第三十七話 さようなら、愛しき人
「俺、首都に戻る」
動画を見終えた鏡くんは泣きながら立ち上がった。
私は黙って首都に行こうとする鏡くんの腕を掴んだ。
「何だよ、冷夏ちゃんだって分かるだろ!? 頼む、行かせてくれ」
「駄目よ。お願い」
「嫌だよ」
強い力で私の手を離そうとしてくるけれど私は離さなかった。
自分の腕を掴まれようと、頬を抓られようと。
絶対に、離さなかった。
「思い出して鏡くん。どうして鏡くんがこっちの部隊にいるのか。どうして、あっちに残らなかったのか」
「!」
「これは河野の最後の意思よ。その意思を親友である貴方が裏切ってどうするの?」
「っ」
「ここには鏡くんの役目がある。勿論私にも。あっちには私達の役目がない。だから、行かないで」
何も言わず、ぼろぼろと涙を流す鏡くん。
鏡くんの姿は“あの時”の河野に凄く似ていた。
動かなくなった体。私はそっと腕を離した。
「私もまだ、頭と体、それと心の行動が一致してないの。でもね、これだけはハッキリ分かる」
きっと、鏡くんも同じ気持ちのはず。
「“いつか必ず、河野の仇を取る”。同じ気持ちでしょ?」
「あぁ。勿論っ」
涙を拭い、キリっとした顔でこちらを向いた。
その瞳の奥には炎が上がっていた。
「俺は俺にしかできない役目を果たし、アルファも倒す。水谷の仇を取るまで絶対に死なない。いや、死ねない」
「うん」
「春ちゃんを守って、この国を復活させる。水谷はきっとどこからか見ててくれるだろうよ」
「そうね」
「行こう冷夏ちゃん」
「うん。仲間の死を乗り越えてこそ、私達は強くなる」
でも、まだ受け入れられていない。
けれど乗り越えないといけないの。
ねぇ、神様。
アイツを連れて行くのちょっと早かったんじゃないの?
「ばいばい、河野。またいつか会おうね」
この世での「またね」はもう叶わない。
河野は私達と分かれる時に「またね」って言わなかった。それはこういうことを想定してたからなんだ。
「いつか」
いつか、どこかで会えることを私は信じてる。
だから前へ進むの。
今はまだ厳しくても、必ず乗り越えるよ。
貴方が私の背中を押してくれることを願って。
いつかまた会えた時、貴方の死を乗り越えたはずの私を褒めてね。
「愛してたよ」
私と出会ってくれてありがとう。妹のことを誰よりも想っていてくれてありがとう。
一年弱、私の友人として助けてくれて、支えてくれてありがとう。
さようなら、愛しき人よ。
私はいつまでも、貴方のことを想っています。
「冷夏ちゃん、行こう」
「うん」
再度言われた言葉に私は強く頷き、差し出された手をしっかり握った。
その手は河野を思い出させる、優しく暖かい手だった。
「あー! 死んじゃった。“最初から始めないと”」
小さく笑う子供の声。
手にはゲーム機が握られていた。
「お、“水谷”死んじまったのか?」
「そうなんだって! 選択間違えてさー」
「お、なら俺の所に来て俺の“セーブポイント”から始めるか?」
「え、いいの!?」
「いいぜ。あそこまで行くの、結構退屈だからなー」
「やった! ありがと! “衣月”」
“水谷”と呼ばれた少年はゲーム機を起動させ、“衣月”と呼ばれた少年と一緒にゲームを始めた。
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