第五十話 水谷の生を知る時
遅れました!申し訳ない。
「鏡くん」
「どうした……?」
目の前には目を背けたい光景。
横には怯えている人、恐怖で顔が青白い人。
勇敢に敵に立ち向かう人、何もせず死を受け入れようとしてる人。
「どうして、こうなったの」
結界は破れていないはずなのに、どうして人が死ぬの。
どうして、戦うの。どうして、死んでゆくの。
「これ以上、見たくないよ」
淡々と言葉を並べようとする自分にさえ、恐怖を感じる。
「俺にも、分かんねぇやっ。こんな時、水谷がいればなぁ……」
もし、河野が死んでなかったらこうなってなかったかもしれない。
ううん。河野が死んでなくてもこうなったかもしれない。
「鏡くん、河野のことはもう乗り越えたでしょ。駄目だよ、故人に頼っちゃうのは」
今頃、空から私達を見てるよね、河野。
私どうすればよかったのかな。教えてほしいや……。
プルルルル
奇跡かもしれない。
「もしもし……」
「久しぶりだな、冷夏殿。そちらの状況は……」
小香からだった。もしかしたら巫女の力で何か感じ取ったかもしれない。
「最悪、かな。どうしようもないよ、こんなの」
四方を囲まれ、どうすることもできない。
逃げることも、目を背けることさえも、できないや。
「そう、か。本当は言ったらいけないことだが、我は死ぬ。だから言うことにする」
今までも真剣な声音だったけど、今までにない声が聞こえてきた。
「何、なの?」
「河野水谷殿が生きている」
「……は」
聞こえてきた声からは驚きの文が並べられていた。
「どうした? 冷夏ちゃん」
ぽとっと落とした電話の音に気づいたのか、鏡くんは声をかけてきた。
「ねぇ、小香。それ本当? 本当に河野が生きてるの……?」
「!」
「あぁ。だが死んだのは本当だ。間は省かせてもらうが生き返ったんだよ。今は四日後の作戦に向けて覚悟を決めた所だろう」
「っ」
視界が歪む。鏡くんの顔が見えない。
「黙っていてすまない。本人から言わないように口止めされていたんだ。だが我は最終討伐作戦で確実に死ぬ。だから汝達には本当の話をしておく」
「うん、うん! ありがとう、小香……」
「礼を言われるようなことはしていない。汝等も、達者でな」
「うん、小香もね」
私は電話を切った。
「なぁ、冷夏ちゃん。水谷が生きてるのって……」
「一度死んだんだけど生き返ったんだって! 小香は口止めされてたらしいけど教えてくれたの」
「嘘、だろ。アイツが、アイツが生きてるなんてっ!」
私達は涙を流した。
この状況に合わない、感動の涙を……。
「ねぇ、鏡くん」
「ん?」
涙が枯れた所で、私は一つ決めたことを話すことにした。
「私、首都に戻る。河野に会う」
「……それは」
「賛成できない? そうだよね。与えられたことを放棄しても会いたいだなんて……」
それも守りたいと思ってた、妹を置いていくなんて。
「私ね、今までどうして生きてるか分からなかった。春を守るためって自分に言い聞かせてたけどそれは違うの。私は、たまたま河野と一緒にいて、助けてもらっただけだったの。河野がいなかったら私はすぐに死んでた。そう思うの」
「そんなこと」
「あるの。鏡くんはそうじゃなかった、勿論春も。だけど私は違う。私は河野に助けてもらったから生きてるのっ」
そう。だから私は今、生きてる。生きてた。
「河野が助けてくれたからこの命は河野の物なの。河野のために使うのが正しいの」
「それは違う! 絶対に違う」
「どうして? 現に何もできなくて安全な結界の中にいたはずの人が死んでる。何もできてない、何もできない」
「お前は今までどれだけ俺達に貢献してくれた? アルファについて想像や予想してくれたりして俺達は助かった。冷夏ちゃんのおかげで生きてる人もいる。な? 冷夏ちゃんの命は水谷の物じゃない。冷夏ちゃんの物だよ」
「……」
「な? 考え直してくれよ……。春ちゃんだって、ここで冷夏ちゃんがいなくなったら困るだろ?」
「うん。でも、この状況はどうにかしないといけないよね」
「そうだな。武器は十分にないし、どうすれば……」
「策があるの。協力してくれる?」
「勿論。でも何で?」
「ここには一体、味方のアルファがいる」
「は」
「私が小香と出会った時、小香が操ったアルファがいたの。もうその操りは解いてると思うけどもしかしたらいけるかもしれない」
「なるほどな。そのアルファがこちら側で倒してくれることを祈るしかねぇってことだな」
「そうね。勇敢な軍人はほとんど死んだ。弱い者は知恵を働かせてどうにかするしかないの」
「だな。それが俺らに与えられた最後の壁ってわけだな」
「そういうことね」
私は眠っている春を見つめた。
「ごめんね」
ただ、そう一言眠っている春に謝った。




