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黄昏時、俺は生きた  作者: 田中ソラ
第二章 作戦
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第二十九話 巫女

二話更新が続くと思います。

「お兄さん」


「!」


 喋った。


「お兄さん、“春ちゃん”って名前の女の子知らない?」


 凛とした鈴のような声からは「春」という名が。


「知らないな。お前の正体は何だ」


「知らないのなら貴方に用はないわ。死んでちょうだい」


『水谷ーーーー!!』


 無線機から聞こえる衣月の焦っている声。


 だが、俺はどうだ。先ほどの恐怖心はなくなり、目の前の女に殺されないように行動しようとしている。


 コイツに春を殺されてたまるか。


「さようなら」


 羽で距離を詰め、どこから出したのか分からない刀で俺の心臓あたりを狙ってきた。


「させるかっ」


 俺は必死の思いでその攻撃を避けた。


「あら。これを避けるのね」


 少し驚いたような表情をしている目の前の女。


 案外分かりやすい。


「貴方凄いわ。ねぇ、私の仲間にならない?」


「仲間だと」


「えぇ。私、志春(ししゅん)って言うの。アルファを全滅させるために女王の器となる春ちゃんって女の子を探してるのよ。貴方、優秀だし都合が良いわ」


「お前は何故女王の器を狙う。お前は何者だ」


「簡単に説明してあげると、ここに来たアルファの女王の器だった巫女よ。たしか、千年以上前だったかしら? その時のアルファに取り込まれて死んだわ」


「へぇ」


「生き残った誰かが巫女の力を引き継いでくれて、今の時代に子孫がいるはずだわ。その子孫と合流して春ちゃんを殺すの」


「春を殺して、お前にメリットはあるのか。死んだはずのお前に」


「勿論あるわよ。恨みよ、恨み。それに器さえいなくなれば後は今の女王が寿命で死ぬのを待つのみ! 滑稽でしょ?」


「それは分からねぇよ。その春を守り通すって方法はないのか」


「そんなの無理よ、無理。いくら守ったって最後は取り込まれちゃう。人の力ではアルファの力に敵わないのよ」


「そんなのやってみねぇと分からねぇだろ」


「それは私の時にやったわよ。私と同じぐらい強い巫女に守られ、日本に結界を張って耐久戦をしていたら思わぬ裏切りにあって私はアルファに取り込まれた。裏切りがなくてもいずれ巫女達は殺され、私も取り込まれていたでしょうね」


「結界か。その結界は何だ」


「古くから日本に伝わる護身術よ。できる者は限られていたけれど結界を張れば誰も入ってこれない。最強の術のはずだったわ」


「それが破られた、と」


「そうよ。取り込まれてる瞬間私は誓ったのよ。アルファを絶対に全滅させてやるってね!」


「なるほどな。お前の事情はよく分かった。だが、春を殺すっていうのだけは納得できねぇな」


「物分りの悪い子ね。あら」


 女の反応を見て、俺は咄嗟に腕時計を確認した。


 時刻は四時過ぎ。そろそろ日が昇る。


「アルファが活動しだす時間ね。返事はまたもらいにくるわ。お兄さん」


「おい!」


 羽を羽ばたかせ、空へ飛んでいった。


 最後に見た顔は非常に怒りを覚えるぐらい、生意気な顔だった。


「くそ」


 ここから本部へ戻ることは不可能だ。


 俺は諦め、近くのマンホールを探し、その中へ入ることにした。


「衣月、生きてるか?」


 無線機で衣月に声をかける。


『……一応。こっちも遠くて本部に戻れそうにないからマンホールに隠れてる』


「よし」


『水谷。無事で良かった……』


「あぁ。あの羽のついた人型の名は志春。千年以上前にアルファに取り込まれた巫女だってよ」


「おぉ……相変わらず情報量多いな』


「本部は俺のカメラ越しにこの状況や会話を見てるだろうから説明はいらねぇだろう」


『たしかにな。部隊は壊滅したが良い情報を手に入れられたな』


「……あぁ」


 だが果たして、命と引き換えにして手に入れた情報は良いものなのか。


 これからの俺達に必要になると思うけど今知ることではないのか。あの女、志春は果たして春以外に害はあるのか。


 今の俺には分からなかった。





「よく戻った」


「「はっ」」


 日が落ち、本部へ戻ると最高司令官である不時さんが出迎えた。


「あの四人の死は居た堪れないが今は探して火葬をしている余裕はない」


「だな」


「アルファの女王の器であり、アルファと戦った巫女志春はカメラ越しに見せさせもらった。君の感想を聞きたい」


「正面から見る限り、子供ではないけれど大人でもない。だけどどこか独特な雰囲気を持っている気味の悪い女だった」


「なるほど」


「ここの気配を察知すれば、その春ちゃんを襲いに来るのと私達にも被害がくるかもしれない。これ以上戦力を減らすわけにはいかん」


「あぁ。だがもう少しで優秀な同級生と連れが到着するはずだ。アイツは俺よりも頭が回る。何か良い策を練ってくれるだろう」


「そうか」


 話を終え、俺達は戦闘服を脱ぎ元々着ていた作業着へ着替えた。


「冷夏ちゃん、いつぐらいになるって?」


「早くて今日。遅くても明日だって」


「状況的にも、早く到着できたらいいな」


「そうだな」


 早く来て、この状況を打開する策を考えてくれ、冷夏。


 お前任せじゃ駄目だけど、お前にしか考えられない作戦が必ずあるはずだ。


 頼む……。

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