドレッサ、今日のテストはアピールだと思うんだ。今日好タイムを記録できれば来年にはF1デビューが叶うかもしれない。」
「わかってますよ。僕はやるべきことをやってF1のシートを掴むだけです。」
そしてアンドレッサはヘルメットを被る。
彼のスイッチが入る。
マシンに乗り込むと、諸々の調整を行う。
モーターパワー、ブレーキバランス、フューエルマップといった主要の機能の調整を行う。
『ラジオチェック、ラジオチェック』
アンドレッサはRADIOのボタンを押し、返答する。
「loud and clear」
『じゃあまずは5周。その後、一度タイヤを交換してもう一度5周アタックで』
「Copy」
ゼッケンのついていないVERTEのマシンがピットガレージを離れ、ゆっくりとピットレーンへと走り出していく。
「これがF1マシン…!まだフル加速してないけどすでにすごさが伝わってくる。」
1コーナーを抜け、コカ・コーラコーナーへの加速で一気にアクセルを踏み込む。
1000馬力の爆発的な加速力が彼を襲う。
「!?!?」
すぐにコカ・コーラコーナーが来る。
F2で鍛えられた反射神経で軽やかに曲がっていく。
「お、恐ろしい…」
そして次の周からタイヤを温めながらマシンの理解を深める。
「高速コーナーでもかなりオーバーステアなんだな…低速のシケインも一緒…かなりピーキーなマシンだな」
『タイヤの温度良好、エンジン温度良好、ブレーキ温度良好。ここからプッシュ(攻める)してみて』
「Copy」
走りのギアが一段上がる。
その様子を見ていたトヨタのドライバーたちと守谷、アンドリュー、松下。
豪華な面々でアンドレッサのF1初走行を見守っていた。
「アンドレッサ、速いな」感嘆の声を上げる松下。
「あぁ、俺の自慢の弟子だからな。」誇らしげなアンドリュー。
「タイムもトヨタのドライバーたちと遜色ない…なんてドライバーだ…」驚きを隠せない守谷。
そして今日の走行枠を終え、アンドレッサがピットレーンに戻ってくる。
そしてピットでマシンが止まり、エンジンが切れる。
サーキットに一気に静寂が訪れる。




