第三十六話 仲間の悲報
「そろそろ休憩にするか?」
「そうね」
順調に地下水路を歩いている。
もう少しで巫女の本拠地にも到着できる。
「ふぅ」
春が起きた時、「お兄ちゃんがいない」って泣いていたけれど受け入れてくれて。
今では隊員のお兄さんに懐いている。
「アイツ、今頃何やってるかなー?」
「どうやって討伐しようとか考えてるんじゃないの? 小香と不時さんと一緒に」
「たしかに。有り得るな」
笑いながら鏡くんと会話をする。
河野、今頃何してるかな? 元気にしてるかな? 怪我してないかな? なんて。
今まで全然思わなかったことを思っている。
プルルルル
「あ、不時さんからだ」
「あっちで何かあったのかもしれないな」
「そうかも」
私は電話に応答した。
「もしもし、冷夏です」
「不時だ。今、大丈夫か?」
「はい。何かありました?」
「……今どの辺りだ」
「もう少しで到着する所です」
話を逸らされた。
何かあったに違いない。
「そうか」
「あの、河野はどうですか? 怪我、してませんか?」
「今日、対空砲の移動作戦を始めた所だ」
「あ、はい」
「その作戦で五名戦死した」
「え? 戦死ですか……」
「あぁ。三名は隊員、一人は偵察。もう一人はまだ未成年だ」
「!」
「冷夏ちゃん?」
嫌な予感がする。
あっちにいる未成年っては一人しか知らない。
「君達の同級生である“河野水谷”君が戦死した」
「嘘、でしょ……」
開いた口が閉じない。
唇が、震える。
「どうした?」
私の反応を不思議に思った鏡くんが声をかけてきた。
「河野が! 河野が、死んだって……」
「は」
鏡くんも口を開いて、唖然をしていた。
「死体は回収できない。だが、亡くなる前の映像が残っている。君達が望めば送るがどうする?」
「いります。送ってください!」
「分かった」
私は電話を切った。
「水谷が死んだなんて……」
呆然としている鏡くん。
突然の親友の死に頭が追いつかないんだろう。
私は頭では理解できているけれど、受け入れたくなかった。
「河野っ」
何で、死んだの。
「来た」
ピロンと音が鳴り、動画が送られてきた。
「鏡くん。見る準備、できた?」
「……あぁ」
少し頭に河野の死が入った鏡くん。
私達は二人して、携帯の画面を見た。
『罪なのよ。人の不幸を嘲笑って。恥ずかしくないのかしら』
動画は物凄い途中から始まった。
定点からして、河野よりも目線は少し上。
目の前には聞いていた志春が映っていた。
『だからと言って、殺すのは違う』
『え?』
話の内容が読めないけれど、そんなこと今はどうでもいい。
『俺だって殺したいと思う奴は沢山いた。だけど殺さなかった。心の中で我慢し続けた』
『どうして?』
『アイツらを殺したら俺は殺された奴よりも酷い男になる。俺はアイツらよりも絶対に良い男になって、見返してやりたかったんだよ。まあ、それももうできねぇがな』
『あら』
『だから志春。その考えだけは同意できない。悪いな』
『酷いわ。やっぱり貴方のこと仲間にできない』
『そうか』
目の前にいる女、志春がどこからか刀を出した。
視点は一度、腕時計に向き、また正面を向いた。
逃げる様子は一切ない。
「水谷、逃げろ!」
もう死んでるって分かってるのにまだ生きているかのように河野にそう言う鏡くん。
『ゔ』
『あら。今回は避けなかったのね』
「河野っ」
視点が下を向いたと同時に突き刺されている刀が見えた。
『ふふ』
志春は笑い、刀を抜くと河野の体にはぽっかり穴が空いていた。
「っ」
叫びそうになった口を手で押さえた。
涙が出そうになる眉間をもう片方の手で押さえた。
『っはは。お前の思いもあながち間違ってはいねぇよ』
その声はとても苦しそうだった。
『貴方……』
『同意できなくて……悪いな。それとあと一つ』
視点が急に志春の方へ動いた。
『春を、殺さないでくれ』
「嫌だ……」
もう動画を見たくない。
苦しい。涙が零れる。
「ちゃんと見てろよ、冷夏ちゃん。水谷の最期をこの目に焼き付けるんだ」
そういう鏡くんの目には今にも零れそうなぐらい涙が溜まっていた。
歯を食いしばり、眉間にも皺が寄っている。
必死で、我慢しているんだ。
「うんっ」
動画の再生ボタンを押す。
『その血……拭えよ』
志春のフェイスベールが捲れ、笑っている口元とその周辺に付着している血が見えた。
気味の悪い笑顔、不気味な雰囲気。
『じゃあな、志春』
その声と同時に視点が急激に動き、カメラが転がったのか河野の顔が見えた。
苦しそうに息をしており、刺された辺りを押さえていた。
地面にはおびただしい量の血が流れていた。
『水谷様っ!』
志春が河野の名を叫んだ。
「ははっ。俺と同じ……』
『ごめんなさい。ごめんなさいっ』
ただ志春の泣いている声しか聞こえない。
『カメラ、カメラ……』
河野は外れたカメラの存在に気づいたのか、カメラを手に取り、元の位置に戻したようだ。
視点は河野と同じように空を向いていた。
それは星が綺麗に輝く、美しい夜空だった。
『すめらぎ、いづ……き、はる』
「っ」
息絶え絶えで苦しいはずなのに、呼ばれた私達の名前。
か細かったけど、私達の耳にはハッキリ聞こえた。
「バカ」
今までからかうようにしか呼ばなかった私の名前。
馬鹿にしたようにフルネームで呼ぶけれど、一度も真剣に呼んでくれなかった。
初めて真剣に、それも単体で“皇”って呼ばれた。
「最期に言うなんて、卑怯じゃん……!」
涙が止まらなかった。
ごめん。
最期をこんな形で見届けてしまうなんて、本当にごめんね、水谷。




